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【結いの心】

トヨタの足元(6) 『お互いさま』今は昔

2008年6月4日

新川(右)の堤防が決壊し、水浸しになった工場や住宅=2000年9月、名古屋市内で、本社ヘリ「あさづる」から

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 「えっ…」。トヨタ系の大手企業で仕入れ担当をしていた四十代の男性社員は思わず、声を失った。コスト削減を依頼しようとしたある下請け業者が、「見積もりの仕方が分からない」と口にしたからだ。

 父ちゃん、母ちゃん、家族でほそぼそと経営する、いわゆる「三ちゃん」工場の一つ。誰も帳簿の付け方すら知らなかった。それでは削減を求めようもない。どうするか。

 「こっちで見積もるんです。うちは中間業者。高めに出したら、トヨタから『この値段でできる』って文句がくる。温情をかける余裕なんてない」

 売上高が兆単位の巨大企業も、三ちゃん工場もあるのがトヨタ系。男性社員は「小さいところを訪ねる場合、以前は、これぐらいならつぶれないかなぁって額に見積もった」と言った。搾りつつもつぶさず伸ばす−が、かつては下請け管理のコツだった。

 「今は、コスト削減についてこられないなら、つぶれても仕方ないって感じ。国際競争が激しくなって、育てる価値があるかどうか、下請けを選ぶようになってきた」

 一兆円近くものコスト削減活動「CCC21」が始まった二〇〇〇年七月。それから間もなく、中小の下請け各社を震え上がらせる“事件”が起きた。

 この年九月の東海豪雨。多くの工場が被害に遭ったが、トヨタの対応は素早かった。豪雨の翌日には、一次下請けの大手企業も動員して被害が出た各社へ人手を回し、水に漬かった機械の乾燥や修理を進めたという。

 浸水したある町工場には、元請けの会社とトヨタから大挙して従業員が訪れ、丸一日で工場を復旧してみせた。経営者は涙ながらに喜んだ、と伝えられる。しかし、ほどなく送られてきた請求書に凍り付いたという。

 取材に経営者は口をつぐむが、請求額はウン千万円にも。「困ったときはお互いさまって考えはなくなっちゃったんですかねぇ」

 “事件”を知る経営者たちは言う。「トヨタじゃない。あの元請け企業が勝手にやったこと」。ただ、トヨタ系の徹底的な効率主義、元請けと下請けのドライな最近の関係がもたらした出来事を、こうも見る。

 「あすはわが身かもしれない」

 

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