高校３年生の２月
高校３年生の２月…受験や就職など進路が決まるシーズンである。
当時、僕が通っていた高校は中の上程度の学力の学校だった。
クラスの中には進学組と就職組が半々くらいだったと記憶している。
たとえば僕の隣の席のＫは暴走族に所属。
父親は暴力団兼すし屋という彼の好きな言葉は『正義と任侠』。
そんな彼はあっけらかんと
「オヤジが暴力団じゃと気苦労が多いけん、就職すっことにした」
と、高倉健に感化された妖しげな広島弁（？）を操りながら、
さっさと陸上自衛隊への入隊を決めてしまった。
そして僕に、
「戦争になったらお前も入隊しろよ。俺と一緒に突撃しようぜ」
などと、冗談とも本気ともつかないことを真顔で言ってきたりした。
何故か彼と仲が良かった僕は、
「うん、そのときはお世話になるよ」
と答えていたが、Ｋと突撃するのなんて想像するだけでも恐ろしかった。
何しろ彼は体育の授業でマラソンなどは手抜きしまくるくせに、
ラグビーなどの格闘技系の種目になると突然キバを剥き、
「おらおら〜！」
などと叫びながら敵陣に突進し、周りの生徒にケガをさせていた。
“男の魂”が燃えるからだと彼は語っていた。
この突撃力（？）は目を見張るものがあり
当然のようにラグビー部から誘いがかかったが、
「自分、不器用ですから」
と高倉健ばりの言い訳をして顧問をケムに巻いたらしい。
本当の所は、愛車の改造に余念がなかったからなのだが、
バイタリティーというか、ユニークさと言う点では
彼は高校時代の僕の友人の中では群を抜いていた。
数年後に富士の演習に参加しているという風の便りがあったが、
今は音信普通で、どこで何をしているのか全く分からない。
僕は高校を、バレーボールが強く硬派な男子校というだけで選択した。
その高校は僕が所属していたバレーボール部も強かったが、
野球部も都大会でベスト８に入ったりして、結構他の部活も強かった。
当時、野球部躍進の原動力となったのがＴというエースだった。
彼は２年生からエースをつとめ、１４０キロ近いストレートを武器に
夏の大会では都大会の１試合奪三振記録に迫る力投を見せ、
プロのスカウトも視察に訪れたほどの逸材だった。
が、体育会系の生徒にありがちなことに彼は勉強嫌いだった。
いわゆる脳みそも筋肉という典型的な体育会男だったのだ。
成績は体育を除いて１０段階のオール３。
赤点ギリギリの超低空飛行である。
高校に入学するときも、
野球部顧問の熱烈な推薦でウラ入学したから、
勉強が出来なくても特例扱いで３年まで進学出来たという噂も立った。
とはいえ、野球部で存分に活躍したＴは学校のヒーローとなり、
野球の強い大学から推薦入学の話がいくつも来た。
大学のことはよく分からないから顧問に任せたという彼は、ある日
「おう、大学決めたぞ。来週推薦試験だ」
と僕らに喜び勇んで話し掛けてきた。
「よかったなぁ」
などと僕らは一緒になって喜んでいたが、誰かが、
「推薦入試っていっても学力試験はあるんだろう」
と言い出した。
Ｔの話では来週の試験で国語と英語と面接があるらしい。
Ｔは野球部を夏に引退してからも筋力が落ちるのを防ぐために
後輩達と練習に励んでいて、全く受験勉強をしていなかった。
そこで、僕らは急遽Ｔのために作戦を立ててやることになった。
しかし、複雑な作戦はかえってＴを混乱に陥れる危険がある。
そこで、以下のようなシンプルな作戦を立てるに至った。
�ゝ�号で答える問題はすべて“３”と書く
��英語の空欄問題は“ｏｆ”と書く
�Ｌ明椹邯海任呂修梁膤悗鬚曚瓩舛�る
この作戦はクラスで唯一、
Ｓ台という予備校に通っていた秀才のＹが考案した。
Ｙは二言目には『データ』と口にするほど
統計を調べるのが好きな男であった。
彼によれば、記号の問題で最も多い正解の記号は『３』、
英語の空欄穴埋め問題で最も多い正解の単語は『ｏｆ』、
面接試験ではとにかく相手の心象を良くするに限るということだった。
「よっしゃ、この位なら簡単だ」
と言って僕らが立てた作戦を手に試験に向かったＴは、
意気揚揚と引き上げてきた。
「いやぁ簡単だった」
彼が話すところでは、
�々餮譴量簑蠅蓮悗△覆燭量瓦鬘苅娃飴�で書きなさい』
��英語の問題は『英単語を知っているだけ書きなさい』
で面接官も優しく、学校をほめたら喜んだというのである。
結果はもちろん合格。
Ｔは晴れて大学野球にデビューすることになった。
しかし、後で聞いたところ、
Ｔは英語の問題で『英単語を知っているだけ書きなさい』の答えに、
『ｏｆ』とだけ書いたという。
一方、僕は医学部系を狙ってまともに受験したがあっけなく全滅。
長く辛い浪人生活を送ることになってしまった…。
『ｏｆ』とだけ書いて大学に合格したＴをうらやみながら、
世の中は不可思議だ、と強く感じた高校３年生の２月である。
