教育再生会議の最終報告全文は次の通り。
社会総がかりで教育再生を―教育再生の実効性の担保のために―
はじめに
教育再生会議は、我が国の教育の在り方を根本から見直す作業を進め、これまで第一次報告から第三次報告まで三つの提言をとりまとめてきました。
教育再生の原点は、保護者はもとより、国民、社会全体から信頼され、期待される教育の実現です。教育再生会議の委員は、それぞれの立場から、現在の日本の教育をどのように再生させるべきか議論してきました。その議論の結晶が第一次から第三次までの報告です。国民の皆様も、国や地方の行政の方々も、校長・教員はじめ学校関係者も大学関係者、保護者や地域の方々も、これらの報告をしっかり受け止めて頂き、国民一人ひとりがあらゆる場を通じて、教育再生に参画することをお願いしたいと思います。
これまで「臨時教育審議会」、「教育改革国民会議」を通じ、日本の教育制度の根幹に関る改革が提言されてきましたが、残念ながら、それらの提言は十分教育現場に反映されているとは言い難い状況にあります。
こうした状況を踏まえ、教育再生会議では、最終報告にあたり第一次報告から第三次報告までの提言の実効性の担保を重視しています。「生活者重視」、すなわち教育の受益者である全ての子供や若者たち、保護者の立場に立った教育再生、自立して生きる力と、共に生きる心をもった人材を育成する教育再生が着実に推進されることを強く期待いたします。
教育は国家百年の大計です。知・徳・体のバランスのとれた教育環境が整備され、健やかな子供が育まれることは国民の願いです。特に、最近の社会状況に鑑み、学校教育における徳育の充実が不可欠です。さらに、「知」の大競争がグローバルに進む時代にあって、今、直ちに教育を抜本的に改革しなければ、日本はこの厳しい国際競争から取り残される恐れがあります。効率化を徹底しながら、メリハリを付けて教育再生に真に必要な予算について財源を確保し、投資を行う必要があります。
1、提言の実現に向けて
教育再生のための課題は多岐にわたります。私たちは、教育内容の改革、教員の質の向上、教育システムの改革、社会総がかりでの国民的参画、改革の具体的実践の重視を柱として、二十一世紀における我が国の教育を再生していく上で重要と考える事項に絞って提言を行ってきました。
これら第一次報告から第三次報告までの提言は、全て具体的に実行されてこそ初めて意味を持ちます。提言を実行するための具体的な動きが国、地方公共団体、学校、家庭、地域社会、企業等、社会全体で始まることが大切で、これらの取組をフォローアップしていくことが求められます。その中で主な項目を挙げれば、次の通りです。
【教育内容】
(心身ともに健やかな徳のある人間を育てる)
○徳育を「教科」として充実させ、自分を見つめ、他を思いやり、感性豊かな心を育てるとともに人間として必要な規範意識を学校でしっかり身に付けさせる。
○家庭、地域、学校が協力して「社会総がかり」で、心身ともに健やかな徳のある人間を育てる。
○体育を通じて身体を鍛え、健やかな心を育む。
○「いじめ」、「暴力」を絶対に許さない、安心して学べる規律ある教室にする。
○体験活動、スポーツ、芸術文化活動に積極的に取り組み、幼児教育を重視し、楽しく充実した学校生活を送れるようにするとともに、ボランティアや奉仕活動を充実し、人、自然、社会、世界と共に生きる心を育てる。
(学力の向上に徹底的に取り組む)
○「ゆとり教育」を見直し、授業時数を増加する。夏休みや土曜日の活用など弾力的な時間設定で基礎学力の向上を図る。
○教科書の内容を充実させ、発展学習や補充学習に役立つものとする。伸びる子は伸ばし、理解に時間のかかる子供には丁寧に教える。学習指導要領を随時見直す。
○英語教育を抜本的に改革するため、小学校から英語教育の指導を可能とし、中学校・高校・大学の英語教育の抜本的充実を図る。
○子供たちの学習へのモティベーションを高めるため、分かりやすく魅力のある授業を工夫する。宿題・テストの活用、朝の読書活動、優れた先輩・社会人・大学教授などの授業を導入し「学習意欲」「学習習慣」を育てる。
