『性奴隷ケンイチ』

 

 

 

「お帰りなさいご主人様。」

 

愛くるしい顔立ちの少年が玄関で出迎えた。

少年はほぼ全裸に近い格好で身に着けているのは薄いエプロンだけだ。

年は16、17歳くらいだろうか。

玄関から帰ってきた男は無言でネクタイを緩めると、奥の部屋へと足を運んだ。

少年は後を追いかける。

 

「ケンイチ、いい子にしていたかい?」

「はいっ、ご主人様!」

 

ケンイチの主人裕也がやさしく尋ねた。

それにケンイチが元気よく答えるとエプロンをめくった。

 

「ご主人様があまり待たせるので、こんなんなっちゃいました。」

 

舌を突き出し、上目遣いに見上げてくる。

ケンイチのアナルには極太のバイブが突き刺さっている。

裕也が出かける前に、挿れておけ、と命令したものだ。

ケンイチのペニスは硬く天を指している。

すでに先走りで濡れている。

 

「早く、くださいよぉ。」

 

裕也は黙ってケンイチのペニスに触れた。

 

「はぁんっ!」

 

ケンイチが鼻にかかった甘い吐息をもらす。

裕也が耳元で囁いた。

 

「すごく可愛いよ。」

「あ、ぁぁぁっ!ご主人さまぁ!。」

 

裕也がケンイチのペニスを強く握ると、たまらず声を漏らした。

膝ががくがくする。

ケンイチのアナルに入ったバイブはまだ振動している。

裕也は微笑むとケンイチに命令をした。

 

「ついといで。僕の部屋までイかないようにね。」

「は、い。」

 

ケンイチはおとなしく裕也の後を付いて行く。

裕也が部屋に入り、机の引き出しを開けると、まち針を数本取り出した。

ケンイチが不安そうな顔で見上げてくる。

 

「ごっ、ご主人様?」

 

裕也は黙って笑うと、まち針を一本尿道に付き立てた。

たまらずケンイチが悲鳴を上げる。

 

「ひゃぁぁ!」

 

かまわず裕也はケンイチの尿道にまち針を次々と刺していった。

ケンイチが痛みに泣き出す。

 

「ご主人様ぁ、許してくださ、い。」

「許して、ね。感じてんだろ。」

「ううぅ。」

 

裕也の言うとおり、ケンイチのペニスは硬く天を指したままだ。

ひくひくとケンイチのペニスが小刻みに痙攣する。

 

「後ろ、早く欲しいんだろ。」

「は、い。欲しいです。」

「ちゃんと言ってごらん。僕の何がどこに欲しいのか。」

 

ケンイチは顔を赤くさせると、少し間をおいていった。

 

「ご主人様の、ち●●が欲しい、です。僕、のいやらしい、ケツま●●こ、にぶち込んで、くださ、い。」

 

羞恥に染まった顔がなんともいやらしく、裕也は舌なめずりをした。

ケンイチの尻を両手で掴むと左右に広げた。

ケンイチのアナルにペニスを押し当て、一思いに挿入した。

途中で一度ケンイチがイッたらしく、精液がまち針を伝い流れてきた。

 

「ふあっ、あ、あぁぁぁああああああ!」

 

裕也が腰を動かし始めるとケンイチがたまらず声を上げた。

自らも裕也の動きに合わせて腰を振る。

いやらしい、だの、淫乱、だの耳元で囁かれたが、その言葉がよりいっそう興奮を高めていく。

広い部屋には荒い息遣いと喘ぎ声と肌を打つ乾いた音しかしない。

 

「いっ、いくぅーーーっ!いっちゃいます、ごしゅじんさまぁ!あぁぁぁぁああああああ!!」

「おおう!」

 

ケンイチと裕也の絶叫が重なるようにして二人は同時にイった。

 