当時、僕が通っていた高校は中の上程度の学力の学校だった。
クラスの中には進学組と就職組が半々くらいだったと記憶している。
たとえば僕の隣の席のＫは暴走族に所属。
父親は暴力団兼すし屋という彼の好きな言葉は『正義と任侠』。
そんな彼はあっけらかんと
「オヤジが暴力団じゃと気苦労が多いけん、就職すっことにした」
と、高倉健に感化された妖しげな広島弁（？）を操りながら、
さっさと陸上自衛隊への入隊を決めてしまった。
そして僕に、
「戦争になったらお前も入隊しろよ。俺と一緒に突撃しようぜ」
などと、冗談とも本気ともつかないことを真顔で言ってきたりした。
何故か彼と仲が良かった僕は、
「うん、そのときはお世話になるよ」
と答えていたが、Ｋと突撃するのなんて想像するだけでも恐ろしかった。
何しろ彼は体育の授業でマラソンなどは手抜きしまくるくせに、
ラグビーなどの格闘技系の種目になると突然キバを剥き、
「おらおら〜！」
などと叫びながら敵陣に突進し、周りの生徒にケガをさせていた。
“男の魂”が燃えるからだと彼は語っていた。
この突撃力（？）は目を見張るものがあり
当然のようにラグビー部から誘いがかかったが、
「自分、不器用ですから」
と高倉健ばりの言い訳をして顧問をケムに巻いたらしい。
本当の所は、愛車の改造に余念がなかったからなのだが、
バイタリティーというか、ユニークさと言う点では
彼は高校時代の僕の友人の中では群を抜いていた。
数年後に富士の演習に参加しているという風の便りがあったが、
今は音信普通で、どこで何をしているのか全く分からない。
僕は高校を、バレーボールが強く硬派な男子校というだけで選択した。
その高校は僕が所属していたバレーボール部も強かったが、
野球部も都大会でベスト８に入ったりして、結構他の部活も強かった。
当時、野球部躍進の原動力となったのがＴというエースだった。
彼は２年生からエースをつとめ、１４０キロ近いストレートを武器に
夏の大会では都大会の１試合奪三振記録に迫る力投を見せ、
プロのスカウトも視察に訪れたほどの逸材だった。
が、体育会系の生徒にありがちなことに彼は勉強嫌いだった。
いわゆる脳みそも筋肉という典型的な体育会男だったのだ。
成績は体育を除いて１０段階のオール３。
赤点ギリギリの超低空飛行である。
高校に入学するときも、
野球部顧問の熱烈な推薦でウラ入学したから、
勉強が出来なくても特例扱いで３年まで進学出来たという噂も立った。
とはいえ、野球部で存分に活躍したＴは学校のヒーローとなり、
野球の強い大学から推薦入学の話がいくつも来た。
大学のことはよく分からないから顧問に任せたという彼は、ある日
「おう、大学決めたぞ。来週推薦試験だ」
と僕らに喜び勇んで話し掛けてきた。
「よかったなぁ」
などと僕らは一緒になって喜んでいたが、誰かが、
「推薦入試っていっても学力試験はあるんだろう」
と言い出した。
Ｔの話では来週の試験で国語と英語と面接があるらしい。
Ｔは野球部を夏に引退してからも筋力が落ちるのを防ぐために
後輩達と練習に励んでいて、全く受験勉強をしていなかった。
そこで、僕らは急遽Ｔのために作戦を立ててやることになった。
しかし、複雑な作戦はかえってＴを混乱に陥れる危険がある。
そこで、以下のようなシンプルな作戦を立てるに至った。
�ゝ�号で答える問題はすべて“３”と書く
��英語の空欄問題は“ｏｆ”と書く
�Ｌ明椹邯海任呂修梁膤悗鬚曚瓩舛�る
この作戦はクラスで唯一、
Ｓ台という予備校に通っていた秀才のＹが考案した。
Ｙは二言目には『データ』と口にするほど
統計を調べるのが好きな男であった。
彼によれば、記号の問題で最も多い正解の記号は『３』、
英語の空欄穴埋め問題で最も多い正解の単語は『ｏｆ』、
面接試験ではとにかく相手の心象を良くするに限るということだった。
「よっしゃ、この位なら簡単だ」
と言って僕らが立てた作戦を手に試験に向かったＴは、
意気揚揚と引き上げてきた。
「いやぁ簡単だった」
彼が話すところでは、
�々餮譴量簑蠅蓮悗△覆燭量瓦鬘苅娃飴�で書きなさい』
��英語の問題は『英単語を知っているだけ書きなさい』
で面接官も優しく、学校をほめたら喜んだというのである。
結果はもちろん合格。
Ｔは晴れて大学野球にデビューすることになった。
しかし、後で聞いたところ、
Ｔは英語の問題で『英単語を知っているだけ書きなさい』の答えに、
『ｏｆ』とだけ書いたという。
一方、僕は医学部系を狙ってまともに受験したがあっけなく全滅。
長く辛い浪人生活を送ることになってしまった…。
『ｏｆ』とだけ書いて大学に合格したＴをうらやみながら、
世の中は不可思議だ、と強く感じた高校３年生の２月である。
2002.02.18 ｜ ｜ コメント[0] ｜ トラックバック[0]