セメント輸送の運転手が長時間・低賃金労働を強いる運送会社と闘うドキュメンタリー映画「フツーの仕事がしたい」が完成した。酷使される労働者が立ち上がる姿を描いた小林多喜二の小説「蟹工船」が脚光を浴びる中、現代版・蟹工船ともいえる内容に注目が集まっている。制作した映像作家、土屋トカチさん(37)は「声を上げないことが普通になるのは怖いことと訴えたかった」と話す。【東海林智】
主役はセメントを運ぶトラックの運転手、皆倉信和さん(37)=横浜市=。月400~500時間に及ぶ長時間労働や会社側が歩合制賃金を一方的に引き下げることに疑問を抱き、全日本建設運輸連帯労組(東京都千代田区)に加入、団体交渉を求めたのをきっかけに会社からさまざまな圧力やいじめを受けるようになった。会社の暴力的な対応に危機感を持った労組が、万が一に備え土屋さんに撮影を依頼した。
会社は皆倉さんに組合脱退を強要。応じると、今度は退職を要求した。争議中に亡くなった皆倉さんの母親の葬儀にも「会社関係者」を名乗る男たちが乗り込み、退職を迫った。土屋さんのカメラはその一部始終をとらえた。「ふつうに働きたかっただけなのに……」。会社との対決に及び腰だった皆倉さんも、次第に闘う決意を固めてゆく。
カメラはさらに、ほとんど家に帰れない長時間労働やセメントの詰め込み作業など、ドライバーの過酷な仕事の実態を丹念に収録。皆倉さんが普通の労働条件を獲得するまでを追いかけている。
作品はこれまでに集会などで3度上映された。その反響の大きさに後押しされ、土屋さんは20分の短編を70分の作品に編集し直した。「『人らしく働き、生きたい』という声を上げてから、皆倉さんの表情が変わった。厳しい状況で働く若者をはじめ多くの労働者に見ていただきたい」と土屋さん。
試写会は5日午後7時半から東京都中野区中野2の「なかのZERO視聴覚ホール」で。参加費1000円。問い合わせはローポジション(050・3744・9745)まで。
毎日新聞 2008年6月4日 10時38分(最終更新 6月4日 10時42分)