『お風呂』





「ご主人様〜vvお風呂一緒に入りませんか?体洗ってあげますよ。」

「何?ソープごっこでもすんの?」

「えへへ〜。」

脱衣所でケンイチが裕也の服を脱がす。

たまには変わった趣向のえっちがしたいらしいが、いつも変わっていると思う。

今回のはまだましなほうだ。

ケンイチが裕也の体を石鹸で楽しげに洗う。

「気持ちいいですか?」

「気持ちいいよ。俺も洗ったげようか?」

「へっ?きゃんっ。」

あっという間にケンイチは裕也の腕の中に納まってしまった。

石鹸を付けられ強制的に洗われる。

「ふっ、ん。」

くすぐったい刺激に慣れず甘い声を漏らした。

「ずいぶん可愛い声だね。」

クスクスと笑いながらケンイチの胸の突起をもてあそぶ。

「あ、はぁ、ん。」

「こっちもちゃんと洗わないと。」

「そ、こっ。ダメ、ですぅ。」

ペニスを泡で包み、擦られトロトロと先走りが出てきた。

「ココこんなにしちゃって。かわいい。」

前の手を休めず秘部に指を押し込んだ。

「あぁんっ。」

ケンイチの体が弓なりにのけぞった。

裕也はケンイチの体を抱え込むと、たぎったペニスをナカに押し込んだ。

「ひゃぁぁあぁああ!」

衝撃と快感にケンイチは一度目の精を吐き出した。

裕也がかまわず律動を開始する。

浴室の中にケンイチの喘ぎ声と肌を打ち合う音が響いた。

「はぁっ、イクぅ。あぁぁぁあ!」

「くぅっ!」

ケンイチが絶叫すると同時に裕也も精を吐き出した。

蒸気の中でヤッたせいかぐったりするケンイチを抱き起こした。

ゆっくりと湯船の中に入れてやり、自分も入る。

「大丈夫か?」

「今日は何も道具使いませんでしたねぇ。」

「まぁ、たまには、な。」

たまにはこういうのもいいのかもしれない。


『性奴隷日記』









こんにちは。

ケンイチです。

今日はご主人様に遊園地に連れてきて頂きました。

すっごく嬉しいです。

遊園地が、ではなく、ご主人様が連れてきてくださったことが。

ジェットコースターに乗って絶叫しているご主人様が新鮮でした。

こうしていると普通のデートみたいで、ずっと心臓がバクバクしていました。

すれ違う女の子達がご主人様の方を振り返ります。

ご主人様カッコいいですから当たり前なんですけれど、ちょっと嫉妬してしまいました。

ここまでならほのぼのしてたなぁと日記に書けるのですが、やはりご主人様。

事件は観覧車に乗ったところで起きました。

観覧車が上昇し始めてすぐにご主人様からの命令が。

なんとボクに着ているものを全て脱げと言われたのです!

驚きましたよ。

だって、外、ですよ。

隣のゴンドラには若いカップルが乗っているのですよ。

でも、ご主人様の命令は絶対です。

ボクは恥ずかしいのを必死にこらえて服を脱ぎました。

うぅ。

ご主人様はその状態のボクにフェラチオを要請してきました。

ご主人様の前にしゃがみこんで咥えます。

舌を使って袋もご一緒に丁寧にしゃぶりました。

ご主人様が射精した精液を飲み込みます。

せっかくのご主人様の種。

飲み込んじゃうのはもったいないです。

だって、これはご主人様の子供になるかもしれなかった種。

ボクがもし女の子だったら、ご主人様のお子様を授かれるのに。

ボクなんかがご主人様のお子様を授かりたいなんて、思い違いもいいところですね。

その後、ご主人様はボクに立てと命令なさいました。

恥ずかしいと言うと、どうせ下からは見えないし、
隣のゴンドラのカップルもいちゃついているから平気だとおっしゃいます。

立ちあがったら、自分で慰めなさいと命令されました。

ボクに露出趣味はありませぇん。

でもご主人様が下さった命令のせいでしょうか。

だんだんと気持ちよくなってきました。

もう少しでイッちゃうという時に、隣のゴンドラに乗っていた女の子がボク達のほうを振り向いたんです。

びっくりしてボクはしゃがみ込んでしまったんですけれど(このとき萎えてしまいました)。

ご主人様は笑っておられます。

あの子、ケンイチのこと淫乱だって思ったろうね。

そんなこといわないでください。

でも事実だからしょうがありません。

速く服を着ないとゴンドラが地面に着いちゃうよとご主人様に言われて、
はっとすると係員さんが見えてきています。

ボクは急いで服を着ました。

ゴンドラから降りると、ボクは急いでその場から離れました。

この遊園地にはもう来れなくなったじゃないですかぁとご主人様に泣きつくとご主人様はこうおっしゃりました。

じゃぁ今度は別の遊園地に行こうかと。

今度、があると思うとすごく嬉しくなりました。

ご主人様はボクを喜ばせる天才です。


『性奴隷失格?』






「あんっ、ご主人様ぁ〜。もっ、と。もっと激し、く。」

裕也がケンイチの要望通りに激しく腰を動かした。

じゅぷっ。

じゅぷぷっ。

「あぅぅっ、イっちゃいますっ、イっちゃいますぅぅっ!」

裕也が果てると同時にケンイチが吐精した。

じゅぷんっ。

裕也がケンイチの中に埋めていた己のソレを引き抜くとベッドから降りた。

ベッドで余韻に浸りぼんやりとしているケンイチに裕也が言った。

「ケンイチ。」

「はひ。なんですか、ご主人様。」

とろんとした目でケンイチが裕也を見つめた。

その瞳には愛おしさが溢れている。

しかし裕也は冷たく言い放った。

「ケンイチさ、明日からは性奴隷じゃなく性奴隷候補に格下げだからね。」

その言葉を聴いた瞬間ケンイチが跳ね起きた。

「ど、どうしてですか、ご主人様?!」

「どうしてだか分からない?」

「う〜。分からないです。」

「それが分からないからケンイチはだめなんだよ。」

ふぅと裕也がため息を吐いた。

裕也が服を身に着ける。

「ボクはこれから用事があるから行くよ。」

「ま、待ってくださいご主人様〜!」

一人きりの空間にケンイチの悲痛な声が響いた。

自分が性奴隷候補に落とされた理由。

それがケンイチには分からなかった。

裕也の嫌がることをやってしまったのだろうか?

