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2008年5月23日(金)

「良い金利上昇」と「悪い金利上昇」

 グリーンスパン氏がFRB議長だった2004年や2005年頃に、FRBがFF金利を上げ続けたにもかかわらず、米国の長期債金利は上がらず、むしろ、利上げ後に下がることさえあり、上昇しない金利について、グリーンスパン氏は「謎」と言いました。引き締め効果が長期金利に反映されず、この頃続いた低い長期金利が今日の住宅バブルの原因のひとつにもなりました。一般的に、金利は長期金利のほうが短期金利より低いことは有り得ず、それは将来の景気後退を示唆する現象かどうかが議論されましたが、今となれば、インフレが抑制されていたことを反映していたかもしれません。

 現状は正常なイールドカーブとなり、将来の景気拡大を示す形であると教科書的に言えそうですが、グリーンスパン時代の「謎」がインフレ抑制要因が強かったと考えると、現在はインフレリスクが増大して長短金利の逆転が解消し、イールドカーブが元に戻ったわけで、昨日の米債市場のような金利上昇は「悪い金利上昇」ということでしょう。反対に、「良い金利上昇」は現在の豪州のように、資源国として投資意欲が拡大し、資金ニーズが高くなり、景気拡大による金利上昇と言うことが出来そうです。

 しかし、悪い金利上昇を米国だけの問題として他人事のように考えていたら、日本でも、この一ヶ月間だけで債券先物が1日で1円以上も急落し、金利が急上昇した日が3度もありました。もちろん、日本に積極的な建設重要や設備投資の資金ニーズがあるわけが無く、景気動向において金利が上昇する要因はありません。まさしく、「悪い金利上昇」の範疇に入る出来事でしょう。

 株式市場の参加者にとって、幸か不幸か債券急落毎に株先が買われ、裁定買い残を積み上げながら上昇してきたことがあります。古くからの債券市場の関係者は債券急落について、20年ほど前の債券市場に起きた大事件を思い出す方もいらっしゃるでしょう。その事件がしばらくしてから起きた株式市場を震撼させる出来事の警告となっていたことは後で分かったことでした。20年以上前の債券市場の教訓が杞憂に終われば良いのですが、用心するに越したことは無いかもしれません。

2008年5月21日(水)

投資家だけに与えられる「大型減税効果」

 米国では景気対策の為に16兆円規模の戻し税方式の大型減税が実施中です。ただ、これは急増する財政赤字を更に積み上げますので、景気浮揚効果が上手く働かなければ、「小渕政権のばら撒き政策」と同様、後に借金を残すことになりかねない諸刃の剣です。それに比べて、日本で6月に発生する「投資家だけに行われる大型減税効果」は財政負担も無く、歓迎できるものでしょう。もちろん、日本の政府や政治家は無駄な財政支出を続けましたので、減税どころか消費税の増税しか考えていませんから、「減税効果」とは「上場企業がこれから行う期末配当金の支払い」を指します。

 ITバブル崩壊後、金融不況期の2002年3月期の東証1部企業の配当総額は2.4兆円でしたので、今回の配当額の「6.7兆円」は史上最大であるばかりでなく、4.3兆円の増加額で、さながら大型減税のようなものです。ガソリン税復活を見ても、国に税を払い戻す意向があるとは考えられず、政府・与党は民間の大盤振る舞いに感謝すべきでしょう。また、3月中に配当取り目的で株式を買っていた投資家なら、日経平均は3月に11600円−13400円のレンジでしたので、最も高い日に買ったとしても、本日値下がりした水準より高く売ることが出来、価格リスクも回避することが可能です。サブプライムローン問題に端を発した信用収縮の悪環境下であってもタイミング次第というわけです。

 しかし、大型減税並みの配当支払いを手放しで喜ぶことは出来ません。ひとつは、配当を得られる個人投資家の数が非常に少なくなっていることです。特に、若い世代では米国と比べて株式保有の比率が圧倒的に低く、一部の高齢世代に恩恵が偏ったままの状態です。また、折角の高配当ですが、その4割程度は海外に流出します。逆に言えば、外国人投資家の保有比率拡大に伴い、企業が増配を認めざるを得なくなったという追い詰められた増配が多いと言えます。株主に還元するというより、買収防衛の意図があります。

