抄録
最近の性の情報は氾濫し享楽的な風潮や性商品化傾向の中で、青少年の性への意識はどうなっているのか考えざるを得ない。
異性への関心は性への関心でもある。このような社会的な性意識の状況を考えると、性道徳は更に退廃するばかりで純潔を守るという考えは感じられない。
そこで純潔とは何か、なぜ純潔意識が大切なのか、先ず大人が認識し理解し意識して導きに当たらなければならないと思われる。
純潔とは性のみのことではなく、異性に対して性を超越して、異性を人間性の観点から見つめ、平等な人間性を有する人間として、認識出来る青少年を育成していかなければならないと思われる。
つまり純潔とは人間性に関する実践であり、純潔教育とは人間性に関する認識であり、最終的には人間性教育であるといえる。
最近の情報過多といえる中で、性の情報は氾濫している。享楽的な風潮や性の商品化傾向が悪影響を及ぼし、性行動が低年齢化し、女子の行動が積極的になっており、小遣い欲しさに売春をし、それによって得たお金を遊興費に当てている女子高生が増えている。
札幌における十代の妊娠中絶の現状は、平成5年度で941件、授かった子供の5人のうち2人の命が失われている。又、1,000人の20歳未満の少女のうち15名が人工妊娠中絶を体験している。これは全国平均の2.5倍、都道府県ワーストワンの実施率をはるかに上回っている。
何となくの交際をはじめとする、遊びの性の結果、人工妊娠中絶があとをたたない。十代で妊娠した141人を調査した結果、交際一週間以内で性行為に至った人は、ほぼ4人に1人で中絶手術を受けるケースは55%に及んでいる。
初交に対する態度としては、何となくという理由が全体の39%を占め、次いでわからないと好奇心からという理由が、それぞれ19%と次いでいる。この結果を見ると、当然ではあるが性体験に走った青少年には純潔を守るという考えは稀薄である。
今、問題の青少年については、彼等にとって異性とは何か、性とは何なのか、性への意識はどうなっているのか、本当に考えざるを得ない。しかし、彼等のみならず、性(セックス)への関心は、社会的にますます異常化しているように見えるところがあり、異性とは、本能欲を満たすための対象であり、異性への関心は、性(セックス)への関心であって、異性は性本能発散の相手役であるかのように、錯覚しているのかもしれない。
北海道性感染症研究会の調べによると性にともなう感染症が激増し、その種類も時代とともに変遷し、今や性にまつわる問題が深刻化している。
そこで学校教育においても人間尊重を基盤とする適切な性教育がひつようである。科学的な知識だけを与えるのではなく、生理的側面、心理的側面、社会的側面などから総合的にとらえ、生徒が生命の大切さを理解し、また人間尊重の精神から正しい異性観を持ち、健全な社会生活を営む能力や判断力を育てる。そして、性教育は人間の生き方に係わる教育そのものであるだけに、教える指導意識や指導力も問われる。学校長を中心とする指導組織を確立し、学校ぐるみ、家庭、地域ぐるみの意識の高揚を図る必要もある。そして、純潔とは何か、なぜ純潔意識が大切なことなのか、まず大人が認識し、意識して導きに当たらねばならないと思われる。
性教育は知識教育だけでは片手落ちである。思いやりやお互いに尊重しあう心の教育、信頼関係を育む人間関係の教育、そして責任感、自制心、判断力、価値観などを形成する教育内容があって、初めて知識も活きてくるのではないか。どんなに知識があっても性行動を決定するのはその人の価値観、責任感、自制心、状況判断力といった心の働きのほうが大きいと思われる。
これらは学校だけに求められるのではなく、家庭の中に重要な鍵があると思われる。母と子の心の交流がスタートする妊娠中にすでに始まっているのではないだろうか。母親が子供を大事に育む中から、子供の中で自分も尊いし他も尊いといった自他共に信頼する心が芽生えるのではないだろうか。
親は生れてくる子供の健やかな成長と幸せをいつの世も願うものである。たとえば、性の問題で、将来自分と他人を傷つけることのない大人に成長してもらうためにも、親として相手の幸せを思う優しさと厳しさ、そして痛みを感じとれる感受性をもって、子供と話し合うことが大切である。