それとも。

いくら考えてもケンイチに答えは見つからなかった。







「今日から性奴隷候補だね。」

翌朝、ケンイチの作ったベーコンエッグとトーストを頬張りながら裕也が言った。

「冗談じゃ、なかったんですね。」

ケンイチが落ち込んだ声を出した。

「ボクはこれから仕事に行くけど、今日ケンイチはここに行ってきなさい。」

一枚の地図を渡される。

「え、でも家事は。」

「今日はいいよ。それよりもここに行ってきて、
その様子をボクに報告すること。返事は。」

「うう〜。分かりましたぁ。」

涙声。

「でもなんなんですか、ここ。」

「風俗店だよ。」

「え?」

「そこに行って、ケンイチの体を使って貰って来なさい。
これからずっとお世話になるんだから粗相のないように。」

ケンイチが黙って不安そうに裕也を見つめた。

「淫乱治療だよ。まずはケンイチのその淫乱を治療しないとね。」

真剣に裕也が言った。


恋人候補?

 

「ご主人様なんて大っ嫌いですー。」

夕食を運びながらケンイチが裕也に文句を言った。

「どうしてボクを性奴隷から性奴隷候補にしちゃったんですかぁ?!」

「それは、だな。」

ケンイチが作った食事を口に運びながら裕也が黙った。

メシ作ったり、掃除洗濯したりするのは性奴隷じゃなくて。

恋人。

だと思うから。

「なんでもない。」

「と、特に理由もなく降格ですか?!」

食事に箸をつけずにケンイチが声を上げた。

「酷いです。酷すぎます、ご主人様ぁ。」

「いいから食べなさい。」

箸を握り締めたまま目に涙を溜めるケンイチに裕也が話しかけた。

「ん、ちょっと考えてることがあって。考えが決まったら。」

「性奴隷に戻してもらえるんですか?」

「どうだろう。」

裕也の一声一声に一喜一憂するケンイチを可愛いと思う。

裕也は黙って食事を続けた。


『デート』





「あぅ。」

裕也に連れられコンビニに入ってきたケンイチは小さく漏れる声を噛み殺した。

隣で裕也が楽しげに笑っている。

ケンイチの中には裕也に命じられスイッチが弱に設定されたバイブが収められていた。

何度もイきそうになったが、その度にバイブのスイッチは裕也により切られ、イく事はできなかった。

外で人に見られている事が恥ずかしく、ケンイチは俯いた顔を上げる事はできなかった。

「も、無理ですぅ。」

顔を赤くし、ケンイチが上目遣いに裕也を見上げる。

だが裕也は意地悪く笑うだけであった。

「我慢しなさい。最近お前は我慢が足りない。」

「ひっ、やあん。」

それまで小さく振動していたバイブは突然激しく振動する。

声を抑えることが出来ずにケンイチはなまめかしい声を上げてしまった。

慌てて両手で口を押さえ、快楽に耐える。

ケンイチの声に驚いたバイトのコンビニ店員が棚に並べていたパンを落とす。

「おわっ、商品が。」

腰をかがめ取り落としたパンを拾うバイト。

ケンイチの目に涙が薄っすらと浮かんだ。

「ご主人様ぁ。」

「ケンイチ、あのバイトが落としたパンを一緒に拾ってあげなさい。
君が声を漏らしたせいで彼は店長に怒られるんだろうから。」

「そ、そんなぁ。無理ですよ、ご主人様、あんっ。」

ケンイチの中でバイブが暴れる。

裕也は意地悪く笑っている。

「命令が聞けないのか、悪い子だね。そんなんじゃいつまでたっても性奴隷に戻れないぞ。
お前は性奴隷候補でいいのか。」

目に一杯涙を浮かべケンイチがバイトに近づく。

「あの、手伝い、ます。」

身をかがめるケンイチの顔は上気し、吐息が熱くなっている。

「あ、いや、別にいいんで。つか、大丈夫っすか?」

熱があるように赤いケンイチをしゃがみ込んだバイトが見上げる。

「ボクのせいで、その、商品落とし・・・。」

声が途切れる。

「は、いえ、違うっすから。商品落としたのはオレが不注意だっただけっすから。
お客さんの方が大丈夫ですか?」

ますます顔を赤くし黙り込んでしまったケンイチに裕也が近づく。

「悪かったね。この子はオレの連れだから。」

いぶかしげに見つめてくるバイトに言葉だけの謝罪をすると裕也はケンイチの肩を抱いた。

ケンイチの肩は微かに震えている。

そのまま裕也はコンビニのドアへと向かっていった。

ドアの外に高校生が見える。

「よ、光。」

ケンイチの肩を抱いた裕也とすれ違いに一人の高校生がコンビニに入っていく。

ケンイチはちらりと高校生を見上げたが、高校生はケンイチに目もくれずに、
パンを落としたバイトに近寄って行った。

「あ、お前何しに来たんだよ、菊蔵。」

ぶっきらぼうなバイトの声を背に聞きながらケンイチは口元を押さえ、
前かがみになって裕也に連れられていく。

やりすぎたか、と裕也は思い、
すぐにケンイチは恋人ではなく性奴隷に過ぎないのだと自分に言い聞かせた。


『日常』

 