 企業の賃金は好業績でもほとんど上昇せず、好業績が一般に波及する「ダム論」が誤りだったことが証明されつつありますが、皮肉なことに、投資家には好業績が波及し、ダムの川下部分を潤すことになりました。今期の業績見通しは減益予想ですが、恐らく、配当は外国人投資家の圧力でほとんど下がらないでしょうから、日本の個人投資家に奮起を期待したいところです。

 日経平均は原油先物急騰やドル安、金融不安の再来などの悪材料山積で続落しました。日経平均はドル・円相場と連動して動く習性が強く、引き続き為替の動向がポイントになりそうですが、これまでと少し異なり、ユーロ・円相場では円安に動いており、ドル・ペッグ通貨のように推移していることでしょう。ドルと円が世界2弱通貨となったとすれば日本独自の問題として考えるべきことがあるはずです。また、PPIコアの急上昇で米金利に先高感が生じる場面でもドルが売られたことは市場が金利差縮小よりも景気に敏感に反応したということになり、波乱場面が続く可能性は高いと見るべきところです。

2008年5月20日(火)

銀行システムトラブルの勘違い

 先週月曜日に三菱東京UFJ銀行は旧UFJ銀行とのシステム統合でミスがあり、一部ATMに入手金が出来なくなるトラブルが発生しました。評価が高かったUFJのシステムを捨て、評価の低かった三菱のシステムに統合する経営判断だったことから、経営陣にすれば「絶対に失敗が許されないシステム統合」でしたが、それでもミスが起きてしまいました。経営陣や現場の担当者はさぞかし残念だったことでしょう。

 しかし、ミスはどのように注意したとしても起こり得ることです。今週は住友信託銀行のATMでトラブルが起きました。問題はシステムトラブル後の対応でしょう。経営者は銀行の信用に傷が付いたと感じているかもしれませんが、システムトラブルの問題点は銀行の信用が落ちることよりも利用者の信用が低下することにあります。その点、トラブル時の銀行の対応は充分でしょうか。

 常に銀行カードを持っている人でも通帳と銀行印を持ち歩く人はいませんから、カードだけでも非常時は店頭で出金が行えることを(特に、大規模なシステム変更時には)利用者に知ってもらうことが必要でした。また、出金が出来ないことも問題ですが、銀行システムのトラブルで更に問題となることは一部のATMで生じた「入金が出来ないトラブル」です。今回はゆうちょ銀行の他に、岡三証券日興コーディアル証券のATMによる入金が1日不可能でした。証券会社での利用者の場合、信用取引や先物オプション取引で、「正午までに追証の入金が無い場合、後場寄りに全ての建て玉を清算する」というルールがあります。1万円の入金が出来ない場合でも全ての建て玉が清算される可能性もありますから、入金できないトラブルは致命的な問題になりかねません。昨年の8月17日の翌営業日にこのようなトラブルが生じればどうだったでしょうか?先物オプション取引の場合の不足金は翌日の正午までに入金確認が行われる必要がありますが、銀行がそのような取引があることを想定しているとは思えません。

 実は、送金や入金が出来なかった場合の対応についてのマニュアルが充分整っていないのが実態でしょう。3時以降に窓口を開き難い事情や入金の日付を後から修正することは他行の協力が必要になり、ケース毎に対応するしかないからです。三菱UFJフィナンシャル・グループは本日引け後に08年3月期の連結純利益が28%の減益になったと発表しました。巨額のシステム統合費用も減益要因です。それにしても、費用以前の問題として、ミスは必ず起きるものという前提で利用者の立場に立ったマニュアルを作り込んでもらいたいものです。

 日経平均は米国株の伸び悩みを映して反落しました。売買金額は低調でしたが、低位大型株に関しては活況で、新日鉄住金、重工、三菱自、三洋電などが大商いで上昇しています。材料がある銘柄が多いとは言え、マネーゲーム化してきたことは相場の天井圏特有のこととして注意が必要でしょう。