○「画一主義」、「形式主義」を改め、子供たち一人ひとりの可能性を最大限伸ばす。
○大学と教育委員会等のネットワークである「大学発教育支援コンソーシアム」を推進し、大学の英知を学校教育の改善に活かす。
【教育現場】保護者の信頼に応える学校づくり
○一人ひとりの子供の能力を最大限伸ばし、卒業後にこの学校で学んで良かったと心から思える学校づくりを目指す。
○「閉鎖性」、「隠蔽主義」を排し、地域や保護者に出来るだけ情報を公開し、多様な人材が学校に関わり改革を支援できるようにする。
○「悪平等」を排し、教育現場の切磋琢磨を促し、頑張る学校、教員を支援する。
○「責任体制」を確立し、危機管理を徹底するとともに、校長を中心としたマネジメント体制を構築する。
○文部科学省と教育委員会は学校を信頼し、各学校の前向きの改革・改善の努力を積極的に支援する。
【教育支援システム】
○「責任と権限」を明確にし、国、教育委員会、学校の役割分担を引き続き見直す。
○「事なかれ主義」を改め、教育委員会は、地域に対する説明責任を全うし、学校の課題に機動的に対応する。
○行政の「縦割り」を打破し、教育、福祉、警察、労働、法務等関連するすべての分野の行政が協力して総合的に青少年の健全育成を図る。
【大学・大学院改革】世界をリードする大学・大学院を目指す
○大学は「教育の質」を高め、成績評価の厳格化を図り、卒業生の質を保証する。
○大学は教養教育を重視し、社会や産業界、地方公共団体との連携を深め、社会人としての基礎的能力と専門的能力を備えた卒業生を送り出す。
○大学は学長のリーダーシップにより改革を推進するとともに、「学部の壁」を破り、新しい学問分野の開拓・創出や社会の発展に寄与するため、教育組織を再構築する。
○大学院は国際公募による第一級の教員の採用と国内外からの優秀な学生の獲得に努力し、国際競争に勝ち抜ける世界トップレベルの教育研究水準を目指す。
○国公私立大学の連携により、国公私を通じた大学院の共同設置や地域における学部教育の共同実施を推進する。
○国立大学法人は教育水準の向上のため必要に応じ「定員縮減」や「再編統合」を推進する。
○大学・大学院の国際競争力強化のため、改革の推進とともに、高等教育に対する投資を充実する。競争的資金の充実とともに現在の基盤的経費の取扱いはしかるべき時期に見直す。
【社会総がかり】
○国民一人ひとりが「当事者意識」をもって、学校、家庭、地域、企業、団体、メディア、行政などあらゆる主体がそれぞれの役割を自覚し、教育再生に積極的に参画する。
○それぞれが「連携」を図り、責務を果たすことによって、以上のような教育再生を実現する。
2、これまでに実施された提言実現のための取組
これまで教育再生会議の行ってきた提言実行のため、法令等の制度改革、予算の確保など、国、都道府県、市町村、関係団体をはじめ、社会全体で具体的な取組が進んでいます。「学校問題解決支援チーム」の設置など、地域レベルでの取組も行われています。
ただ、これらの改革が、真に教育再生のための動きとなるためには、単に制度を改革する、予算を確保するというだけでなく、その制度や予算が教育再生の目的や趣旨に沿って、教育の現場で実施されることが重要です。次のようなこれまでの国レベルの主な取組を含め、施策の具体化とともに、施策が実際にどのように実施されているかをフォローアップしていくことが求められます。
〈教育再生会議の主な提言項目〉
▽徳育、体験活動、親の学びと子育てなど心と体の調和の取れた人間形成
▽いじめ問題への対応
▽ゆとり教育の見直し、学力の向上
▽教員の質の向上
▽学校の責任体制の確立
▽教育委員会の改革
▽大学・大学院の改革
▽社会総がかりでの対応
▽教育財政の在り方
〈これまでに国レベルで実現した主な事項〉(☆は、法令改正事項)
○平成二十年度予算案
・子ども農山漁村交流プロジェクト(総務、文部科学、農林水産省)
・放課後子どもプランの推進(文部科学、厚生労働省)
・学校支援地域本部事業
○深夜、休日を含む「二十四時間いじめ相談ダイヤル」の開始(平成十九年二月)
