日本ヒューレット・パッカード(日本HP)が5月21日に発表した「HP 2133 Mini-Note PC」が大きな注目を集めている。国内販売される下位モデルが59,850円、上位モデルでも79,800円という価格に加え、高解像度のディスプレイ、たっぷりサイズのストレージ、余裕あるキーボードと機能面での犠牲が少ないこと、この価格帯としては極めて高い質感を持つことなどが、評価されているのだろう。すでに発売されている海外でも好評で、バックオーダーがかなり積み上がっているという。わが国での発表が遅れた理由の1つはおそらくこれだろう。 このHP 2133を前々回Eee PCについて触れた時の特徴比較に当てはめると、下表のようになる。純粋に携帯性を比べれば、Eee PCがHP 2133を上回ると思うが、○と△の差をつけるほどではないと思う。機能(ディスプレイ解像度、I/O、ストレージ容量、拡張スロット等)はHP 2133の圧勝で、限りなく◎に近い○だろう。このクラスでExpressCard/54スロットとSDHCスロットの両方を備えるのは、かなり贅沢な仕様だ。
キーボードはフルサイズの92%のサイズを確保しており、このクラスとしては最も優れたものに違いない。ただ、キートップが窪んでいること、キートップ間に隙間がほとんどないレイアウト等、若干の慣れは必要だ。逆に慣れられそうにないのはタッチパッドで、あまりにキーボードに近すぎて、どうしても触ってしまう。必要な時以外はスイッチで切っておくしかないかもしれない。外付けのマウスを使うのであれば、ぜひ内蔵Bluetoothで利用したいものだ。 ●スペックは値段相応か 評価が難しいのは性能で、まだ筆者の手元に断定できるほどの材料がない。ただ、発表会場等で触った感じでは、Eee PCに採用されているULVのCeleron M(900MHz品を630MHz駆動)に大きく見劣りすることはないけれど、という雰囲気である。 HP 2133が採用するVIA C7-M ULVは、一応SSE3までサポートすることになっているから、SSEサポートのないGeode LX等よりは動画の再生等にも強いハズ。だが、発表会場のデモ機を見た限り、YouTubeの動画を完全にフレームを落とさず再生するのは難しい、という印象だった。回線等の問題もあるから一概には言えないが、日本HPが言うように「メインマシンとして」使えるかどうかは用途(アプリケーション)次第、というところだ。少なくとも動画のエンコード等を行なうマシンでないのは確かである。なお、しばらく使っていると結構熱くなり、ファンも回り出すが、C7-M ULVが90nm SOIで作られていることを考えれば、こんなものなのかもしれない。 チップセット内蔵のグラフィックス(VIA Chrome9)は、DirectX 9対応で、一応Aeroも動作する、というレベル。性能について大きな期待をするのは難しい。ただ、個人的な感想ではあるが、Intelの内蔵グラフィックスより明らかに優れている点が1つある。それは、起動時あるいはスリープからの復帰時に、スクリーンが点滅しないことだ。Vistaに対応した現在のIntel内蔵グラフィックスは、起動時や復帰時に2回スクリーンが点滅する。以前、点滅が1回だったころ、Intelのお偉いさんにこれは安っぽいから止めるべきだと進言したことがあるのだが、改善されるどころか2回も点滅するようになってしまった。この点滅がないというのは個人的には大切な点で、とても気分がいい。 ちなみにチップセットは、ノートPC向けのVN896ではなく、デスクトップPC用とされるCN896が使われている。なぜなのかは分からないが、あるいはグラフィックスコアのクロック等の理由があるのかもしれない。いずれにしても、組み込み用のITX系マザーボードで良く目にした(する)VN800やVX700と違い、VN896、CN896ともPCI Express世代のチップセットだ(VN896はIntel製モバイルCPUにも対応することになっている)。 ●約2万円の差がお得感のある上位モデル 価格については49,800円のEee PCが圧勝のように見えるが、中身を見ていくと必ずしもそうではない。また、私見ではHP 2133で「安い」のは59,850円の下位モデルではなく、79,800円の上位モデルの方だ。何せ、この2万円(厳密には19,950円)で、
と、これだけ追加されるのである。おそらくこの2万円は、業界で最も価値のある2万円ではないだろうか。 特に注目されるのはOSがVista Home BasicからVista Businessになることだ。下位モデルに採用されているVista Home BasicからVista Home Premiumへのステップアップグレード版でさえ店頭で購入すると1万円以上(Vista Home BasicからVista Businessへのステップアップグレードは設定されていない)、Vista Business SP1のDSP版も2万円強(FDDバンドル)する。もちろん、リテール版ともなるとアップグレード版でも27,000円前後、通常版に至っては4万円近くする。Vista Businessにアップグレードされるだけでも1万円近い価値がある。 金額的なメリットに加えVista Businessの採用には、XP Professionalへのダウングレード権の入手という側面もある。現時点でHP 2133のOSにWindows XPが設定されていないこと、6月末でWindows XPの一般への販売が終息することを考えると、HP 2133でWindows XPを利用するには、このダウングレード権を入手するしかない日がくるのもそう遠い話ではない。Windows XPを使い、ビデオをオーバーレイ表示する方が、本機のグラフィックス性能には見合っているかもしれないことを考えると、余計に試してみたいオプションである。すでにHPのWebサイトには、Windows XP用のドライバが揃えられている。 ●絶妙なスペックの“落としどころ”
というわけで、本機のライバルだが、Eee PCとは少し系統の違ったマシンだという印象を持つ。Eee PCの方がある意味、尖ったマシンであり、使い手を選ぶ。2代目(Eee PC 900)は少し丸くなった印象を受けるが、それでも4GBと8GBに分かれたストレージなど、使いこなしの要素が大きい。 それに比べてHP 2133はずっと普通のノートPCに近い。キーボードとディスプレイという人間が直接触れるインターフェイスの部分でストレスが少ないし、一般的なノートPCと同等のストレージスペースを持つ。高価なモバイルノートPCと比べると、CPUパワーとバッテリ駆動時間が見劣りするが、どこかを削らない限り、価格を安くすることはできない。 バッテリ駆動時間があまり長くないこと、1.2kgを越える重量という点で、本機に近いのはLenovoのThinkPad X61シリーズだろう。X61が搭載するCPUはCore 2 Duoで、その性能は本機と比べものにならないほど高い。しかし実売価格が12万円と、HP 2133の5割り増しになる上、安価なモデルはすべてVista Home Basic搭載機だ。Vista Business、あるいはXP Professional搭載モデルを選択すると確実に15万円を越えるから、実際の価格は5割り増しというより2倍というイメージになる。意外と価格差は大きいのである。 というわけで、HP 2133の落としどころはなかなか良いと思う。もう1つ思うことがあるとすれば、このマシンをこの価格でリリースするために、新しい技術、新しいデバイスは特に必要ではなかった、ということだ。CPUやチップセットをはじめ、HP 2133に目新しい技術は特に存在しない。にもかかわらず、これまでHP 2133が誕生しなかったのは、このような落としどころのマシンが売れる、とメーカーサイドで思っていなかったからである。それを気づかせたという点で、やはりEee PCの果たした役割は大きかったと思う。 □日本ヒューレット・パッカードのホームページ (2008年5月26日) [Reported by 元麻布春男]
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