2008年5月16日(金)

オイルマネーによる食糧安保政策

 今週の小さな扱いのニュースに、「サウジアラビアがタイで稲作農業に投資する」というものがありました。拡大するオイルマネーが今年だけで3倍に上昇した米の価格に対抗する手段として、農地から支配しようということのようです。サウジアラビアは石油を輸出できても大半が砂漠地帯で稲作とは正反対の土地しかありません。原油を売って米などの食料を輸入していますが、輸入先として頼りにしていたインドで人口増加や経済成長に伴うインフレ圧力が大きくなり、米の輸出を停止せざるを得なくなった事情があります。食糧ではありませんが石炭を輸出していた中国で石炭の輸出の余裕が無くなり、石炭価格が急騰したことと似たような状況です。

 しかし、タイとしても、フィリピンなど他の国から輸入したいニーズがあり、国民に対しても少しでも安く供給したいはずで、資金力に屈するような判断は難しいものがあったでしょう。それでも、資金力には勝てませんでした。また、産油国の多くは景気が良く、人口増加のスピードが早いという問題もあります。農地が無いことはどうにもならず、他国を買うような手段しか無くなってきました。

 一方で、地球温暖化の問題があります。地球温暖化は「少しずつ気温が上昇すること」と誤解している人が多いようです。中国の今年の積雪は50年ぶりの大雪でしたし、同じ頃にイラクのバグダッドでは100年ぶりに雪が降りました。日本でも異常な気温の観測が続いています。地球温暖化は「少しずつ気温が上がること」ではなく、「異常気象が頻発すること」と認識するべきでしょう。残念ながら、食糧争奪戦は益々エスカレートすることになるしかないはずです。株式市場では、個人投資家はこうした環境に対抗する為にも(本日は上昇してしまいましたが)大手商社株を買って食糧インフレに自衛することが出来るかもしれません。その点、投資家は恵まれているのでしょう。世界的に未体験ゾーンを進んでいるという覚悟が必要になってきたようです。

 日経平均は小反落しました。4日間の上昇に対して調整と見るには小さく、余裕を残したようにも見えます。14000円台は年初の急落価格帯でもあり、ボラタイルな展開を想定し、早い判断が必要な場面に差し掛かったといったところでしょう。

2008年5月13日(火)

団塊世代の証券市場参入に期待

 個人投資家が主体の信用買い残高が2年前と比べて約3分の1の金額の1.8兆円と低迷しています。松井証券が公表する信用買い残は1年前の半分以下に激減しました。個人投資家は逆張り傾向が強いので、相場回復に従い信用買い残が減少したこともありますが、評価損が依然として2桁以上あることを考えると、足元の「ポジション整理」が利食いで終了したとは思えません。この1〜2年の間に相当なダメージを受けて市場から撤退したか、投入資金を縮小したと考えられます。

 一方で、個人投資家の株式売買はネット証券経由の比率が9割となり、対面営業の影響はほとんど無くなりつつあります。その中で、50歳以上の世代は人数シェアでは小さいですが、売買株数が大きく、存在感は高くなっています。個人の株式売買はやはり50歳代以降の世代が力を持つという現実があります。

 団塊世代が手にする退職金目当てに、あるメガバンクでは1ヶ月だけ金利を何倍にも優遇し、その後は通常レートに戻すキャンペーンで預金獲得広告を出していました。そのような安全な運用も良いかもしれません。しかし、家のローンはインフレで楽になり、資産形成が上手くいったと言われる「勝ち組世代」としては物足らないでしょう。

 また、ビジネスでは最も不況の時に始めた新規事業が成功しやすいと言われます。株式市場でも個人投資家の参加者が減る一方の今の時期から始めるのが逆説的に良い環境と言えそうです。1ヶ月だけ金利が多くなったところで受け取り利息は知れています。そのようなことで喜んでいては後期高齢者医療制度や年金制度の不備に勝てるでしょうか。この国の制度は個人にますます「自衛」することを強要しているように見えます。

