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社説:秋葉原通り魔 事件続発の原因究明を急げ

 買い物客でにぎわう東京・秋葉原の歩行者天国にトラックで突っ込み、人々をなぎ倒した上、鋭利なナイフで次々に襲いかかって7人を殺害、10人に重軽傷を負わせるという通り魔事件が起きた。冷酷、残忍な凶行に、驚愕(きょうがく)と憤怒の念を禁じ得ない。理不尽にも犠牲になった被害者らの恐ろしさや無念さはいかばかりだったろう。許すべからざる無差別殺傷事件である。

 逮捕された派遣会社社員は「世の中が嫌になった。誰でもよかった」などと供述しているという。携帯電話の掲示板で予告し、静岡からレンタカーで上京して臨んだ事実からは、計画性と(執拗しつよう)な殺意をうかがわせる。若者の情報の発信地で犯行に及んだのは、ネット社会の影響を受けたせいだろうか。警視庁は動機の解明を徹底してほしい。

 通り魔事件は、なぜか新たな事件を誘発する。今回の事件が7年前の大阪・池田小の児童殺傷事件と同じ日に起きたのは不気味だ。人込みに車で突入した上で刃物を振り回す手口は、9年前の下関通り魔殺人と符合する。下関の犯行は、3週間前の東京・池袋の通り魔殺人に触発されたことが判明してもいる。

 それだけに、事件の多発が気がかりだ。1月には東京・品川で17歳の少年が5人に切りつけ、3月には茨城・土浦で、殺人容疑で指名手配中の男が8人を殺傷したばかりでもある。警察も市民も、模倣犯への警戒を怠ってはならない。

 刃物が繰り返し凶悪事件で使われているのに、軍用ナイフまでが事実上野放しにされてきたことには疑問なしとしない。殺傷力が強く、日常生活では必要性の低い刃物については、銃器に準じた取り締まりを検討すべきではないか。一定の種類の刃物を製造、販売、譲渡する際に、せめて身元を確認するような規制があれば、抑止効果が期待できよう。警察が銃刀法に基づく取り締まりを強化すべきは言うまでもない。

 かつては変質者の犯罪とされた通り魔に、逮捕覚悟で社会へのうっ憤を晴らそうとする“自爆テロ型”の犯行が目立つことにも注意したい。いかなる理由があろうと言い訳とならないことはもちろんだが、いわゆる格差の拡大によるゆがみが、犯行の陰で作用している可能性は否めない。

 多くの容疑者らが、犯行前に孤立感を深めていることにも注視したい。自殺の増加とも通底していそうだが、都市化や就労構造の変化などが進む中で、社会としての包容力が弱まっていることが災いしていないか。

 81年に東京・深川で母子らが殺傷された後、警察庁は多くの通り魔事件を分析、結果を発表したが、今こそ徹底した検証と再発防止策が必要だ。通り魔を常軌を逸した者の犯行と片付けているだけでは、惨劇の再来を防ぎ得ない。

毎日新聞 2008年6月10日 0時13分

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