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◆トピックス&コラム

「テスト」としてのキリンカップ(1/2)
キリンカップ2008  日本代表対パラグアイ代表

2008年05月28日
(文= 宇都宮徹壱 )  



■バックスタンドの空席に危機感を覚える


中村俊招集も、代表戦の観客動員の特効薬とはならなかった 中村俊招集も、代表戦の観客動員の特効薬とはならなかった【 写真は共同 】
 記者席からスタンド全体を見渡して、いささか呆気にとられた。バックスタンドの「SAITAMA」の文字がくっきり見える。ゴール裏はぎっちり人が入っているのに、バックスタンドはガラガラ。まるで天皇杯準々決勝を見ているかのようだ。それ以前に、Jリーグではいつも満員御礼の埼玉スタジアムが、代表戦ではガラガラになっているという現実が、あらためて重くのしかかかる。結局、この日の観客数は主催者発表で2万7998人。スタジアムのキャパシティーが6万3700人だから、半数にも満たなかったことになる。

 果たして代表人気は、ここまで凋落したのだろうか――いやいや、3日前に豊田スタジアムで行われたコートジボワール戦では、チケットは完売。スタンドは4万0710人もの観客でぎっしり埋まっている。ただし豊田での試合が、いくつかの好条件に恵まれていたことは見逃せない。試合が土曜日であったこと。愛知県での代表戦が、1994年7月に行われた対ガーナ戦(瑞穂陸)以来、実に14年ぶりであったこと。相手が、希少性の高いコートジボワールであったこと(彼らの来日は93年10月以来15年ぶり)。
 ところが今回は、試合は平日の火曜日で、会場はいつもの埼スタで、対戦相手もおなじみのパラグアイ(キリンカップだけで今回が4回目の来日である)。いくら中村俊輔の出場が決定的だからといって、一般的なサッカー消費者からすると、およそ魅力的なカードに映らないのもむべなるかな、であろう。

 とはいえ、昨今の代表離れの原因については、もっと根本的なところにあるのは間違いない。私は、それを「夢の喪失」と呼んでいる。すなわち、日本代表に託す「夢」というものが、極めて見いだしにくくなっている時代背景が、ファン離れを加速させているように思えてならないのである。
 ワールドカップ(W杯)初出場、自国開催の2002年、黄金世代の集大成。思えば、過去のW杯3大会に臨む日本代表には、それこそ国民レベルで共有できる「夢」を持ち得ていた。そして、夢破れた06年のドイツ大会以後であっても「代表チームの再構築」と「日本代表の日本化」という新たなプロジェクトに、多くのファンが新たな「夢」を見いだそうとしていた。

 その新たな「夢」が昨年の晩秋に突如途絶えたとき、日本サッカー界は「夢」の放棄と現実路線の追求を決断する。そしておそらく、ゴール裏に陣取ったファンであれば、それなりに状況の変化を理解していたことだろう。しかし、バックスタンドで観戦する人々にしてみれば、託すべき「夢」を見いだせない代表の試合を、わざわざ見に来る気分にはならないはずである。当然そこには、とてつもない温度差が生じる。
 いささか極論めいたことを言うなら、その国のサッカー人気のバロメーターは、ゴール裏ではなく、むしろバックスタンドにこそ現れているように、私には思えてならない。


■俊輔スタメンに見る、岡田監督の賭け


 さて日本代表である。
 W杯アジア3次予選の最後のテストマッチ(※ラグビーやクリケットなどの真剣試合の意とは異なり、この場合は親善試合などを指す。伝統あるキリンカップを「テスト」と言うのは若干の抵抗はあるのだが)となる、このパラグアイ戦。この試合の一番の注目点が、現在のチームと中村俊の融合であることは、衆目の一致するところであろう。中村俊については、スコットランドから帰国後、チームに合流してから左太もも裏に違和感を訴えていたため、当初はパラグアイ戦での出場を危ぶむ声もあった。ところが試合前日になって中村俊の出場は、岡田監督のこの発言で一気に既成事実となってしまう。

「今日の午前中に病院でMRIを撮った結果、出血はなかったので、主要筋でないところでの筋膜炎というメディカルからの報告でした。プレーに問題はないということで(中略)今日はハードな練習はしていないんですけど、明日の朝までに大きなリバウンドが出ない限り使いたい」(前日会見より)

 6月2日のオマーン戦まで、あと1試合しかない。多少の無理を承知で、このパラグアイ戦で中村俊をチームに融合させたい――それが、岡田監督の考えらしい。しかしながら、これまで「当日のコンディションを見て決める(=コンディションが悪い選手は使わない)」という発言を再三繰り返してきたことに照らし合わせると、この悲壮感漂う俊輔起用はいささか奇異なものに映る。
(あまり考えたくないことだが)この試合で彼がコンディションを悪化させ、肝心のW杯予選を棒に振ることなど、絶対にあってはならないことである。ここはむしろ、じっくりコンディションを整えて、それこそホームでのオマーン戦で初融合させた方が、より少ないリスクで、より大きな効果が得られるのではないか。それでも、岡田監督の決意が翻ることはなかった。

 この日のシステムは4−5−1。GKは楢崎。DFは右から阿部、寺田、闘莉王、長友。中盤は守備的MFに中村憲と鈴木、その前に中村俊、山瀬、遠藤。そしてワントップに巻。前回のコートジボワール戦からスタメンが7人入れ替わり、寺田の代表初キャップ、そして阿部の右サイドでの起用が目を引く。さらに、中村俊、山瀬、遠藤が初めて並び立つ2列目は、どんなハーモニーを奏でるのだろうか。一方で、俊輔がどこまでプレーできるかも気になるところだが、あれこれ想像するのが楽しくなる布陣であることは間違いない。

<続く>

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【関連リンク】
パラグアイ戦後 岡田監督会見 08/05/27
パラグアイ戦後 選手コメント 08/05/27
試合後 パラグアイ代表マルティノ監督会見 08/05/27

 


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