 何より、株式市場では単純に値動きを追うだけでなく、団塊世代のキャリアが物を言います。為替や金利動向などに必然的に強くなることで他の投資にも活かせるに違いありません。もちろん、頭の体操になります。証券会社や銀行に相談しても株式営業に力が入っていない状態ですから、人任せの投信を勧められることになりがちです。人任せの良い商品があれば金融機関も苦労しません。政府も金融機関も信用できないから個人が頑張るしかない面があります。日本の「信用収縮」の流れを止める団塊世代の頑張りに期待したいところです。

 日経平均は特に買い上がる材料が無いままに先物主導で大きく上昇しました。手口面で先物に大きな偏りを見せる業者は限られ、意図的に株価を押し上げたというほどでもありませんが、現物の参加者が少ない価格帯だけに一方向に振れやすいのでしょう。ただ、先週は裁定解消売りが多くなり、裁定取引の傾向で見る限り、トレンドが逆回りし始めたと取れなくもありません。いずれにしてもファンダメンタルズと逆行する動きに順張りは難しいところでしょう。

2008年5月7日(水)

勝者なき相場上昇

 日経ヴェリタスは先週28日のスクランブルで『戻り相場に乗れない個人』と題し、外国人投資家は4月第3週に2000億円買い越し、3週連続で買い越しとなり、相場に乗れていることに対し、個人は売り越し基調で乗り遅れたという趣旨の記事を書きました。しかし、これは相場の実態を正確に現しているでしょうか?実態は「底値で買えた投資主体がいない」という奇妙なものです。

 直近で日経平均が安値を付けた日は3月17日で、指数の安値は11691円でした。3月中旬は決算月でもあり、国内の機関投資家が買えなかったことは言うまでもありません。個人投資家は評価損が20%を超える時期が続き、投げが新規買いを上回る日も多く、スクランブルが指摘するように安値を買うことは出来ませんでした。

 では、外国人投資家が3月の安値を買えたかと言えば、それも違います。安値を買い、その後、含み益を得ているわけではありません。外国人投資家は4月以降の日経平均がかなり上昇してから買い越しが目立ち始めたに過ぎません。しかし、売買が成立している以上、これらの売り手から底値で株式を買った投資主体があるはずです。

 外国人投資家は3月の安値に至る過程で日本株を売り越し、安値も彼らが付けた可能性があります。日本の機関投資家は本決算で新規に大量に買うことはできず、個人投資家は評価損が20%を超え買い余力が極端に無くなり、投げさせられる投資家も多かったようです。それらの売り手に対し、底値での買い手がいたはずです。

 実は、安値を大量に買った投資主体は「証券自己」でした。証券自己とは証券会社の自己売買部門のことですが、安値で買ったからと言って、証券会社が大儲けできたという意味でもありません。証券自己の正体は先物売りを同時に執行する「裁定買い」です。3月中旬からの上昇場面で底値から買い上がった主力の投資主体は裁定取引を実行した証券会社でしたが、彼らは先物売りを同時に執行しており、利益は先物と現物の鞘しかありません。『戻り相場に乗れない個人』もそうですが、どの投資主体も安値を買えず、相場の波を上手く利用できなかったわけです。

 しかし、個人投資家に悪い話ばかりではありません。個人は相場に乗れませんでしたが、それだけに今の相場が逆回りした場合の被害も小さいに違いありません。体力を温存した投資家には次の波で立て直すチャンスがあると期待しても良いのではないでしょうか。逆に、高値を買い上がる外国人投資家は裁定解消売りで厳しい場面に直面するリスクがあるでしょう。

2008年5月1日(木)

景気実態と合わない金利上昇

 米1−3月期のGDPは前の4半期と同じ0.6%の低成長でした。日本がデカップリングとなり、高い成長率となる可能性は低く、株高にも自ずと限界がありそうです。その状況で本日からメガバンクが一斉に住宅ローンの金利を引き上げました。もちろん、金利が引き上げられるほど住宅購入者のニーズがあるわけではありません。

