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  ▼ 記者の視点
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「病理医改革元年」
“裏方”ではなくなった病理医
2008.5.23

 今年4月から病理の診療標榜科がスタートした。標榜科に関しては日本病理学会にとって歴史の長い活動で、およそ20年来の要望が実現化した格好だ。

 一方で、今回の診療報酬改定では「第3部検査」の項目から独立し、「第13部病理診断」が新設された。

 この病理の独立について同学会の関係者からは、領収書上、検査に隠れていた病理診断が表立って表記され、「病理診断」という言葉が世間に認知される機会が拡大することへの期待が寄せられている。一方、取材側としては今後、病理が独自の発展、改革を進める上での“足固め”となる非常に意義深いものととらえている。

◎ 分子標的治療薬の登場で病理がクローズアップ

 病理の診療標榜科をめぐっては、とにかく「患者を診ない科」という理由で、学会の要望が見送られてきた経緯がある。

 しかし、20年にわたる歳月の中、病理の医療技術もそれらに対する患者ニーズも大きく変わった。その1つが、今がん医療で注目されている分子標的治療だ。

 例えば、分子標的治療薬であるトラスツズマブ(製品名=ハーセプチン)は、HER2タンパクに結合するモノクローナル抗体で、主にHER2を発現する乳がんに対して高い治療効果がある。

 トラスツズマブは高額な治療薬だが、HER2が増幅している患者を見極めて投与すれば、不必要な投与がなくなり、何より患者にとって無駄な副作用で苦しむ必要がなくなるというメリットがある。そうした分子標的の見極めは病理医の役割の1つで、それを確実にできる病理診断部門に対するニーズが技術の進歩とともに高まりつつある。

 「本当のことを知りたい」と、セカンドオピニオンを求めて病理医のもとを訪れるがん患者も増えている。とある医療ジャーナリストが、「がん治療をめぐって多くの情報が溢(あふ)れる中、物的証拠をもって真実を提示できるのが病理医」と話していた。治療法に関する情報が溢れる中で方向性を示し、選択肢を判断する材料を提示するという点は、積極的に治療に臨もうとする患者ニーズが切り開いた病理医の新たな役割といえるだろう。

 同学会の長村義之理事長(東海大医学部教授)もこうした動きを踏まえ、「患者を診る、診ないの議論よりは、むしろそうした役割を重視した結果の診療標榜科であると認識している」との見方を示している。

◎ 患者ニーズ示し、若手病理医の確保を

 ただ一方で、そうしたがん医療の基盤を支えるべき存在の病理医は、不足しているのが現状だ。2007年度現在、日本病理学会が認定した病理専門医は全国に1996人、人口1人当たりでは米国の3分の1しかおらず、特に若手病理医の不足は深刻な状況となっている。

 がん医療の拠点として整備されているがん診療連携拠点病院でさえ、病理医不在の病院は少なくない。こうした危機的状況に厚生労働省も、今後重点的に対応すべき領域として小児科、産科などとともに病理診断を挙げている。

 診療標榜科として病理医が患者ニーズにどう対応し、姿を変えていくのか。そしてその変化を病理医不足の歯止めにつなげることができるのか―。

 長村理事長は、「大きな変化をポジティブに受け止め、患者のため、医療のために変わっていく必要があるとわれわれ病理医は自覚している」と話している。今年のターニングポイントを「病理改革元年」とできるのか、病理医そのものの変化、そして病理医を取り巻く体制の変化に、さらに注目していきたい。(後藤 恭子)



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