高校２年生の３月
高校２年生の３月、僕は人生で最大の危機を迎えたことがある。
前回の日記でも書いたが、僕は東京都内の男子校に通っていた。
中学時代バレーボールに燃えていた僕は、ただ単にバレー部が強く、
硬派（今や完全に死語になってしまったが…）な男子校がいい！
というだけで進学先を決めたような経緯がある。
成績は“中の上”。
決して進学校ではなかったが、学内の行事はなかなか盛んだった。
たとえば毎年５月に行われる球技大会では、
１年生〜３年生がクラス対抗で、ラグビー・ソフトボール・
バレーボール・バスケットボールに分かれて順位を競うのだが、
１年生対３年生の試合ともなると、
『こら゛（巻舌で）！後のこと考えて試合しろ゛！』
などと恫喝があることもしばしばで、
純粋に技術やチームワークを競うというより、どつきあいに近かった。
特にラグビーでは、
先輩に後輩がタックルをかましたというので乱闘になり、
ボールと関係無いところでタックルの嵐が吹き荒れたりしていた。
スクラムを組んでも、
ボールを奪うというよりも相手を潰すことしか考えず、
ホイッスルにお構い無しで押し合いへし合いになり、
けが人が続出するというのが、この種目の儀礼みたいなものだった。
逆に普段抑圧されている後輩が、特定の先輩を目の敵にして
３人がかりでタックルするというような光景もしばしば見られた。
話が横にそれてしまった。
今は修学旅行で海外に出掛ける高校もあると聞くが、
僕が通っていた高校の修学旅行は、山形蔵王のスキー合宿だった。
高校２年生の３月に３泊４日でスキーが出来ると言えば聞こえがいいが、
３泊の内、行きと帰りの２泊が車中泊という過酷なスケジュールだった。
僕はそれまでスキーの経験などは全く無く、
「ううぅ、滑れるようになるのか不安だ！」
と思う半面、
「カッコ良く滑って、可愛い子に惚れられたらどうしよう」
などとおポンチな妄想を膨らませてもいた。
スキー合宿初日、僕らは
�〜瓦�の初心者
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��パラレルが滑れる
の３つのグループに分かれてレッスンを開始した。
僕は当然�，離哀襦璽廚貌�ることになった。
１グループは５人ずつで構成され、
僕らのグループにはやたらに気合に入ったスパルタ先生がついた。
口癖は『スキーは勇気と度胸』で、びびって尻餅でもつこうものなら
「勇気が足りない！男なら度胸で滑れ！」
と怒声が飛ぶ始末だった。
さらに、のっけから初心者の僕らをリフトに乗せてコースに放り出し、
「ここを滑らないと帰れないぞ」
と、泳げない子供を川に投げ出すようなスパルタ指導を徹底させた。
ろくに滑れも止まれも出来なかった僕たちはたちまち混乱をきたし、
３人乗りリフトから下りるときに３人揃って転倒してリフトを止めたり、
（これは記憶にある限り５回やっている）
ゲレンデで立ち止まって話をしていたカップルに真っ直ぐ激突したり、
ゲレンデ脇で開いていたラーメン屋の屋台に真正面から突っ込んだり、
ゲレンデの傍の喫茶店の窓ガラスにぶつかってお客さんを驚かせたり、
とにかくありとあらゆるトラブルを巻き起こしながら練習に励んだ。
こんな有様だったから、他の初心者グループから
「お前のグループに入らなくて良かった」
と言われたが、僕らはスパルタ先生の指導を受けた分、
上達も早く、１日目の午後には何とかボーゲンが形になり、
カルガモの親子よろしく、初心者用のコースを
先生の後について５人揃ってよろよろ滑れるようになった。
で、スキー合宿の最終日には、恒例の長距離滑降があった。
これは山形蔵王の最高点から滑る
このスキー合宿の総括ともいえるので、
初心者のグループ以外は全員参加が義務付けられていた。
が、我らがスパルタ先生は、
「勇気と度胸があればこんなモノなんでも無い！」
と、僕らの初心者グループもこの長距離滑降に参加することになった。
スキーを始めて３日目の僕らは少しずつコツをつかみ始めていたが、
まだボーゲンとパラレルの中間のあやしい滑りしか出来ておらず、
山形蔵王の最高地点からの滑降にはかなり不安があった。
その前夜、学年全員が集まって映画鑑賞会が開かれた。
最初は山形蔵王の自然を紹介した１０分くらいの映画で、
『木に雪が付いて出来た樹氷は蔵王のシンボルです』とか、
『天気がよければ、はるか彼方まで見渡せる絶景が広がります』と、
いかに山形蔵王の最高点からの眺めがいいかを語りかけた。
続いて、これは未だに上映の理由がナゾなのだが、
『八甲田山』が流された。
てっきり最新映画が流れると考えていた僕らはがっかりしたが、
冬の八甲田山に訓練で入り、次々と倒れる帝国陸軍兵士の姿、
「隊長！道に迷いました…もうダメです…」