 日経新聞では4面に「住宅ローン金利の引き上げ」の記事があり、反対側の5面に「住宅着工3月、15%減少」「昨年度41年ぶり低水準」の記事があります。日銀が展望レポートで金利引き上げスタンスを当面棚上げしたにもかかわらず、住宅ローン金利が上昇したのはなぜでしょうか。

 これは債券市場で急速に米国でインフレ警戒感が台頭し、利下げが終わるという見方が広がり、金利が上昇し、日本の債券市場でも長期国債が先週、急落(金利上昇)したことと関係があります。住宅ローン金利は長国の実勢金利を反映して決めることになっています。それにしても、改正建築基準法で官製不況と言われる現状に利上げでは建築業界はたまらないでしょう。需要が少ないところに資材価格が上昇し、ガソリン価格は急上昇し、更に、金利上昇と悪条件ばかりです。また、FRBが利下げした日に住宅ローンが利上げとなり、これほどタイミングが悪い利上げもないでしょう。

 実は、景気実態と逆行するような金利上昇は株式市場にとって良くない兆候となったことが過去にいくつかありました。その最大のものはブラック・マンデーでしょう。冷静に考えると、インフレリスクの台頭がドルの信認につながるという市場の見方は合理的でなく、やはり危うい均衡が続いていると見るべきでしょう。

 余談ですが、野村證券社員によるインサイダー事件の報道を「先輩格」のNHKがニュースの最初で報道し、古紙偽装で世間の批判にさらされた王子製紙はこの事件を受けて、野村證券と取引中止すると発表しました。何となく上昇した日経平均のように何か緩んだ状態にあると考える方は多いのではないでしょうか。

2008年4月25日(金)

OECD予想42兆円、IMF予想100兆円

 サブプライムローン問題に端を発した金融機関の損失総額について、国際通貨基金(IMF)は合計で100兆円になると予測し、経済協力開発機構(OECD)は42兆円と見積もりました。どちらも国際的な経済と金融の専門組織であり、世界経済を支える重要な役割を担っています。世界経済の舵取り役ですから、万が一にも、いい加減な調査に基づいて政策を誤るようなことは許されません。

 しかし、そのような権威ある国際機関が世界を揺るがしている信用不安の判断の基準となる損失額について2.5倍の開きがあるのはどういうことでしょうか。OECDの言い分としては、IMFは損失額を多く見積もり過ぎている上に、焦げ付いた住宅ローン関連債権であっても4割を回収できるから少ない数字になるということのようですが、IMF側にも同じように各金融機関の数字の把握はできているはずで、詳しい資料を持たない投資家には何が正しいか判断することなど到底不可能です。

 明らかなことは、これだけの権威ある機関が調査しても差が大きいということであり、逆に、「誰も正確な損失額が分からない」ということかもしれません。足元で株価が上昇していますが、株価が上昇したことで問題が改善するのはLBOぐらいでしょう。実態が明確にならないまま買い進む需給相場に違和感を覚える参加者は多いはずです。

 一方で、サブプライムローン問題と関係なく景気好調の国もあります。ブラジルでは昨年自動車の売り上げが28%も伸び、246万台を記録しました。そして、サブプライムローン問題が深刻化した今年1〜3月期の売り上げは31%伸び、伸びが加速しています。原油や食料が値上がりするほど生産物が高く売れるのでインフレやサブプライムローン問題による信用不安がプラスにさえ作用しています。また、米国の農家では、昨年の年収が5割も増え、ガソリン価格が高騰してもキャデラックのような大型車を買う農家が多いそうです。住宅価格が下がり、食品価格などが高騰し、苦しくなる一方の人たちと2極化したことだけは確かでしょう。

 日経平均は急騰しました。ドル安の巻き戻しや債券相場急落が踏み上げ相場を形成しています。金融機関の債券担当者は滅多に無いほどの大幅な債券急落に驚いたことでしょう。株式市場の主力銘柄では減益発表が売り込みを誘い、それをターゲットに踏み上げる始末です。減益発表で株価が上昇したり、資金需要が低下する状況で金利が上昇するようなことが起きていますが、矛盾したことはどこかで調整する必要があります。仕手戦のような需給勝負と割り切って見るところでしょう。

