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【防衛利権 蜜月の構図】

今こそ政治任用制? 官僚、権限の割に軽い責任

2007年11月1日

 「私まで疑われてしまう」。福田康夫首相のせりふが「力関係」を象徴している。そう、政治家に号令をかけられれば、官僚は大いにへりくだるが、肝心なことは教えない−こんな関係を。例えば、インド洋上での給油量隠ぺい問題や薬害肝炎問題。かつての薬害エイズ事件。官僚が巨大権限を握りながら失政の責は問われないというアンバランスを是正するすべは?

 守屋武昌前防衛事務次官が商社の接待漬けとなった問題が噴出した防衛省ひとつをとっても、政府首脳や担当閣僚が「知らなかった」と述べる異常事態になっている。

 冒頭の福田氏のせりふは、インド洋での給油量をめぐる虚偽情報の“片棒”をかつがされた嘆き節。「とんでもないことをしてくれた。そういうことをすると組織全体、私まで疑われてしまう」と述べた。

 ほかにも官僚の不手際、不祥事は絶えないが、省庁幹部が辞任するのはまれで、「権力の巨大さに応じた責任を取らせるべきだ」との批判が強まっている。

 その答えを「政治任用制度」の導入に求めるのは千葉大法経学部の新藤宗幸教授(行政学)。「『行政の継続性』の名のもとに、キャリア官僚たちは、OBとも結びつきながら、事務次官から幹部候補生まで(のポスト)を支配する構造を続けてきた。これが霞が関の限界を生み、薬害をはじめ自分たちに都合の悪いことは外部に出ない原因になってきた」と話し、政治主導の政策決定が必要と説く。

 民主党も、鳩山由紀夫幹事長が2002年に「私が政権をとったら省庁の局長以上には全員辞表を提出してもらう」と発言。基本政策に同意した者だけの再登用や事務次官会議廃止などを提唱。「2007政策リスト300」でも、政治任用制の拡大を掲げ、公務員に限らず一般からも積極的に採用することをうたっている。

 ■米英は“先進国”

 諸外国をみると、政治任用の割合が最も高いのは米国で、長官から局長クラスまで約3000人を数える。権限は民間から登用される大統領スタッフに集中し、政権交代とともに顔ぶれががらっと変わる。官僚の最高ポストは局次長どまりだ。

 英国では、政策決定や予算づくりの折衝にタッチできるのは大臣・副大臣ら政治家。これを、大臣が各2人まで任用できる約80人の特別顧問がサポートする。米国に比べれば、官僚のエリート度が高く事務次官級にまでなれるが、役割は政治家への情報提供、政治家が決めた政策の執行に限定され、政治家との接触も制限されている。

 英国勤務経験がある中央省庁幹部は「自分たち官僚が政策をつくるものだと思っていたが、英国は全く違った。物事を決めるのも、責任を取るのも政治家。官僚は言われたことを実行するだけ。決定権がないから、業界はもちろん、特定企業からの接待もない」と、日本との違いを語る。

 民主党で政治任用制度導入論の旗振り役を果たしてきた松井孝治参院議員は、自らも通産省(現・経済産業省)出身だ。「今は政治主導ではなく、完全に官僚主導。日本の官僚は半分以上“政治家”なんですよ。政治家がすべき判断や調整をし、政治家の根回しまでしている。官僚におんぶに抱っこで、本来は官僚が踏み込むべきではない領域までやらせてきた政治家にも問題がある。政治家は施策の立案・実現のためにブレーンやシンクタンクを持つべきだ」と話す。

 「官僚の仕事は、あくまでも政治家が政治判断をする材料を調えること。官僚の出したさまざまな選択肢をみて、政治家が今何が必要かと判断をするのがあるべき姿。そういう構造になっていれば守屋氏のように君臨するドンはそうそう生まれない。政治任用はあるべき姿にするための一つの手段」

 ■霞が関は懐疑的

 では、日本で政治任用はうまく機能するのか。

 前出の省庁幹部は「そういう方向に行こうとしているのは分かるが、何もかもが中途半端」と懐疑的。国会に出される法案の多くが政府提案であることなどを挙げ「与野党とも政策は官僚頼み。そのくせ、失敗した時だけ官僚をたたく。権限がある代わり、政治家が責任も取る英国とは大違い。官僚から権限を取り上げてもいいが、官僚は何も考えず、言われたことしかしなくなる。それで政治家はやっていけるのかな」と笑みを浮かべた。

 しかし、新藤教授は各省の事務次官の廃止を提唱する。閣議にかけられる重要事項を事務次官たちがおぜん立てしてきた実態が政治主導を阻んだと指摘。「次官を廃止すれば、副大臣が機能し始める。さらに局長級以上を政治任用にすれば、霞が関の閉鎖体質は大きく変わる。薬害などを繰り返さない基礎的条件はできる」と強調する。

 閣僚がころころ代わる状況も「政治が弱くなって、官僚がほくそ笑むだけ」と新藤教授。首相在任中は閣僚を代えないことが原則だと付け加えた。

 ただ、米国と経済交渉に当たってきた元局長は「どの国の制度も、その国の歴史の中で納まってきた。一部だけ変えても駄目。内閣総理大臣補佐官だってうまく機能しないから、福田内閣になって人数を大幅削減した」とくぎを刺し、「日本の局長は年間の半分は国会対応に追われ、米国のように議会証言は年数回という国と違う。国会答弁は過去の経過も踏まえなければならず、わずか2、3年のために民間から来た人にそれができるのか」。

 その上で、こんな殺し文句も付け加えた。「へたに目立つ人を局長に据えれば、今度は大臣が怒りだす。その点、官僚は、手柄を大臣に差し出す心得ができていますよ」

 

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