異性に対して、セックスから離れ、性を超越して、異性を「人間性」の観点から見つめ、平等な「人間性」を有する人間として意識できる青少年を育成していかねばならないと思われる。
お父さんがお母さんを思いやりいたわり導いていく姿。お母さんはお父さんを大事にして従っていく姿。お互いを思いやる気持、そして協力しあう姿。これは何よりの性教育になるのではないだろうか。このような家庭で育った子供は性行動に走りにくいという研究結果も出ている。
いま、これらの内容から考えて見ても青少年に対して、人間性への教育が十分に行なわれ、青少年の意識の中に、人間性の意識が十分に高められない限り、異性への正しい認識、「純潔意識」が育たないのではないかと考えられる。
そこで、善き青少年の育成と健全な社会の形成のため、青少年を対象にして、純潔意識を明確にさせ、純潔への教育を行なっていかねばならないが、純潔教育に当たって、少なくとも以下のような教育を考えねばならないと思う。
@ 青少年に対して、異性の尊厳性を意識させる。
A 青少年に対して、相互に尊厳性を持って行動させる。
B
異性を性欲の対象としてはいけない。
C 異性を性に基づいて軽視したり、差別してはいけない。
D セックスを過大視してはいけない。
E
相手を平等な人間性を有する人として考え、異性の人間性を尊重しなければならない。
つまり、純潔とは、「人間性」に対する認識であり、純潔教育とは、最終的には、「人間性」への教育であるといえる。
このように純潔教育は、人間として正しく生きていくための生き方の教育である。日本は今、アメリカやスウェーデン等のように性の一部に解放や、技術的な性科学教育を取り入れた結果、享楽の性に走り、多数の相手と性的接触をすることは、人間の本質から見て悪いことでは無いと考えるようになっていて売春行為に対しても罪悪感とか嫌悪感がまったくない無節操な状況にある。
さて、青少年に純潔意識を求める一方で、大人に対しても、純潔意識の認識が要請されなければならない。純潔意識は「人間性」の認識の一部であるだけに、大人に青少年への偏見、蔑視、軽視、無視などがあっては、純潔意識を持つこともできず、純潔教育することなど出来ないことになる。純潔といえば、結婚前の女性にのみ求められるものと考えられていたようであるが、性は新しい生命に関わる重大なことである。女性であれば新しい生命を産み育てる大切な身体であることを認識し、男性であれば女性を思いやる気持と責任感を持つことが大切である。私達人間の生命は、過去無量の祖先の生命を受け継いだものであり、それはさらに永劫の未来に引き継がれて行く。
この生命の尊さを大切にし、浄らかで正しい心と健全な体を保つということも純潔の中に含まれる。そういう意味からも純潔の大切さを見直す必要があると思う。
参考データについて
性感染症の種類も時代と共に変遷し、クラミジア、ウィルスなど、新たな性にまつわる感染症として流行しはじめ、今や性にまつわる感染症は20数種にものぼっている。感染自覚のないまま感染拡大を起こしている。
なお、更に大きな問題点は、妊婦への影響のみでなく、出生後の新生児への影響も少なくないことである。現在まで報告されているところでは、クラミジア陽性の母親から生まれた新生児の約8割はクラミジアトラコマチスの垂直感染を受け、封入体結膜炎・鼻腔咽頭炎・中耳炎、更には新生児肺炎をひきおこすとされている。また感染が慢性化して貴重な問題をひこ起こした症例の報告もある。
参考文献
*十代妊娠中絶実施率*
都道府県別ワースト10
1. | 高知 | 13.2% |
2. | 北海道 | 12.5 |
3. | 秋田 | 11.5 |
4. | 岡山 | 10.1 |
5. | 山形 | 10.0 |
6. | 香川 | 9.6 |
7. | 大分 | 9.4 |
8. | 福島 | 9.2 |
9. | 佐賀 | 9.0 |
10. | 岩手 | 8.8 |
* | 全国平均 | 6.1 |
札幌市 | 15.1 |
(生命尊重センター調べ)
十代の人工妊娠中絶の年次推移