2008年4月18日(金)

「住宅下落」はお金持ちを増やす

 米国の金融不安は常識的に考えても無謀な融資が蔓延したことに原因があります。数年間は金利だけを支払い、その後は金利が急上昇し、元本の返済を行う形式の住宅ローンが年収300万円程度のサブプライム層に認められたことがそもそも誤りでした。返済額が年収の大半となるような住宅ローンを完済することは不可能なことは貸し手にも借り手にも分かっていたはずです。

 それでも、サブプライムローンが爆発的に拡大した理由は住宅が値上がりすることを確信したからに違いありません。日本のバブル期と同じ「右肩上がり神話」があったわけです。米国では住宅のローンの残額以上の部分を担保に借入可能なホームエクィティローンがあり、サブプライムローンの借り手が元本を返済しない時期でも住宅価格が2割上がれば「2割返済した」という考え方をします。右肩上がりの状況が続けば、返済が滞っても一時的に別のローンで支払い続け、住宅の値上がりに期待することが可能です。しかし、このローンは住宅が値上がりする以外に抜け道がありません。住宅価格が大きく値下がりした今は日本と同様に不良債権の山にしかなりませんでした。

 ところが、長期的に見れば、住宅価格の大幅な下落や金融危機が米国のお金持ちを増やしてきたという事実があります。実は、米国のお金持ちの大半が自分で家を建てていません。日本ではお金持ちほど大きくて立派な新築の家を建てるものと思い込んだように行動しますが、米国のお金持ちの約7割は自宅(いわゆる「注文住宅」)を新築せず、差し押さえ物件などを安い時期に購入するか、建売住宅を安い時期に買い、まるで「貯蓄」のように行動し、結果的に大きな資産を形成しています。現状で言えば、差し押さえの競売物件を買ったり、売れ残りの住宅の投げ売りを買うようなことです。そのような投資行動的な住宅購入を行ったからお金持ちになれる可能性があるというわけです。

 結局、返済の見通しがないような無謀な住宅購入者を政府が救済する必要はなく、安くなれば自然に流動性が高まり、金融機関の不良債権比率も低下し、健全化します。個別の金融機関の体力が持つかどうかであり、体力勝負に負けたところは吸収されることになります。時価評価を避けて損失を先送りしたり、公的資金注入という日本方式が必ずしも正しいとは言い切れません。日本では金融機関を公的に救済し過ぎて、オーバーバンキングの状態が改善されませんでした。損失が大きくなったとしても立ち直りが早い米国式の処理を行えば良いのではないでしょうか。

 日経平均は外国人投資家による主力株への買いが継続し、今年初めての4連騰となりました。株価が回復したと言っても、まだまだ、ファンダメンタルズの問題は深刻で、一部のハイテク株の業績に安心する一方で、輸入インフレで消費が落ち込むというドル安の問題があります。どちらも解決出来る妙案はなく、何度もバランスを崩しながら進んでいくしかないのでしょう。 

2008年4月15日(火)

みずほFGに迫る金融危機の忘れ物

 5年前の2003年の決算期はどの金融機関も日経平均が7000円台に突入したとあって、持ち株の評価損拡大などで自己資本比率がBIS規制に達しない可能性もあり、資本増強に必死でした。みずほフィナンシャル・グループも例外でなく、2003年3月に優先株を1兆円発行する荒業を断行し、危機を乗り越えました。この募集方法が融資や出資している関係先に行ったことが問題とされ、銀行の優先的な地位を利用したという批判が少なからずありました。

 その問題の優先株が5年の歳月を経て今年7月から2016年まで普通株へ転換請求の時期に入ります。なりふり構わず増資し、しばらく忘れていた厄介事が復活するわけです。優先株は非上場でしたから市場外で買い取るには限界があり、1兆円近い優先株がそのまま残存しているようです。