「右も左も雪しか見えません！」
「寝るな！寝たら死ぬぞ！」
という叫びに僕らは本当にびびってしまったのを覚えている。
そして最終日の午後、僕らは高速ゴンドラリフトに初めて乗車した。
初心者集団なので迂回コースばかりを選んで滑降するため、
時間がかかるからと、他のグループより一足先にリフトに乗った。
すると、山頂が近付くにつれて天気が荒れ出してきたではないか！
乗車時間１０分だから、かなり高いところまで行くことは予想したが、
終点が近付く頃には風は吹き荒れ、雪が横なぐりに降ってきた。
ゴンドラリフトを降りて僕らは真っ青になった。
まず猛烈な吹雪で視界が殆ど効かなくなっていた。
そして僕らの数グループ後からは天候悪化で乗車不可になっていた。
さらに帰りのバスの出発時間まであと２時間しかなかった。
ゴンドラが動かないから進むことも引くことも出来ない。
「しばらく様子を見る」
と言っていたスパルタ先生も３０分もするうちにしびれを切らし、
「こうなったら強行突破する」
と僕たちに言い放った。
吹雪の中、僕たちはおずおずとゲレンデに立った。
視界がほとんど効かず、
映画にあった『絶景』も『樹氷』も全く見ることが出来なかった。
ただ、ひたすら前を行く友達の背中を見つめてボーゲンで滑った。
視界は効かず、友達の背中しか見えていなかったのだ。
吹きすさぶ風。
容赦なく降りかかる雪。
真っ暗な空。
猛烈な吹雪で顔の周りに巻いていたタオルは凍り、
耳にはただビュービューという音しか聞こえなかった。
頭の中では早く下に辿り付きたい、という思いと、
きのうの夜に見た映画『八甲田山』のシーンがグルグル回っていた。
「隊長！道に迷いました…もうダメです…」
「右も左も雪しか見えません！」
「寝るな！寝たら死ぬぞ！」
もしかしたら遭難するかもしれない…。
死体は氷の中から５０年後くらいに発見されるのか…。
思えば短い人生だった…。
とか何とか思いながら僕は両手にストックを握り締め、
へっぴり腰のボーゲンで必死に滑り続けた。
どの位滑っていただろう、ふと見覚えのあるゲレンデにやって来た。
そう、そこはスキー合宿初日から連れて行かれたコースだったのだ！
「助かった…」
後から分かったのだが、
僕らが滑り始めて１０分後にゴンドラリフトは動き出し、
天候回復を待っていた他のグループはゴンドラで下に下りたそうだ。
サバイバルな修学旅行を体験した、高校２年生の３月であった。
前回の日記でも書いたが、僕は東京都内の男子校に通っていた。
中学時代バレーボールに燃えていた僕は、ただ単にバレー部が強く、
硬派（今や完全に死語になってしまったが…）な男子校がいい！
というだけで進学先を決めたような経緯がある。
成績は“中の上”。
決して進学校ではなかったが、学内の行事はなかなか盛んだった。
たとえば毎年５月に行われる球技大会では、
１年生〜３年生がクラス対抗で、ラグビー・ソフトボール・
バレーボール・バスケットボールに分かれて順位を競うのだが、
１年生対３年生の試合ともなると、
『こら゛（巻舌で）！後のこと考えて試合しろ゛！』
などと恫喝があることもしばしばで、
純粋に技術やチームワークを競うというより、どつきあいに近かった。
特にラグビーでは、
先輩に後輩がタックルをかましたというので乱闘になり、
ボールと関係無いところでタックルの嵐が吹き荒れたりしていた。
スクラムを組んでも、
ボールを奪うというよりも相手を潰すことしか考えず、
ホイッスルにお構い無しで押し合いへし合いになり、
けが人が続出するというのが、この種目の儀礼みたいなものだった。
逆に普段抑圧されている後輩が、特定の先輩を目の敵にして
３人がかりでタックルするというような光景もしばしば見られた。
話が横にそれてしまった。
今は修学旅行で海外に出掛ける高校もあると聞くが、
僕が通っていた高校の修学旅行は、山形蔵王のスキー合宿だった。
高校２年生の３月に３泊４日でスキーが出来ると言えば聞こえがいいが、
３泊の内、行きと帰りの２泊が車中泊という過酷なスケジュールだった。
僕はそれまでスキーの経験などは全く無く、
「ううぅ、滑れるようになるのか不安だ！」
と思う半面、
「カッコ良く滑って、可愛い子に惚れられたらどうしよう」
などとおポンチな妄想を膨らませてもいた。
スキー合宿初日、僕らは
�〜瓦�の初心者
�▲棔璽殴鵑禄侏茲�
��パラレルが滑れる
の３つのグループに分かれてレッスンを開始した。
僕は当然�，離哀襦璽廚貌�ることになった。
１グループは５人ずつで構成され、
僕らのグループにはやたらに気合に入ったスパルタ先生がついた。
口癖は『スキーは勇気と度胸』で、びびって尻餅でもつこうものなら
「勇気が足りない！男なら度胸で滑れ！」
と怒声が飛ぶ始末だった。