「ひっ、ひゃああああん。」

ケンイチの切ない嬌声が上がる。

「だめだよ。これくらい我慢しなきゃね。」

「そ、そんな事・・・んっ。言われましてもぉ・・・。」

ケンイチの体の中にアナルパールが埋め込まれていく。

直腸の中が一杯になっていく感覚がする。

苦しさが快楽と交じり合う。

「は、あぁ。くぅぅん。」

パールが一つ押し込められた。

「も、無理ですぅ。」

「だーめ。後四つ残ってるんだから。」

涙に潤った瞳を裕也に向ける。

意地悪く笑う裕也をカッコいいな〜、とお門違いの事を考え、ケンイチは頭を振った。

「四つもなんて、はぁっ、入り・・・ませぇん。」

切なげに喘ぐ。

「だめだなぁ。性奴隷が主人に命令する何て。そんなだからケンイチは性奴隷候補から性奴隷に戻れないんだよ。」

優しく笑うが、目は笑っていない。

「ひ、ひどいですぅ・・・。」

「分かったなら我慢我慢。」

「ひゃあああああっ、だめっ、あっ、あぁんっ。」

もう一つパールが押し込まれた。

苦しさに呼吸が荒くなる。

「も、やめ、やめてくださぁい・・・。それ以上は、も・・・。あああっ。」

意地悪く笑いながら裕也は残りのパールを二つともケンイチの中へと押し込めた。

直腸の課かが一杯になり、苦しさだけがケンイチを支配する。

「ん、苦しっ。はぁっ。」

「抜くよ、力抜いてて。」

「ふぇ?あ、ひゃぁぁああああんっ!」

中に押し込められていたパールが一気に引き抜かれた。

直腸の中が空っぽになっていく感覚と、前立腺と入り口を擦る刺激に耐えられずに絶頂を迎える。

「ほんと、ケンイチってば性奴隷に向かないなぁ。」

意地悪く笑いながら裕也がケンイチに覆いかぶさった。

ケンイチが酷いです、と涙を流しながら反論する。

二人の日常は今日も過ぎていく。


『彼氏が彼女になった理由』




「うっそ、まじで?!」

それはオレ、近衛晃生まれて初めての衝撃だった。

「どう?どこからどう見ても男だろ。」

蓮華、じゃなくて蓮がガクラン着てオレの目の前に立っている。

おっきなアーモンドアイと栗色のさらっさらの髪が蓮華だったときの面影を残していた。

オレお脳みそから血が一斉に引いていく。

朝は、低血圧なんだよ・・・。

サッカー部の朝練なんてサボればよかった。

蓮が嬉しそうにオレんちの前で笑っている。

男というよりもボーイッシュな女にしか見えないぞ、オレの恋人くん。

話は一週間前にさかのぼるんだ。




まぁ聞いてくれ。

初恋は実らないというが、オレの初恋は実ったんだよ。

オレの目の前で爆弾発言をかましてくれた超可愛いロリ系美少女小野蓮華、
名前も可愛いだろ、がオレの初恋相手なわけだ。

オレが所属するサッカー部のアイドルマネージャー。

生まれて十七年、恋とは程遠かったオレ。

全くもてなかったオレが、生まれて初めて好きになった相手がこの超絶美少女だったんだ。

実らないとも玉砕とも言われたんだが、当たって砕けろ精神で告ったところ見事にOKを貰っちゃったわけなんさ。

あんときゃマジ嬉しかったさ、太陽が西から昇っても気にしないくらい嬉しかったさ。

で、その蓮華が、オレの可愛いマイラバーが、とんでもないことを言ってきやがったんだよ。

「あのうちね、うちが男になったら晃君嫌?」

あああああ、小首をかしげて、これ買って、みたいにさらりと言わないでくれ!

何言っちゃってんの?

何言っちゃってんの?!この子!

はっ、そうか、今日は四月一日、エイプリルフール、なわけないだろどちくしょおおおおお!

「あ、晃君、大丈夫?」

「はっ、じゅぶ・・・。」

「保健室、行く?」

悩める熊と全く同じポーズで固まったオレを蓮華が心配そうに覗き込んでくる。

オレはとりあえず理由を聞くことにした。

「なんで蓮華は男になりたいんだ。」

蓮華の長いまつげが頬に影を落としている。

まさか、レイプされて女でいることに嫌気がさしたんじゃ・・・。

許すまじレイプ魔!