 普通株へ転換する株価を決める時期は今月24日から30営業日の引け値の平均値とされています。みずほフィナンシャル・グループの優先株の発行時の株価は10万円程度でしたから、全て転換すると発行株式数が2倍になるという株主にとって知らなければ大きな損失となった可能性がありました。幸いにも現在の株価は当時の4倍になりました。

 それでも、全株を転換すれば約20%の希薄化が生じます。決して小さな数字ではなく、個人株主は事情を良く理解しているかどうか心配になります。大株主は算定期間に株価が下げたとしても優先株を同時に持っていることが多く、普通株を多くもらえることになり、必ずしもマイナスばかりではありません。優先株は転換社債のような金利付きのコール・オプションと同じような仕組みで、一種の派生商品のようなものです。個人株主にとって理解し難い存在では無いでしょうか。

 大量に優先株を買い集めたと言われるヘッジファンドなどが三菱自動車と同じように株価を意図的に下げる手法を行うかどうか、会社側の自社株買いとの攻防戦が今後の見どころになりそうです。しかし、いずれの場合にも、既存のホールダーにとって、金融危機が過ぎてから5年後の難物の登場は歓迎できない状況でしょう。

 日経平均は寄り付きの弱気を踏み台にプラス圏で引けました。決算発表前に個別株の売買を避ける傾向があり、先物の相対的な影響度が高まり、不安定に動かざるを得ない状況です。全体として良い見通しが決算で出される可能性は期待できず、それにもかかわらず、売り物も少なく下げるわけでもないという中途半端な相場をしばらく我慢するしかないといったところでしょう。

2008年4月10日(木)

日銀人事の不同意、財務省にも責任

 マスコミや証券界では日銀首脳人事が3度も否決されるのは「異常事態」として、政治家の対応を巡り喧しいかぎりの議論が展開されています。そもそも、日本の企業業績が順調で円安だった時期に日銀が金利を引き上げていれば良かったのですが、景気悪化の現在の局面で出来ることは限られるわけで、日銀人事が遅れたとしても実害はなかったでしょう。

 もちろん、金融政策の重要人事が決まらないことは悪いことに決まっていますが、財務省の権限の強さを問題にする別の切り口からの問題提起とすれば許される範囲でしょう。財務省の「指定席」を問題にしたことは今までに全くなかったことで、衆参ねじれ国会のお陰で国民に問題が伝わる良い機会かもしれません。出来れば、なぜ財務相の次官や財務官が退任後に国の教育予算配分が多い大学の教授になるのか突っ込んでもらいたいものです。なぜ私大ではないのかという素朴な疑問を持つ方は多いのではないでしょうか。

 また、渡辺前財務官の能力を評価する声が多いのですが、理由のひとつに為替相場を市場に委ねるという信念を通したことが挙げられています。渡辺前財務官は在任中にドル・円相場に全く介入しませんでした。しかし、昨年の夏場には120円を超える円安場面が長く続き、日本の消費者は大いに損をしました。それまでの財務官が巨額のドル買い介入を行った「後始末」を行う最大のチャンスに何もしなかったことも事実です。

 歴代財務官によるドル買い介入は結果的に国の借入金でドルを買って運用することになり、円キャリー・トレードと同じでした。米国のバブルを助長した一因に、国と民間の円キャリー・トレードが過剰な流動性を供給し、信用バブルを拡大したことが指摘されています。昨年のドル高の時期に円に巻き戻しておけば、サブプライムローン問題の展開が少し違ったものになった可能性さえあります。

 必要なタイミングで財務官が何もせず、今になって、「逆介入は不可能だから国家ファンドで運用すべきだ」とういう本末転倒した主張を実現すれば、更に問題をこじらせるでしょう。運用する前に国の借金返済が先決であることは言うまでもありません。株安=ドル安の展開となっている状態で資金が動かせない財務省にも責任の一端があるのではないでしょうか。