さらに、のっけから初心者の僕らをリフトに乗せてコースに放り出し、
「ここを滑らないと帰れないぞ」
と、泳げない子供を川に投げ出すようなスパルタ指導を徹底させた。
ろくに滑れも止まれも出来なかった僕たちはたちまち混乱をきたし、
３人乗りリフトから下りるときに３人揃って転倒してリフトを止めたり、
（これは記憶にある限り５回やっている）
ゲレンデで立ち止まって話をしていたカップルに真っ直ぐ激突したり、
ゲレンデ脇で開いていたラーメン屋の屋台に真正面から突っ込んだり、
ゲレンデの傍の喫茶店の窓ガラスにぶつかってお客さんを驚かせたり、
とにかくありとあらゆるトラブルを巻き起こしながら練習に励んだ。
こんな有様だったから、他の初心者グループから
「お前のグループに入らなくて良かった」
と言われたが、僕らはスパルタ先生の指導を受けた分、
上達も早く、１日目の午後には何とかボーゲンが形になり、
カルガモの親子よろしく、初心者用のコースを
先生の後について５人揃ってよろよろ滑れるようになった。
で、スキー合宿の最終日には、恒例の長距離滑降があった。
これは山形蔵王の最高点から滑る
このスキー合宿の総括ともいえるので、
初心者のグループ以外は全員参加が義務付けられていた。
が、我らがスパルタ先生は、
「勇気と度胸があればこんなモノなんでも無い！」
と、僕らの初心者グループもこの長距離滑降に参加することになった。
スキーを始めて３日目の僕らは少しずつコツをつかみ始めていたが、
まだボーゲンとパラレルの中間のあやしい滑りしか出来ておらず、
山形蔵王の最高地点からの滑降にはかなり不安があった。
その前夜、学年全員が集まって映画鑑賞会が開かれた。
最初は山形蔵王の自然を紹介した１０分くらいの映画で、
『木に雪が付いて出来た樹氷は蔵王のシンボルです』とか、
『天気がよければ、はるか彼方まで見渡せる絶景が広がります』と、
いかに山形蔵王の最高点からの眺めがいいかを語りかけた。
続いて、これは未だに上映の理由がナゾなのだが、
『八甲田山』が流された。
てっきり最新映画が流れると考えていた僕らはがっかりしたが、
冬の八甲田山に訓練で入り、次々と倒れる帝国陸軍兵士の姿、
「隊長！道に迷いました…もうダメです…」
「右も左も雪しか見えません！」
「寝るな！寝たら死ぬぞ！」
という叫びに僕らは本当にびびってしまったのを覚えている。
そして最終日の午後、僕らは高速ゴンドラリフトに初めて乗車した。
初心者集団なので迂回コースばかりを選んで滑降するため、
時間がかかるからと、他のグループより一足先にリフトに乗った。
すると、山頂が近付くにつれて天気が荒れ出してきたではないか！
乗車時間１０分だから、かなり高いところまで行くことは予想したが、
終点が近付く頃には風は吹き荒れ、雪が横なぐりに降ってきた。
ゴンドラリフトを降りて僕らは真っ青になった。
まず猛烈な吹雪で視界が殆ど効かなくなっていた。
そして僕らの数グループ後からは天候悪化で乗車不可になっていた。
さらに帰りのバスの出発時間まであと２時間しかなかった。
ゴンドラが動かないから進むことも引くことも出来ない。
「しばらく様子を見る」
と言っていたスパルタ先生も３０分もするうちにしびれを切らし、
「こうなったら強行突破する」
と僕たちに言い放った。
吹雪の中、僕たちはおずおずとゲレンデに立った。
視界がほとんど効かず、
映画にあった『絶景』も『樹氷』も全く見ることが出来なかった。
ただ、ひたすら前を行く友達の背中を見つめてボーゲンで滑った。
視界は効かず、友達の背中しか見えていなかったのだ。
吹きすさぶ風。
容赦なく降りかかる雪。
真っ暗な空。
猛烈な吹雪で顔の周りに巻いていたタオルは凍り、
耳にはただビュービューという音しか聞こえなかった。
頭の中では早く下に辿り付きたい、という思いと、
きのうの夜に見た映画『八甲田山』のシーンがグルグル回っていた。
「隊長！道に迷いました…もうダメです…」
「右も左も雪しか見えません！」
「寝るな！寝たら死ぬぞ！」
もしかしたら遭難するかもしれない…。
死体は氷の中から５０年後くらいに発見されるのか…。
思えば短い人生だった…。
とか何とか思いながら僕は両手にストックを握り締め、
へっぴり腰のボーゲンで必死に滑り続けた。
どの位滑っていただろう、ふと見覚えのあるゲレンデにやって来た。
そう、そこはスキー合宿初日から連れて行かれたコースだったのだ！
「助かった…」
後から分かったのだが、
僕らが滑り始めて１０分後にゴンドラリフトは動き出し、
天候回復を待っていた他のグループはゴンドラで下に下りたそうだ。
サバイバルな修学旅行を体験した、高校２年生の３月であった。
2002.03.06 ｜ ｜ コメント[0] ｜ トラックバック[0]