*出生数と人工妊娠中絶数、人工妊娠中絶実施率*
全国 | 北海道 | 札幌市 | |
出産数 | 1,188,220件 | 50,925 | 16,371 |
人工妊娠中絶総数 | 386,807 | 27,879 | 10,818 |
十代総数 | 29,776 | 2,701 | 941 |
人工妊娠中絶実施率 | 12.4% | 19.1 | 12.2 |
十代実施率 | 6.1 | 12.5 | 15.1 |
(優勢保護統計調べ)
北海道においては、おなかの中に授かった3名のうち、1名の "いのち"
が失われている。
札幌市においては、5名のうち、2名が失われている。
札幌市においては、1,000人の20歳未満の少女のうち、15名が人工妊娠中絶を体験している。
これは、全国平均の2.5倍、都道府県ワースト1の実施率を遙かに上回っている。
札幌いのちの懇談会
札幌市内産婦人科施設のSTDの現況(1992年)
北海道の代表的な歓楽街である『すすきの』を抱え、人工170万人を越える札幌市内の産婦人科施設を訪れるSTD患者の現況については、大変興味のもたれるところである。
今回、泌尿器科施設の調査とあいまって、札幌市内の産婦人科施設にアンケートを送り、1992年の1年間の成績について調査したので報告する。
成績
1)産婦人科総外来数に占める主なSTDの割合
図2は年間の総患者数とSTD患者数が明らかとなっている施設での成績を集計したものである。主計可能外来数19,937例中、STD患者は、1,185例5.9%であった。STD疾患例にみると、クラミジア性子宮頸管炎が4.1%、トリコモナス性膣炎が、0.8%、性器ヘルペスが0.4%、尖圭コンジローマが0.3%、淋菌性子宮頸管炎が0.26%、初期梅毒が0.08%、毛虱が、0.04%の順であった。
図2 1992年 産婦人科総外来数に占める主なSTDの割合
−集計可能外来数 19,937例−
2)産婦人科受診STDの疾患患者実数分布
今回のアンケート調査にて回答のあった全てのSTD患者数の分布をみると、図3に示す如く、実患者数は1,328例で、2重複感染患者は29例であった。これは札幌の女子におけるSTD患者数の比較と考えられる。やはりクラミジア性子宮頸管炎が最も多く889例、次にトリコモナス性膣炎がクラミジア性子宮頸管炎の4分の1以下の184例、次に性器ヘルペスがクラミジア性子宮頸管炎の約10分の1の93例、尖圭コンジローマが76例、淋菌性子宮頸管炎が61例、初期梅毒が18例、毛虱が7例、エイズは0で、その他が29例であった。
図3 産婦人科STD疾患別患者実数分布
3)主なSTDの感染源
主な女子STDの感染源を図4に示す。感染源の表示はソープランド嬢本人や、ホステス本人や、ヘルス嬢本人がお客から移された場合、ゆきずり、知人または友人、恋人、配偶者、その他に分類している。淋菌性子宮頸管炎の61例では、ソープランド嬢等の歓楽街の女性本人がお客から移される頻度が40%、また友人などの素人から移される頻度が約48%で、夫からが10%であった。それに対し、クラミジア性子宮頸管炎889例では、歓楽街の女性がお客から移される頻度は10%と低く、それに対し友人等の素人から移される頻度が70%弱と高く、夫からが約22%であった。性器ヘルペス93例では、歓楽街の女性がお客から移される頻度が約22%、友人等の素人から移される頻度が50%、夫からが25%であった。
図4 主な女子STD感染源
4)子宮頸管炎の起炎微生物分布
次に子宮頸管炎について詳細に検討した。
図5に子宮頸管炎1,005例の起炎微生物分布を示す。クラミジア単独感染症が約87%と最も多く、淋菌単独性が6%、その他が5.5%、淋菌とクラミジアの混合感染が2.0%であった。
図5 女子頸管炎起炎菌分布
5)子宮頸管炎の年齢別症例数
図6は子宮頸管炎の年齢別症例数を示す。
淋菌性では61例と症例数が少ないため、大きな特徴ではないが、やはり20歳代前半が、298例とこれら若い年代に集中していた。
そこで、10歳代の症例数分布を図7に示す。
6)子宮頸管炎の19歳以下の年齢別症例数