オレの可愛い蓮華によくも、よくも!

「うちね、ちっちゃい頃から自分は男だって思ってたの。ずっと悩んでて、日本じゃまだ偏見とかあるし。
でも決心が付いたんだ。明後日タイに行って性転換手術することにしたの!
男になって帰って来たら蓮華じゃなくて蓮って呼んでね!」

蓮華はおっきな目を輝かせていたんだ。

神様、オレに自分の彼女を止められるだけの強さを下さい・・・。




一週間後に帰ってきたオレの彼女は、男になっていました。

やめてぇぇぇ!

ダレカコレハアクムダトイッテクレ・・・。

オレは誰でも良いから問いただしたい。

彼女がいきなり男になっちゃった後、オレ達はまだ恋人なのかどうか。

「朝練一緒に行こう。一週間も学校休んじゃった。」

カバンを持ち微笑んでいる蓮、オレの学校生活、もとい青春はこれからどうなっちまうのだろうか。

ああ、朝日が目に染みる・・・。




思ったとおりだ。

大騒ぎ。

だってそうだろ。

サッカー部のアイドルマネージャーが男になっちまったんだから。

「え?オレそんなに変?」

蓮が取り囲んでいるサッカー部員に小首をかしげて聞いてる。

ちょ、男になったってのに女に見えるぜ、蓮。

その顔と仕草、男じゃねーよ。

「小野さんなんでいきなり性転換なんてしちゃったのさ。」

後輩よ、オレも同感だ。

あの可愛いロリ系美少女蓮華がいきなり男になるなんて変だろうが。

男になるよりも女のままでいた方がもててたし。

や、別にオレは蓮華の外見に惚れたわけではなくだな、中身もひっくるめて惚れたんだ。

「だって、オレFtMだったし。元の性別に戻るの、変じゃないでしょ。」

にっこり笑ってるお前がすげーかわいい。

まじで可愛い。

「ふーん、FtM、ねぇ。」

あ、とおるが蓮の胸見てやがる。

何、人の彼女の胸みてんだよ、ってもう彼女じゃねぇのか。

彼氏?彼氏ってことになるんかこれ?

って、ぎゃあああああああ!

「ひゃぁぁ!」

と、とおるの奴、胸を、蓮の胸を触りやがった。

蓮がめちゃ嫌がってとおるの手を叩き落とした。

「ほんとだ。胸なくなってるね。せっかくでかパイだったのにもったいない。」

「とおるてめぇオレの、オレのっ!」

オレはとおるに食って掛かった。

しかし蓮は今オレの恋人なのかどうか分からない。

とおるがオレの方に腕を回し、耳に息を。

やめんかぁ!鳥肌たった!鳥肌たった!

「晃、話がある。ちょっとこい。」

ちょこっと驚いた顔してる蓮を部室に残したままオレはとおるに連れてかれた。




部室裏でとおるが真剣な顔をしてオレに言う。

「小野な、あいつ性同一性障害じゃねぇわ。」

「は?なにを根拠に。」

言ってる意味がわかんねぇよ。

だって蓮は女でいるのが嫌で男になったんだろ。

今話題のトランスジェンダーに決まってるだろ。

「小野が男だったら胸触られて嫌な顔するか?男同士で触りっこしても嫌がらんだろ。」

「オレはお前に触られたら死ぬほど嫌だぞ。」

「知ってるわ!オレだっててめぇなんか死んでも触りたかねぇ!
んな事じゃなくてな、小野が男だったらあんな反応しねぇっつってんだよ。
あの反応、どっからどう見ても女の反応だったぞ。」

それはアレですか。

あんたは女の子とふがふがした関係を持ったことがあると自慢したいわけですか。

オレがまだ童貞だってことを笑いたいわけですか、コノヤロー。

「お前さ、彼氏のくせになんも知らねぇんだな、小野のこと。」

とおるがオレを鼻で笑う。

え?

なんもしらねぇって。

まさか、とおる、お前。

「彼氏だったらさ、彼女の辛いこととか、全部知ってさ、守ってやるもんだろ。
小野が何で男になったのかしらねぇけど、お前ってさ小野から信頼されてねぇんじゃねぇの。」

とおるの言葉が痛かった。

信頼、されてないかもしれない。

蓮が蓮華だったとき、何故男になりたいのか聞いたけど、返ってきた答えはひどく曖昧だった。

「もうすぐ朝練始まるぜ。」

オレは、蓮に信頼されてないのか?

