ああ息子

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ああ息子2・思春期編:毛利甚八さん×西原理恵子さん対談/上

語り合うルポライターの毛利甚八さん(右)と西原理恵子さん
語り合うルポライターの毛利甚八さん(右)と西原理恵子さん

 ◇子が親の思いと、ずれた時

 読者の皆さんから延べ600通以上の投稿があった「ああ息子2思春期編」。中には非行や不登校になった子のお母さんから「どうしたらいいでしょう」という問い掛けもあった。そこで「思春期編」の締めくくりは、漫画「家栽の人」の原作者で少年院の篤志面接委員も務める毛利甚八さんと、西原理恵子さんの対談。熱く語り合った約3時間のエッセンスを、2回に分けてお届けします。【司会・潟永秀一郎、まとめ・佐々本浩材、大迫麻記子、写真・馬場理沙】

 ◇「難しい年ごろ」構えずに--西原/心配せず「自分の人生」を--毛利

 --そもそも「思春期」っていつからなんでしょう?

 毛利 実は、僕ら会ってすぐその話をしてたんです。

 西原 毛が生えたら思春期かなあって。

 毛利 あと男子の場合「エロ本」を手に入れたとき。大きなポイントですね。

 西原 お母さんは息子のエロに介入できないです。自治区として認めるしかない。君臨すれど統治せず(笑い)。こっそり陰で見守ってるしかない。

 毛利 息子としても秘密よね。やっぱり。そういう俺(おれ)がいること。

 西原 悶々(もんもん)とすることも大事。大人になるためには。

 --女子は何かあるんですか?

 西原 というか「自意識」の芽生えで言うと、女子は最初から思春期じゃないかな。人目を気にしたり気を引いたり、お世辞言ったり。「かわいい私を見てちょうだい」っていう意味で言うと、生まれたときから思春期。

 毛利 僕はその手の自意識って小5くらいまでなかったなあ。ただ、ぼーっとしてた。

 西原 小学男子は、両耳の間にちくわが入ってるから(笑い)。

 毛利 それが、いつの間にか「なぜ俺はここにいるんだ」とか考えるようになる。

 西原 このごろそれは少し遅いらしくて高2くらい。「高2病」というらしい。急に自分の中に太宰(治)が降りてくる。クラス中が「お前、何言ってるの」という時に、「人間ってさぁ」って言って周りをドン引きさせる(笑い)。で、その前にかかるのが「中2病」。クラスの中で結構浮いた存在だったりする子が、闇の使者の生まれ変わりとか、アニメの主人公になりきっちゃう。中2ぐらいでかかるんで「中2病」。かつてそうだった子が(インターネットの)サイトで自分を振り返って告白し合ってる。「あの時の俺を抹殺したい」とか恥ずかしがって(笑い)。 

 毛利 中2病、面白いですね。一般に、子どもが髪の毛を茶髪にしたりするのは中2の夏休みの後が多いって言われてるんですよね。非行とか反抗の始まり。そうなんだろうなあと思うのは、小学生の高学年ぐらいから、子どもが学力で輪切りにされていくじゃないですか。中2ぐらいの時、学校の先生から暗に「お前の人生はあっちの方に決まったぞ」というようなメッセージを受け取るんだと、僕は思ってるわけ。別に、先生たちが残酷な気持ちで言ったわけじゃないんだけど「お前はもう俺たちの眼中にない」みたいなのが伝わって。それで「どうせ俺はこんなやつでしょ」と、自分から居直っちゃうみたいな。お母さんたちには突然の変化に見えるから、パニック起こしちゃう。「何で」って。

 西原 己の器量とか生い立ちとか、比較できる年になるということだよね。身長はこのまま行って160ちょっとぐらいだし、芸能人の顔と違うし。だからといって勉強ができるわけじゃないし。さあどうしたという時に、安易に髪染めてぐれちゃった方が早いといえば早い。

 --進学校に行って、かつみんなが知ってる大学に進む子って全体の1割もいない。残り9割なんだからむしろ普通なんだけど、親の期待が大きいほど、親も子も足場を無くす。実は「ああ息子2」にも、そういうお母さんから「どうしよう」というようなお便りが何通か届きました。

 毛利 僕は、そのお母さんが思春期のような気がする。そんなに心配しなくていい。子どもが自分の思いとちょっとずれてきた時に、あわてなければいいと思うんだけど、「なぜ普通じゃなくなったのよ?」となっちゃう。

 西原 親の側の意識で言うと、私は「思春期」って区分する意味がないと思う。よく「難しい年ごろ」とか「大事な時期」って言うけど、それっていつ? 3歳も5歳も10歳も全部大事だし難しい。何も、ある年ごろで構えることはないと思う。

 毛利 非行の子のお母さんたちと会って、お母さんたちはね、もう涙ぐましくてね、子どもが深夜徘徊(はいかい)すれば明け方まで玄関で待ってる。通信制の学校に行くと、その学校から定期的に来るテストを、全部お母さんがやってる。息子が、何とか自分が思ってる普通の人に近い存在でいてほしいと、子どもにかけている願望が自分の願望と一緒になって、ぐちゃぐちゃになっちゃってる。これが僕は一番深刻だと思う。息子にかける愛情が、夫に対する愛情と同じモノだったりね。そういうものが混じり合って、深く進行しているのが結構きついなあ、と僕は思いましたけどね。

 --子どもが自分の思いとずれてきた時、気持ちまで分からなくなってしまう。

 西原 分からなくなるって誰が言ってるの? だいたい親子そっくりよ。見ていたら(笑い)。なのに、いつの間にか自分の若いころを美化しちゃってる。

 毛利 願望とずれた時にアハハと笑えない。より良き者になってほしいんですよ。僕はね、思春期って12、13歳ぐらいから17歳ぐらいまでだと思うんですが、その間は放っとけばいいと思う。親が「自分の人生」をやればいいと思うんです。

 --さて、うまく距離を取っていくにはどうしたらいいのか、お父さんの役割は……続きは次回(13日)。

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 ■人物略歴

 ◇もうり・じんぱち

 1958年長崎県佐世保市生まれ。日大芸術学部卒。ルポライター、漫画「家栽の人」原作者、メールマガジン「月刊少年問題」編集長。毎日新聞(西部本社版)朝刊で少年問題をテーマにした「育ち直しの歌」を連載中。「育ち直しの歌」は毎日jp(http://mainichi.jp/)で05年連載開始時からの全回を読める。9歳の娘と7歳の息子の父。

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 ■人物略歴

 ◇さいばら・りえこ

 1964年高知市生まれ。武蔵野美大卒。「ぼくんち」で文芸春秋漫画賞。「毎日かあさん(カニ母編)」で文化庁メディア芸術祭漫画部門優秀賞。「毎日かあさん」「上京ものがたり」で手塚治虫文化賞短編賞を受賞。公式サイト・鳥頭の城(http://www.toriatama.net/)。10歳の息子と7歳の娘の母。

毎日新聞 2008年4月6日 東京朝刊

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