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【主張】慰安婦番組訴訟 NHKと朝日は再検証を
慰安婦問題を扱ったNHK番組の取材に協力した女性団体が「政治的圧力で番組が改変された」として、NHKなどに損害賠償を求めた訴訟で、最高裁はNHKなどに賠償を命じた2審東京高裁の判決を破棄し、女性団体の請求を全面的に退けた。
この訴訟では、取材を受けた側の番組内容への期待権が法的に保護されるべきか否かが争われた。最高裁は、取材対象者に格段の負担を生ずる場合などを除き、「原則として法的保護の対象とはならない」との初判断を示した。番組編集の自律性と表現の自由を尊重した妥当な判断である。
もし、2審判決のように、期待権が広範囲に認められれば、報道機関が取材対象者のいいなりになり、編集・表現の自由が大幅に制約されかねないからだ。
2審判決は、NHKが番組内容変更を女性団体に説明する義務を怠ったとしたが、最高裁は、事前の約束などがない限り、「内容が変更されたことを原告に説明すべき法的義務はない」とした。これも、当然の判断である。
2審判決は「国会議員らの発言を(NHKが)忖度(そんたく)し、当たり障りのないように番組を改変した」と認定したが、最高裁はこの問題に言及しなかった。争点の判断に必要なかったためとみられる。
この問題では、訴訟とは別に、朝日新聞とNHKの報道のあり方が問われた。
問題の番組は平成13年1月30日にNHK教育テレビで放送され、昭和天皇を「強姦(ごうかん)と性奴隷制」の責任で弁護人なしに裁いた民間法廷を取り上げた内容だった。
朝日は4年後の平成17年1月12日付朝刊で、放送前に自民党の中川昭一氏(当時、経済産業相)と安倍晋三氏(同、幹事長代理)がNHK幹部を呼び、「偏った内容だ」と指摘し、番組内容が変更された、と報じた。
これに対し、中川、安倍両氏は「呼び出したのではなく、NHK幹部の方から会いにきた」「(中川氏が)会ったのは放送後」と記事の核心部分を否定した。
朝日は記事の真実性を立証できず、「取材不足」を認めたが、訂正・謝罪をしていない。
NHKも、番組の内容が公共放送の教育番組として適切だったか否かの検証を行っていない。
朝日とNHKは最高裁判決を機に、もう一度、自らの記事・番組を謙虚に振り返るべきだ。