そんなはずはない、と言いたい。

蓮華、なんでオレに相談もせずに男になっちまったんだよ。

オレらは恋人同士なんじゃ、ないのか。



蓮華、いや蓮のこと、俺はわかっていなかったのだろうか。

放課後の帰り道蓮の隣に並ぶ。

「なぁ、蓮。」

「何?」

うう〜、男になっても可愛いぜ、蓮。

なんで、男になっちまったんだよ。

女のままでもよかったじゃねぇか。

「なんで、男になったんだ。」

言葉に詰まりながら言った。

蓮が考え込んでる。

「女の社会になじめなかったから。」

は?確かに蓮華には女友達がいなかったが。

だからって何で男になる必要があるんだ。

「分かってたんだ。本当はFtMなんかじゃなくて、ただの自閉症だって。」

蓮が続ける。

「それにさ、俺が男になったら、晃くんも俺から離れられるかなって思って。」

え?離れる?どゆこと??

「本当は俺みたいなのと付き合ってて嫌だったんだよね。
晃君人がいいから。今まで無理に付き合ってくれて、ありがとう。」

「ちょ、待てよ、蓮華!」

俺は思わず蓮の女のときの名前を叫んだ。

「俺は、いやじゃない。嬉しかった、蓮華と付き合えて。
幸せなんだよ!大好きなんだ。死ぬほど惚れてんだ!」

蓮の両肩を力いっぱい掴む。

蓮が顔を真っ赤にさせて俺を見上げている。

「お前が男になったってかまわない、俺はお前のことが好きだから。」

夕日がまぶしい。

蓮の顔が赤くなっている。

俺は大きく息を吸う。

「俺と、付き合ってください。」

心臓がバクバクいってる。

「あり、がとう。」

俺は蓮にキスを落とした。


注:ゴキブリ擬人化です。

クロゴキブリ×チャバネゴキブリ

『ゴキブリ愛の歌』




ふわふわの茶色の髪、くりくりとした大きな目。

やわらかそうな輪郭に小柄な体。

女の子のような可愛らしい見た目の少年。

この家に住むチャバネゴキブリのチャバネだ。

「あぅぅ。」

チャバネはその日とても後悔していた。

恋人であるクロゴキブリのクロとくだらないことで喧嘩をしたことを。

クロは切れ長のきつい目にスリムだが引き締まった体。

真っ黒なつやのいい髪。

カッコいい自慢の彼氏だ。

チャバネはもう一度体を動かそうとしたが無駄だった。

ゴキブリホイホイの粘着液がしっかりとチャバネの手足をしっかりと捕らえている。

「うぅぅ〜。」

じんわりと大きな目に涙が浮かんだ。

その時に近くで誰かの足音がした。

恋人であるクロの足音ではない。

チャバネがうなだれていた頭を上げるとそこにいたのは。

「ひっ!」

「こんなところで何してるのぉ、チャバネちゃぁ〜ん。」

ゴキブリの天敵であるアシダカグモのアシだ。

「あ、や。」

逃げ出したいが粘着液が邪魔で動けない。

そうこうしているうちにアシは近づいてくる。

「やだぁ、こないでぇ。」

「おいしそう。いただきまぁ〜す。」

「や、やめて。」

弱弱しく懇願するチャバネを無視し、アシはチャバネの胸の突起をつついた。

「ひゃぁぁっ。」

ピクンとチャバネの体が跳ねる。

「ほんと、かわいー。」

アシの手がチャバネのソレに触れる。

上下にしごくと先端からトロトロと涙を流した。

「あぁぁん。」

「ふふっ。いっつもクロにこうされてるのぉ〜。」

「やぁぁ、ち、ちが。ぁあっ。」

アシの指がチャバネの蕾へと入れられた。

チャバネの体の中で動くアシの指。

「そろそろ、挿れてもいいよ、ね。」

「はぁっ、らめぇ。」

呂律が回らない。

アシのソレがチャバネの蕾に触れる。

チャバネを恐怖が襲う。

クロ、助けて。

強くチャバネが目を閉じた。

その時。

「オレのチャバネに何しやがる!」

この声は。

チャバネが恐る恐る目を開けると、アシをガッチリと押さえ込むクロの姿があった。

「もうちょっと後でくればよかったのにぃ。」

アシが残念そうな声を上げた。

「なんだと!」

激功するクロ。

「く、ろぉ。」

チャバネが目に涙を溜め、クロを見上げた。

「チャバネ。」

「まぁいいよ。今日は退散してあげる。」

アシはソレだけを言うとその場から立ち去った。

「ごめんな。怖かったろ。」

クロが優しくチャバネを抱きしめる。

「ううん。クロが来てくれたから、もう平気。」

嬉しそうにチャバネもクロのことを抱きしめ返した。

今日も彼らはどこかの家の台所の片隅で愛し合っている。


「天空のローレライ」

『ドラキュラと幽霊』




エルフは綺麗な夢を見ておりました。

子供の頃に見上げた澄んだ空色に淡いラベンダーの絵の具を一滴落としたような、
そんな儚い夢でございました。

