政治・経済

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷
印刷

アイヌ民族:先住民決議 厳しい生活実態、実効性ある施策を /北海道

 ◇知事「国と呼応し考える」

 6日の衆参両院でアイヌを先住民族と認めるよう政府に求める決議が採択され、政府も有識者懇談会の設置を明言するなど、アイヌの社会的・経済的な権利回復に向けた新しい取り組みが始まる。道が06年に行った実態調査では、アイヌは生活保護を受けている割合が平均より高く、決議に盛り込まれた「差別され、貧窮を余儀なくされた歴史的事実」が尾を引いていると見られる現状もある。今こそ、実効性のある施策が求められている。【高山純二】

 「アイヌの方々が北海道の先住民族だということは認識している。国の動きと呼応して、我々自身も、何をどのようにやっていくか考えなければならない」。高橋はるみ知事は6日の会見で、アイヌ関連施策の充実を検討する意向を示した。

 道は06年10月、アイヌの生活実態を把握し、施策のあり方を検討するため、アイヌを「地域社会でアイヌの血を受け継いでいると思われる人。また、婚姻・養子縁組などによりそれらの方と同一の生計を営んでいる人」と定義し、人口や生活実態を調べた。

 調査によると、アイヌは道内72市町村に2万3782人(8274世帯)が住む。ただ、北海道ウタリ協会は「不利益を被ると考えて手を挙げない人もいる」として、道調査の数倍はいると推計。道外に数千人が生活していると見ているものの、実態は不明だ。

 道調査では、生活保護を受けているアイヌの割合は1000人あたり38・3人で、平均(24・6人)との差は13・7人もあった。今も「仕事がなく、職場を確保できるよう保護策をしてほしい」(帯広市のアイヌ)という声が根強い。

 また、アイヌは高校進学率が93・5%、大学進学率が17・4%で、平均よりもそれぞれ4・8ポイント、21・1ポイントも低い。アイヌが必要としている対策(複数回答)では「教育の充実」が78・6%でトップ。このほか▽文化の保存と伝承(50・2%)▽生活と職業の安定(32・0%)▽住宅や生活環境の整備(18・7%)などと続いた。

 アイヌ語で「人」を意味する「アイヌ」の呼称は、差別された歴史を思い起こすとして、抵抗感があるとされる。調査では、この6~7年に差別された経験のあるアイヌは2・1%で、経験のない人(72・3%)を大きく下回り、データ上は差別はほぼなくなった。しかし、「就職や結婚で今も差別がある」と訴えるアイヌも少なくない。

 高橋知事は決議について「社会的・経済的地位の向上に向け、国としてのアクションを起こす第一歩になる。それを促すと期待している」と述べた。

 ◇「アイヌ」を明確に--北海道大アイヌ・先住民研究センター長の常本照樹氏

 国会決議の先にはいろいろなシナリオが考えられる。例えば、国会にアイヌ特別議席を設けることは困難でも、諮問会議などを設けて政策決定過程にアイヌの意見を反映させることはできる。ただし、これらを議論する有識者懇談会ができれば、アイヌ自身が何の権利を要求するのか具体的に示すことが求められる。アイヌ自身がアイヌの範囲を決め、権利の受益者を明確にしなければならない。また、交渉に責任を持てる全国的体制も必要になる。これらは、懇談会の検討の中身にもかかわってくる。この意味で、5月に国会請願を行ったアイヌ側にボールが投げ返されたとも言える。

 ◇少数意見の尊重を--元国立民族博物館館長の佐々木高明氏

 国連宣言にあるように、少数民族は自決権を持っている。自決権といっても「北海道を(アイヌに)返還せよ」という主張は現実的ではない。また、国会にアイヌの特別議席を置くことも「すべて国民は法の下に平等」とうたう憲法の観点から見ても難しい。日本の実情に応じて、少数民族のどのような権利を実現させるか、国民的理解を積み重ねていく必要がある。世界的に見れば、日本人も少数民族だ。「少数だ」「多数だ」という議論は相対的なとらえ方でしかない。国際交流の進んだ現代だからこそ、少数の意見を尊重することは、やがて一人一人の権利擁護にもつながると考えるべきだ。

毎日新聞 2008年6月7日 地方版

政治・経済 アーカイブ一覧

 

おすすめ情報

郷土料理百選