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【社会】

元教諭、二審も罰金 都立高君が代反対 『円滑な卒業式、阻害』

2008年5月30日 朝刊

東京高裁で控訴が棄却され、記者会見する元教諭の藤田勝久被告=29日、東京・霞が関の弁護士会館で

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 東京都立板橋高校の卒業式で、君が代斉唱に反対し保護者に着席を呼び掛けて式典を混乱させたとして威力業務妨害罪に問われた元教諭藤田勝久被告(67)の控訴審判決で、東京高裁は二十九日、罰金二十万円(求刑懲役八月)とした一審東京地裁判決を支持、被告側の控訴を棄却した。被告側は即日上告した。

 須田賢裁判長は「保護者に大声で呼び掛け、退場を要求した校長らに怒号で抗議したことは威力業務妨害罪に当たり、社会的相当性も欠いている」と一審判決を追認した。

 一、二審ともに被告の行為が「威力」に当たるか否かが争われた。弁護側は「君が代斉唱を義務付けた都教育委員会の通達は民事訴訟で違憲と判断され、通達に反対する呼び掛けは正当防衛」と訴えた。しかし、須田裁判長は「外部に対する積極的な表現行為により円滑な進行を阻害した」として威力性を認定。「憲法二一条は表現の自由を無制限に保障したものではない」と述べた。

 判決によると、藤田被告は二〇〇四年三月、来賓として招かれた同校卒業式の開始約二十分前に、保護者に向かって「国歌斉唱の時は着席をお願いします」と呼び掛けた。退場を求める校長らの指示に従わず、怒号をあげるなどして式の開始を約二分間遅らせた。

元教諭『でっち上げ』と憤り

 「見せしめとして(都教委に事件を)でっち上げられた」。藤田勝久被告は東京・霞が関の弁護士会館で会見し、東京高裁判決を批判した。加藤文也弁護士は「これが刑事罰の対象なら表現行為が許されない暗黒社会になる」と語気を強めた。

 君が代斉唱などを義務付けた都教委の通達に関し、学校現場で危惧(きぐ)する声は多い。通達に反対し懲戒処分などを受けた教職員が、処分取り消しなどを求めて相次いで訴訟を起こしている。思想・良心の自由の侵害を認めた判決は二〇〇六年九月の東京地裁判決のみだ。

 控訴審判決前、藤田被告は「ロボットのように命令に従う社会は恐ろしい。それを考えてもらいたくて保護者に呼び掛けた」と当時を振り返った。法廷では「被告人」が「非国民」と聞こえたという。

 「罰金刑ですら、夜うなされた。事件をでっち上げられて死刑判決を受けた人の苦しみは想像を絶する」。控訴審に入ってからは冤罪(えんざい)を生み出す司法制度の矛盾を考えるようになったという。

 

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