静かに目蓋を開くと暗闇のヴェールに要請の宝石箱からこぼれたビーズを散りばめた夜空が広がっておりました。

エルフは遠い星々に向かい歌をお贈りになったのでございます。

彼の歌声は透き通り、星の間を切り裂いて飛び立ちました。

それは優しく儚く時に狂ったように鋭かったのでございます。

「こんばんは。」

可憐さの中に狂気をはらんだ歌声に魅せられて、一人のドラキュラがエルフの元に御出でになりました。

漆黒の森に流れる風のようにさらさらの黒髪を夜になびかせながら。

「何を歌っているのかね。」

エルフは歌うことをやめ微笑みました。

その微笑みはエルフの美しさを際立たせ、純粋なほどに残忍な光をその瞳にたたえておりました。

「あなたは?」

「ん、わしか?わしはD。ヴァンパイアだよ。皆にはD伯爵って呼ばれおる。」

D伯爵は夜を吸収した翼を羽ばたかせました。

「私はエルフ。生前の記憶は失いました。」

寂しく微笑むエルフにD伯爵が手を差し伸べました。

エルフが滑らかな指先をD伯爵のそれに絡めました。

二人が夜空に舞い上がります。

エルフのアルビノに近いブロンドの髪が星の光を浸透させ、淡く輝いでおりました。

「行くとこがないならわしの屋敷に来なさい。孤独のうちに暮らしておるのだから。」

町外れの古い洋館に向かってD伯爵は翼を動かしました。

D伯爵の洋館は、大きな赤錆に包まれた門があり、名前の分からない雑草が覆い茂っていました。

赤レンガの壁には亀裂が走り、朽ち果てるときを静かに待っているようでありました。

エルフとD伯爵が中に入ると色が変わってしまった名画が飾られておりました。

古いアンティークの家具に銀の燭台がうやうやしく沈黙を保っていたのでございます。

「客間、掃除しておらんかったな。」

エルフを連れ螺旋階段を上りました。

客間には彫刻品と共に、埃を被ったベッドが置かれておりました。

D伯爵が風に命じました。

「客人のためにこの部屋を綺麗にしなさい。」

風がうやうやしく舞い上がりました。



『お姫様』




それは月が明るくたいそう星の綺麗な日の夜のことでした。

D伯爵は星を映した窓から美しい歌声を聴いたのでありました。

夜空が、星星が、その歌声のためにだけ優しく鋭く輝いているかのような錯覚さえ覚えました。

歌声を辿ってゆくと月の光を吸い込んだ髪を持った青年に出会ったのであります。

さてその青年こそが今こうしてD伯爵の古びた洋館の一室にいる青年なのです。

青年はエルフと名乗りましたが本名とは違うように思えました。

灰色の埃はD伯爵によって取り除かれておりました。

エルフとD伯爵は古い金色の赤いクッションが取り付けられた椅子に腰掛け、向かい合っておりました。

「宿を貸して下さったお礼に一つの物語をお聞かせいたしましょう。」

エルフが声をつむぎ、D伯爵に物語を語り始めました。










昔々の王国にたいそう綺麗な皇女様がおりました。

皇女様の肌は透き通る真珠ように白く、髪は金のガラスで編んだように滑らかでした。

唇は珊瑚のように艶やかで、瞳は輝くブルーサファイヤのよう。

しなやかな手足は皇女様の美しさをいっそう際立たせておりました。

人々は口々に皇女様の美しさを褒め称えました。

外見だけの美しさを。

月日は残酷に皇女様から外見の美しさを奪っていきました。

真珠のようであった肌にしみと皺を作り、髪は色艶を失い色あせていきました。

皇女様はご自分の美しさを保つことに必死でした。

しかし、外見の美しさは保つことができませんでした。

皇女様は彼女の外面の美しさが損なわれていくことに我慢がなりませんでした。

そしてたいして美しくもない、若いだけがとりえのメイド達に嫉妬なさいました。

なぜならメイドたちの若い肌はしわもしみもなく、年を重ねた皇女様よりも滑らかだったからです。

ある日、一人のメイドが皇女様の髪に櫛を当てている時に、
メイドが皇女様のくすんだ髪をひっぱってしまいました。

皇女様はお怒りになり、メイドの手をお打ちになりました。

ひび割れた皇女様の爪がメイドの肌を傷つけてしまいました。

彼女のてらてらと流れる血が皇女様の肌に触れた時、皇女様は気が付きました。

赤い林檎のような血が皇女様の肌をみずみずしく、滑るように美しくしていることに。

皇女様は月の色のナイフをメイドに振り下ろしました。

オペラのようにメイドが歌い、皇女様は薔薇の真っ赤なシャワーをお浴びになりました。

それからというもの、皇女様は若く美しい娘達を城に呼ぶようになりました。

娘達は皇女様のために可憐なその命を捧げました。

皇女様は毎夜乙女の紅いお風呂にお浸かりになられました。

若い娘達の涙と引き換えに皇女様は美しさを取り戻しました。

