準備書面3

平成19年(ワ)第1493号損害賠償請求事件
平成19年(ワ)第2355号独立当事者参加の申出事件

原告 吉岡英介
被告 国立大学法人お茶の水女子大学
参加申立人 天羽優子

準備書面3

平成20年5月21日

神戸地方裁判所第6部民事部合議係御中

参加人天羽優子訴訟代理人
弁護士 弘中惇一郎
同 弁護士 弘中絵里


(原告第3準備書面・参加人天羽の主張に対する反論への再反論)
第1 「悪マニさんのトコのネタになる」の書き込みについて(原告第3準備書面3頁)
 原告は,悪徳商法マニアックスのサイトのトップページの記載や,背景画像の画像からして,一般人は,当該サイトは「道徳に反する商売のやり方」の事例等を集めたサイトと理解するものであり,当該サイトで話題(ネタ)になることは,道徳に反する商売のやり方をしていると扱われると述べたものにほかならないと主張する。
 この点,参加人天羽が「悪徳商法マニアックス」のことを指して「悪マニ」と表記したのは事実である。しかし,名誉毀損の成否は杜会一般人の通常の注意と理解の仕方を基準として判断されるところ,「悪マニ」という言葉は社会一般人に「悪徳商法マニアックス」の略称として通用するものではないから,一般人は「悪マニさんとこのネタになる」の意味を理解することができないのであり,原告の社会的評価は何ら低下しないと言うべきである。
 また,仮に「悪マニ」が悪徳商法マニアックスのことを指していると理解されるとしても,参加人天羽が準備書面2で述べたとおり,ここで取り上げられることイコール悪評判とは限らない。
 このことは,悪徳商法マニアックスのサイトの趣旨から明らかである。すなわち,当該サイトのトップペ』ジでは,「初めての方にお勧めの順路」や「お知らせ・はじめにお読みください」の項目で,まずは「はじめに」のぺ一ジを読むよう誘導されているが(丙!6の1),その「はじめに」の頁では,このサイトにおける「悪徳商法」とは,一般の,真の悪徳商法とは異なること,このページで紹介されているものが悪徳商法ということではないことが明記されており,また,このサイトは悪徳商法の撲滅を目指しているものではなく,とんでもないビジネスや面白いビジネスの存在を知って楽しむものである,従って悪徳商法とは言えないものも積極的に取り上げていくと述べられているのである(丙16の2)。
 したがって,仮に,当該書き込みが「悪徳商法マニアックスで話題になるという意味である」と社会一般人に受け取られたとしても,そのことは「道徳に反する商売のやり方をしていること」を意味するものではない。よって,いずれにせよ,原告の社会的評価は低下しない。

第2 違法性阻却の抗弁について
1 認否について(原告第3準備書面5頁)ウについて,原告はダイポールの販売に当たって「トップ」の地位にあったわけでもなければ,マグローブの開発と販売にあたり,傘下にあるメンバーを引き連れた事実もないとする。
 しかし,原告が代表を務める「有限会社健康と環境の神戸クラブ」のホームページでも,代表の挨拶として,「私たちはこの5年間ほど,株式会社エッチアールディのダイポールという磁気活水器の普及活動をしてきました」「このたび私たちは独自に,低価格で製品の良い新製品を開発しました。それが,ここにご紹介する『マグローブ』です」とある。このことからすると,有限会社健康と環境の神戸クラブはダイポールの販売普及活動を行っており,原告はその代表を務めているのだから,ダイポールの販売普及活動において一つのグループの中で代表的な立場にあったことは事実である。さらに,丙3の3頁目にあるように,HEC(有限会社健康と環境の神戸クラブの略称)での資格はマグローブの販売組織における資格にそのまま引き継がれ,HECでの普及実勢はマグローブでの2倍に換算されており,このことからしても,ダイポール販売時のメンバーをマグローブの販売組織に移行させているのは事実である。

2 参加人天羽の抗弁に対する反論について
(1)公共性について
 原告は,原告が一私人であるとか,マグローブ株式会社も設立されたばかりの一私企業に過ぎないなどとして,公共性が認められないとする。
 しかし,「民主主義社会の構成員として通常関心を持つであろう事柄」ないし「社会の正当な関心事」(竹田稔「プライバシー侵害と民事責任(増補改訂版)298頁以下)や「公衆がその事項について知っていたいと思い,そう思うことが正当である事柄」(松井茂記「マスメディア法入門(第2版)102頁)は公共の利害に関する事実であると解されている。そして,参加人天羽が問題としたのは,マグローブという磁気活水器の販売状況についてであるところ,こうした事柄は,人々の健康や財産権に関わる問題であり,社会の正当な関心事であるのは明白である。原告の主張する公共性の範囲はこれまでの判例・学説に照らしても狭きに失し,到底認められない。

