アイヌ民族の社会的地位の向上と文化の保存・伝承を目的に1946年、社団法人北海道アイヌ協会として設立された。「『アイヌ』が差別的に使われている」との会員の意見で、61年にアイヌ語で同胞を意味する「ウタリ」を使った現在の名称に変更した。 道内に49支部あり、2008年3月時点の会員は道内在住の約3700人でアイヌ民族最大の団体。家族も含めると計約1万2600人になる。06年の道の調査では道内のアイヌは計約2万4000人。
(2008年5月26日掲載)
アイヌ民族を「先住民族」と認めるよう政府に求める国会決議が、今国会中にも採択される見通しだ。アイヌの団体、北海道ウタリ協会(加藤忠理事長)は決議を歓迎、それを追い風に先住民族との認定を得たい考え。だが政府は慎重な姿勢を崩しておらず、教育や生活支援などアイヌが求める具体的な施策も実現するのかは不透明だ。
「言葉にならなくて…ありがとうとしか言えない」。23日、国会内であった超党派「アイヌ民族の権利確立を考える議員の会」の会合。国会決議の原案がまとまると加藤理事長は顔を紅潮させ、言葉を詰まらせた。
先住民族との認定は、長年にわたるウタリ協会の念願だ。1997年に北海道旧土人保護法が廃止され、アイヌ文化振興・伝統普及法(アイヌ新法)が制定されたが、そこでもアイヌは先住民族とは位置付けられず、政府は今も認めていない。
認めると「先住権」として土地や資源などに対する権利などを主張されかねないとの懸念があるためだ。
だが昨年9月、国連総会が「先住民族の権利に関する宣言」(国連先住民族権利宣言)を採択。これを受け国会議員が「議員の会」を結成し、風向きが変わりつつある。
■民族名を前面に
ウタリ協会自身も“変化”を図っている。加藤理事長は今月16日、札幌市での総会で「いよいよ名称に民族名をかざす時が来た。歴史的な大転換点だ」と呼び掛けた。
来年4月から名称を設立当時の「北海道アイヌ協会」に戻すことを決定。アイヌを前面に打ち出すことで、先住権獲得などに向けた積極的な姿勢をアピールする狙いがある。
加藤理事長は「権利を主張するためには、協会が責任を果たせる組織に変わらなければならない」とも強調。改称はその第一段階でもある。「今を逃すと、もう後はない」と理事長。“発信強化”や他の先住民族との連携も進めている。
■可能な施策求め
東京の最高気温が27度まで上がった22日の昼下がり。「アイヌを先住民族と認めよ」。北海道や首都圏に暮らす200人以上のアイヌが東京・日比谷公園に集結。アットゥシと呼ばれる民族衣装を着て、国会までの約1.5キロを行進した。登別市の警備員登山敬一さん(50)は「アイヌと日本人は別の民族と認めてほしい」。
7月には北海道洞爺湖サミットを前に「先住民族サミット」も開催される。
政府は、決議採択を前提にアイヌの権利や施策に関する懇談会を設ける方向で検討しているが、先住権への警戒は緩めていない。阿部一司ウタリ協会副理事長は「私たちは先住権を大上段に振りかぶるつもりはない。雇用や教育、年金といった実現が可能な施策を求めている」としている。