○暴力など反社会的行動を取る子供に対する指導についての昭和二十年代の通知の見直し(出席停止制度や児童生徒への懲戒)(平成十九年二月)
○学習指導要領の改訂についての中央教育審議会答申(平成二十年一月)
・国語、社会、算数・数学、理科、英語、体育の授業時数の10%増
○平成二十年度予算案
・特別支援教育の充実のための教職員配置
・小学校専科教員等のための非常勤講師の活用
☆教育職員免許法等の改正(平成十九年通常国会における教育三法の成立)
・教員免許更新制の導入
・指導が不適切な教員の人事管理の厳格化
○平成二十年度予算案
・メリハリある教員給与(部活動手当の引上げ、副校長、主幹教諭の処遇)
☆学校教育法の改正(平成十九年通常国会における教育三法の成立)
・副校長、主幹教諭等の職の新設
○平成二十年度予算案
・主幹教諭の配置の充実
☆地方教育行政の組織及び運営に関する法律の改正(平成十九年通常国会における教育三法の成立)
・教育委員会の活動状況の点検・評価
・文部科学大臣による是正・改善の指示、是正の要求
・教育委員の数の弾力化、保護者の選任の義務化
・同一市町村内の転任は市町村教育委員会の内申に基づくこと
・市町村は、教育委員会の共同設置等を進めること
☆九月入学の促進のため、学校教育法施行規則の改正により、大学の四月入学原則を撤廃(平成十九年十二月)
○大学と企業等が意見交換する「産学人材育成パートナーシップ」の創設(平成十九年十月)(文部科学、経済産業省)
○平成二十年度予算案
・グローバルCOEプログラムの拡充
○日本経団連「企業行動憲章実行の手引き」の改訂(有害情報対策、ワーク・ライフ・バランス)(平成十九年四月)
○ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議による「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」の制定(平成十九年十二月)(内閣府)
○総務大臣による携帯電話各社へのフィルタリングサービス導入促進の要請(平成十九年十二月)
○「経済財政改革の基本方針(骨太の方針)二〇〇七」(平成十九年六月)への反映、平成二十年度予算案への反映
3、提言の実効性の担保のために
教育再生会議の役割はこの最終報告で終了します。今後最も重要なことはこれまで報告書で提言した事項の制度化・仕組みづくりを進め、具体的な教育現場での改革に如何に結びつけるか、提言の実現とフォローアップです。
文部科学省をはじめ、関係府省においては、実施計画を作成し、提言の内容を着実に実行することが必要です。
また、第一次から第三次報告が提言に終わることなく、教育再生が現実のものとなるよう、国、地方公共団体、学校等における実施状況を評価し、実効性を担保するため新たな会議を内閣に設けることが極めて重要です。
六十年ぶりに改正された教育基本法を踏まえ、教育三法の施行や教育振興基本計画の策定など、いよいよ教育再生の本格的な実施段階に入ります。教育再生の鍵を握るのは、これからの実施段階です。
一人ひとりかけがえのない存在である、全ての子供たち、若者たちの未来のために、そしてグローバル時代の我が国の健全な発展のために、具体的に教育再生が実現していくことを望んでやみません。
(別添)フォローアップのためのチェックリスト
第一次報告から第三次報告までの提言は、実行されてこそ初めて意味があります。フォローアップに際してチェックすべき主な項目は次の通りです。
〈チェック項目と実施主体〉
▽徳育と体育の充実
【直ちに実施に取りかかるべき事項】
(1)徳育の充実(「新たな枠組み」による教科化、多様な教科書・教材)=国・教育委員会・学校
(2)体験活動の推進(小学校での自然体験・農山漁村体験、中学校での社会体験、高等学校での奉仕活動)=国・教育委員会・学校
(3)いじめ問題への対応(反社会的行動を繰り返す子供への毅然とした指導など)=教育委員会・学校
(4)体力の向上、学校給食を通じた食育=国・教育委員会・学校
【検討を開始すべき事項】
(5)国のスポーツ振興策の在り方(スポーツ庁の創設など)=国
▽学力の向上
