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【結いの心】

トヨタの足元(5) 選別される『勝ち』『負け』

2008年6月3日

新製品の精度は「拡大鏡で精査する」と加藤社長=三重県桑名市で

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 拍手の波が夕立の音のように響いた。

 四月二十二日、愛知県安城市にあるトヨタ系大手一次メーカーの本社ホール。傘下の四百社ほどのトップが顔をそろえていた。

 その一人、部品メーカー「エイベックス」(名古屋市)社長の加藤明彦(61)は、壇上で居並ぶ「仲間」の拍手を浴びながら、しみじみ感じていた。「皆の努力が報われたなぁ」

 その日は傘下でコスト削減や品質管理で高い成果を挙げた企業の表彰式。同社はすべてに優れた「総合優秀賞」を受賞した。

 「うちは、アレが始まってから成長してきた会社なんです」

 アレとは、「CCC21」。トヨタが二〇〇〇年夏に始め、三年間で一兆円近くに及んだコスト削減方針のことだ。多くの下請けが悲鳴を上げたが、加藤は「チャンスだった」と振り返る。

 一九八四年、父親の後を継いで社長になったが当初は「オレが、オレが」と意気込みばかりが空回り。「『坊ちゃん』の言うことなんて現場の職人さんは耳を貸してくれなかった」。九二年、「加藤精機」から社名変更。加藤の名を外し、「皆で一緒に頑張りたい」と全社員の前で頭を下げた。

 大幅削減をのめば赤字になる可能性が高かった。加藤を先頭に社員一丸となり、工程の見直しを進め、ムダの排除や品質向上を図った。「赤字覚悟」のはずが初年度からわずかだが黒字が出た。新商品の開発にも成功し、弾みがついた。この五月期の売上高は〇一年の九億円から三倍増に達する見通しだ。

 「前向きにコスト削減を受け入れたことで、企業体質を向上できた」。「勝ち組」にとどまったカギを「人の和」と加藤は言う。

 社長になって以来、一人一人、自ら面接して採用。次代の幹部を約束し、大手の内定をけって入社してもらった逸材もいる。

 ただ、トヨタ系といっても、二万から三万点に及ぶ部品の数だけ、傘下の企業があるとされる。大卒の技術者はもちろん、何年も新たな人手を雇うことすらできず「努力」しようがない町工場も数多い。新技術の開発に必要な人材を確保できる条件を持っている下請け会社は、むしろ少数派だ。

 「トヨタ系の中でも『勝ち組』と『負け組』の選別が始まっている」。広い、広いすそ野からはそんな声が聞こえてくる。 

  =文中敬称略

 

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