象牙のような肌を取り戻しになられました。

月のような髪を取り戻しになられました。

珊瑚のような唇を取り戻しになられました。

深い海のような瞳を取り戻しになられました。

皇女様は美しくなられたのです。

ご自分の幸福のために乙女を不幸に貶めながら。










D伯爵がお尋ねになられました。

「それで皇女はどうなったのだ。」

「彼女は晩年裁判にかけられ、高い塔に幽閉されました。孤独に死んだと聞いております。」

夜の流れるような風が温かな空気をさらっていきます。

ため息を吐くようにエルフが言いました。

「幸福だから狂ったのでしょうね。」

「おかしいではないか。幸福ならば何故狂うのだ。」

「満たされすぎていて、少しの不幸が狂気への引き金へとなってしまうのではないでしょうか。」

「ならばそれは不幸だ。不幸であるから皇女は狂ったのだ。」

「幸福と不幸の定義は難しいのです。これは昔のお話ではなく、現代の寓話なのです。」

夜空を旅する雲が寂しげに微笑んでおりました。

「傍目には幸福に見えるけれど、心の中は不幸に食い尽くされていたのです。
現代に生きる誰もがそうなのでしょう。」

D伯爵は窓の外にある夜を見つめました。

遠く離れた星空の元に人間が暮らす街があるのです。

街を覆う人工の醜い星を思い出し、D伯爵は悲しくなりました。

夜を可憐に淡く飾る天の星を街の明かりが隠してしまっていたからです。

「本当の幸福とは星のようなものなのでしょう。」

エルフが哀しい顔をなさっているD伯爵に言葉をかけました。

「創り出された幸福は偽りなのです。幸福とは創るものではないのです。」

D伯爵は黙って頷きました。

月が優しく二人を見守っておられました。



『狂気の狭間』




死臭が風に乗って運ばれてきた。

瓦礫のようなごみためで蠢いているのは人間。

まるで芋虫。

鮮血を流し込まれたように赤く染まってゆく空の下。

一人の少年がごみを避けて進んでゆく。

大きなアーモンドアイと緑がかった流れるような長い黒髪が特徴的だった。

小さな体にまとっている服はぼろきれ。

散らばったガラスの破片が鈍く光っている。

側の川にはエメラルドグリーンのヘドロが流れていた。

「どこ行くんだよ、幸人。」

別の少年が歩き続ける少年、幸人の腕を捕らえた。

幸人よりも少しだけ逞しい体は発達途中。

切れ長の眼に短いオレンジに染色した髪。

息が切れている。

「離せ。」

切りつけるように投げつけられた呟き。

「嫌だね。」

「お前に命令される覚えはないぜ、巧。」

ガラスの切っ先のような視線を巧のほうに向けた。

突き刺さるような視線を受け一瞬ひるむ。

幸人の腕をつかんでいた手の力が緩んだ。

その隙を突いてするりと逃れられた。

足を進める幸人の後を付いてゆく。

「どこ行くんだよ。」

今度は捕らえようとはしなかった。

「家に、帰る。」

震えているかのように。

巧は思い出す。

幸人が最近親にここ、新宿のスラムに捨てられていったことを。

日本が崩壊した後、東京都はスラムと化した。

子供を生んでも育てる金がない親が取る最終手段が子供を捨てることだった。

帰りたい。

それが本音なのだろう。

帰れないことなど幸人本人が一番よく知っているかのように思われた。

無言で真っ赤な空の下を進んでゆく。

「そろそろ戻った方がいいぜ。」

巧が立ち止まった。

空に赤と黒が混じりあい濁った血のようになって行く。

普段とは違う雰囲気に幸人も立ち止まる。

「なんで。」

「ここらは新宿のスラムん中でも危ねぇとこなんだ。」

だから早く戻ろう。

巧の眼は真剣だった。

少しだけ幸人は戸惑う。

このまま行こうか、それとも。

「ゆき...。」

巧が幸人に腕を伸ばしたときだった。

ガツンともゴツンとでも聞こえる大きな音が響いた。

同時に巧の顔が赤く濡れてゆく。

「巧!」

何が起こったのか分からずに巧の方に行こうとした。

だが、強い力に押さえ込まれた。

肩に骨が砕けるのではと思われるような圧力が加えられた。

「ぐっ。」

痛みに顔がゆがむ。

目の前には血に濡れ驚愕に眼を見開く巧が大男に捕らえられていた。

「離せ!巧!」

巧を捕らえている大男と自分を捕らえているであろう誰かに向かって言い放つ。

幸人がどれほど暴れてもびくともしない。

「こいつ、男?女?」

幸人の頭上で声がした。

「どっちでも関係ねぇ。穴さえありゃぁな。」

地を這う蛇のような声が降ってくる。

何を言っているのか分からない。

恐怖に辺りを見回すと他にも男が数人笑みを浮かべてこちらを見ているのが分かった。

空が紅く染まっていく。