【直ちに実施に取りかかるべき事項】
(1)ゆとり教育の見直し、学力向上の具体策(全国学力・学習状況調査の結果検証、授業時間の増、学習指導要領の弾力化、教科書の質量充実、習熟度別・少人数指導、特別支援教育体制の強化など)=国・教育委員会・学校
(2)小学校の専科教員の配置(理科、算数、体育、芸術など)=国・教育委員会
(3)英語教育、理科教育の抜本的改革=国・教育委員会・学校
【検討を開始すべき事項】
(4)「六―三―三―四制」の弾力化(小中一貫校、飛び級の検討、大学への飛び入学の促進など)=国・大学
▽教員の質の向上
【直ちに実施に取りかかるべき事項】
(1)教員免許更新制、教員評価、指導力不足認定、分限の厳格化、メリハリある教員給与(部活動手当の引上げ、副校長、主幹教諭の処遇など)=国・教育委員会
(2)社会人等の大量採用(特別免許状、特別非常勤講師により、今後五年間で二割以上を目標に)=教育委員会
(3)IT化、共同事務処理など教員の事務負担の軽減=国・教育委員会
【検討を開始すべき事項】
(4)めりはりある教員給与体系の実現(教職調整額の見直し)=国
(5)教員養成の抜本的な改革=国
▽教育システムの改革
【直ちに実施に取りかかるべき事項】
(1)学校の責任体制(副校長、主幹教諭等の配置、校長裁量経費、教員の公募制など校長の裁量・権限の拡大や任期の延長、優れた民間人の校長等への登用、組合との関係の是正)=国・教育委員会・学校
(2)現場の自主性を活かすシステム(学校の情報公開、第三者評価、「学校選択制と児童生徒数を勘案した予算配分による学校改善システム」)=国・教育委員会・学校
(3)学校の適正配置の推進=国・教育委員会
(4)教育委員会の改革(いじめ対応、情報公開、住民、議会による検証、小規模市町村教育委員会の広域化など)=教育委員会・地方公共団体
(5)学校問題解決支援チームの五年以内の全国設置=教育委員会
(6)公教育費マップ(地方交付税措置されている図書費、教材費、IT整備費、放課後子どもプラン実施費などの地方における措置状況)の作成・公表=国
(7)「大学発教育支援コンソーシアム」構想の推進=大学・教育委員会等
【検討を開始すべき事項】
(8)広域人事の担保と市町村教育委員会への人事権の委譲=国
▽大学・大学院の改革
【直ちに実施に取りかかるべき事項】
(1)大学教育の質の保証(卒業認定の厳格化)=大学
(2)国際化を通じた大学・大学院改革(九月入学の大幅促進、英語による授業の大幅増加―当面30%を目指す)=大学
(3)世界トップレベルの大学院教育(国内外に開かれた入学者選抜、コースワーク、大学院への早期入学、大学院生への経済的支援)=国・大学
(4)国立大学法人の更なる改革(国立大学・学部の再編統合、学長選考などマネジメント改革、学部の壁を越えた教育体制)=国・大学
(5)地方の大学教育の充実(国公私を通じたコンソーシアム、大学院研究科等の共同設置)=国・大学
(6)大学・大学院の適正な評価と高等教育への投資の充実(基盤的経費の確実な措置、競争的資金の拡充、評価に基づく重点的な配分、大学の自助努力を可能とするシステム)=国
【検討を開始すべき事項】
(7)大学全入時代の大学入試の在り方=国・大学
▽社会総がかりでの対応
【直ちに実施に取りかかるべき事項】
(1)家庭・地域・学校の連携の強化(放課後子どもプランの全国での完全実施、学校支援地域本部の全国展開、親の学び)=国・地方公共団体・家庭・地域・学校
(2)俗悪番組、出版物、ゲームの有害情報に対するメディアやスポンサー企業の自粛・自主規制=企業
(3)ワーク・ライフ・バランスの促進に向けた環境作り=国・地方公共団体・企業
(4)社会総がかりでのネットワークの形成=地方公共団体・企業・各種団体等
【検討を開始すべき事項】
(5)子供、若者、家庭に対する教育・福祉・警察・労働・法務等の連携による総合支援=国
(6)携帯電話のフィルタリング義務付け=国
(7)幼児教育の充実(幼児教育の無償化)=国
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