(2)公益目的について
 原告は,事実調査の有無を,公益目的の有無を判断する大きな要素として取り上げているが,そのような見解は特異な見解である。

(3)真実性について
ア 本件書き込み前半部分について
 繰り返しになるが,「悪マニさんのとこのネタになるのか…(遠い目)」(本件書き込み前半部分)という記載は,事実の摘示ではなく意見である。両者の区別が重要なのは,後者となると,真実性の証明は不要となるからである。
 当該表現が,事実の摘示なのか,意見・論評なのかの区別は,証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張するものであれば前者,そうでなければ後者として区別される。ただ,一見意見ないし論評に見えるものでも,間接的ないし娩曲な表現である事実を主張していると思われる場合や,前後の文脈等の事情を総合的に考えると,当該部分の叙述の前提としてある事実を黙示的に主張していると解されるならば,同部分はやはりその「ある事実」を摘示するものとされている(平成9年9月9日最高裁判例・最高裁判所民事判例集51巻8号3804頁)。
 本件書き込み前半部分は,将来,悪マニさんのところで話題になるだろうという予測を述べたに過ぎない。当然,将来のことを立証することは不可能である。したがって,当該書き込みは,意見・論評である。
 そして,この掲示板で,原告がマグローブという磁気活水器を開発し新会社を設立したという話題(丙6・発言番号23200)から,販売方式の話になり(丙6・発言番号23207),本件書き込みに至ったという前後の当該掲示板の話の流れからしても,本件書き込み前半部分は,原告がマルチ方法で磁気活水器を販売しているという事実を前提にした意見・論評というべきである。
 したがって,本件書き込み前半部分は,原告がマルチ方法で磁気活水器を販売しているという事実を前提にした意見・論評であり,仮に当該書き込みによって原告の社会的評価が低下するとしても,原告がマルチ方法で磁気活水器を販売しているという前提事実が真実である限り,意見・論評が人身攻撃に渡らなければ,違法性は阻却されるのである。
イ 本件書き込み後半部分について
i 原告は,参加人天羽が指摘した,甲第25号証の当該記述からは,「ダウンの人々」が違法行為をする蓋然性があることは何ら導けないから,参加人天羽の書き込み後半部分は「意見・論評として成立してない」とする。
 しかしながら,まず,「意見・論評」が「成立しているか否か」というのは,名誉殿損の成否とは全く無関係な事柄である。原告は,「まともな意見」や「論理的な意見」でなければ名誉殿損に当たると主張しているかのようであるが,そうだとすれば,法的主張として失当である。「意見・論評」は人身攻撃に渡らなければ,憲法上の表現の自由として保障され,違法性は阻却されるのである。
 さらに,原告は,前記のように参加人天羽を非難する理由として,甲第25号証の3頁下部に「虚偽がある場合や間違いがある場合は民事上,刑事上の責任を負いうる旨を記しており,これを避けなければならないという価値判断を示している」ことを挙げるが,これは,あくまでも「結果」(3))が「虚偽ないし間違い」である場合である。つまり,当該25頁の下から4行目の「そこに虚偽があれば」の「そこ」という代名詞は,前後の文脈からして,あくまでもr結果」を指しているのである。これは,下から2行目にも「3)の部分に間違いがあれば」と明記されていることからも明らかである。
 要するに,原告は,甲第25号証の当該記述において,結果に誤りや不満があれば大問題であるが,結果を生み出す「理屈」の部分は,不十分でも間違いでもビジネスとしてはよいのだ,と終始一貫して述べているのである。自らが執筆した文章の意味を取り違えた原告の主張こそ,「曲解」と言わざるを得ない。
ii 原告が推奨する販売方法は,特定商取引法のガイドライン及び景品表示法のガイドラインに違反していること
 特定商取引法第34条1項1号は,連鎖販売取引の勧誘に際し,商品の性能もしくは品質等について,故意に事実を告げず,または不実のことを告げる行為をしてはならないと定めている。また,同法第36条は,性能もしくは品質等に関する誇大広告等を禁止している。
 そして,主務大臣は,不実のことを告げる行為をしたか否か,あるいは誇大広告等を行ったか否かを判断するため必要があると認めるときは,当該統括者,当該勧誘者又は当該一般連鎖販売業者に対し,期間を定めて,当該告げた事項の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができるとされ,当該資料の提出がない場合,当該違反行為を行ったとみなされる(同法第34条の2,36条の2)。当該違反行為は,行政指導や処分の対象になるほか(同法38条,39条),2年以下の懲役又は300万円以下の罰金又は併科等の罰則も設けられている(同法第70条1号,72条3号)。
 そして,ここでいう「合理的な根拠」とは,「提出資料が客観的に実証された内容のものであること」及び「勧誘に際して告げられた,又は広告において表示された性能,効果,利益等と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること」の2つの条件を満たすこととされている(丙第17号証9ぺ一ジ)。
 また,景品表示法上も同様の規定がある。すなわち,同法第4条1項1号も,不当な表示を禁止しており,公正取引委員会は当該表示の合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができ,この提出がない場合,排除命令(第6条)等の処分や罰則が科されている。ここでいう「合理的な根拠」の判断基準公正取引委員会による「景品表示法4条2項の運用指針」中の「合理的な根拠」の判断基準」も,丙第17号証とほぼ同じ内容である(丙第18号証の1,2)。
 既に述べたように,原告は,「水は変わる」(甲第25号証)で「このとき仮に,科学的説明が不十分であったり間違っていたりしても,その製品がもたらす結果が,売り手の言っていたとおりであれば顧客は満足するし,ビジネスとしてはそれでよいのである。」(3ページ)と述べている。上記のような特定商取引法及び景品表示法が求める「合理的な根拠」の基準に照らし合わせると,勧誘時に,不十分あるいは間違った科学的説明を行えば,不実告知あるいは優良誤認と判断されることは,誰にでもわかることである。
 従って,原告のマルチ商法のメンバーが「水は変わる」に基づいて勧誘を行ったならば,特定商取引法及び景品表示法に違反した勧誘となる蓋然性は極めて高い。
iii まとめ
 以上の通り,甲第25号証「水は変わる」は,特定商取引法及び景品表示法に違反する勧誘行為を容認する内容となっている。
 原告は,マグローブを販売する会杜の代表取締役であり,こうした販売手法に関する見解に基づいて,MLMのメンバーに対し,他者への販売の仕方を指南するであろうことは間違いない。
 従って,参加人天羽が「あの自費出版批判本をみた限り,ダウンの人々が法律を遵守したまともな宣伝をすることなんざ期待できないわけだが」と述べたのは,「水は変わる」の内容を考慮すると,至極当然のことである。

以上

 

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