 日経平均は3日続落しました。G7で信用収縮問題に対する協調体制を確認する声明が出されることは確実でしょうが、景気重視の米国とインフレ抑制重視の欧州とではスタンスが正反対です。「国際協調」の実質的な中身を市場から問われる展開が続きそうです。

2008年4月8日(火)

小売業の落とし穴

 小売業は2月と8月が閑散期で本決算は2月が多く、今週から決算発表シーズンです。この決算で投資家として注意しなければならないことは「出店差による減益」や倒産です。閉店する店よりも新規開店する店が多い企業ほど償却負担が少ない割に新規出店の集客力が大きく、利益が過大に見えます。新規出店の減価償却期間が長い半面、新設店はすぐに人気化し、利益を大きく計上出来ます。

 ところが、ひとたび出店ペースを落とし、不採算店をリストラすると、一度に巨額の償却負担が生じ、利益が激減したり、悪い場合では前期まで黒字でも倒産することがありました。ある飲食チェーンの会社では純資産が1株あたり1000円程度あったにもかかわらず、赤字店舗をリストラする過程で、1年と経たず倒産に追い込まれました。飲食関係や小売り企業は赤字店舗をリストラしながら、それ以上の規模で新規出店を続けなければ黒字を維持できないビジネスモデルを持っているところが多く、決算数字を割り引いて見る必要があります。

 昨日、決算発表したイオンはまさにこの落とし穴にはまったようで、新規出店を控え、既存店を整理することにより、今期は70%の減益予想と発表しました。株価は大幅に下げ、「出店差減益」の典型的パターンを見せています。拡大し続けることで利益が伸びているように見える収益源の大型ショッピング・モールは7&I三井不動産大和ハウスなどが相次ぎ攻勢をかけ、既に飽和状態になりつつあります。集客の為に複合シネマや医院などを取り込んでいますが、ほとんどが赤字経営と言われています。店子が赤字でモール事業が上手くいくのか初歩的な疑問を感じる投資家は多いのではないでしょうか。

 イオンが「規模の拡大による利益追求」でダイエーと異なり、「アジア進出」でヤオハンが犯した失敗を免れるという保証はありません。コンビニなども同じようなビジネスモデルであり、利益が出ている時に足元を固めることが必要かもしれません。値上がりする商品が続出する中で消費者が値上がりした商品を今まで以上に多く買うことは有り得ないことで、消費関連各社は厳しい対応が必要でしょう。

 日経平均は指数寄与度が高いハイテク株や金融株の下落で比較的大きく反落しました。もともと、物色の中心となる存在がなく、大商いで上昇したわけではなく、上げても下げても売買高は増加せず、信用バブルの収縮過程の一環と見るべきかもしれません。週末のG7にかけて、市場から圧力を受ける可能性もありそうです。

2008年4月4日(金)

金融システム維持と景気のズレ

 欧米の金融機関はどこでも取引先ごとに許可する未決済残高の総額を信用度に応じて決めています。新規の取引が未決済残高の総額を超えることは許されません。例え相手が日銀であっても同じで、取引残高に予め上限が決められています。このクレジットラインを超える新規の取引を行った社員は即刻クビになることがあります。与信管理を行うクレジット・オフィサーは絶大な権限があり、取引の上限を厳しく管理し、経営トップであっても違反することは出来ません。日本の金融機関はその点で甘いかもしれません。

 そのような厳しい与信管理が行われている中でベアー・スターンズのように「危ない」とされれば、すぐにクレジットラインは引き下げられ、その結果、新規の取引が事実上不可能となります。取引相手として認められなければ、資金調達だけでなく、手持ちの証券を売ることも出来なくなり、まさに村八分にされ、後は破たんするしかありません。そのぎりぎりのところで、FRBはベアーの債券に対する公的保証を間接的に行い、金融システムを守りました。見事な手際であり、金融システムは公共のものとして絶対に守るという強い意志が感じられます。

 しかし、その一方で、金融システムを守ったとしてもクレジット・クランチを避けることが出来るかどうかは別問題です。日本でも公的資金を注入すれば貸し渋りがなくなると考えられましたが、金融機関を救うことと信用拡大は一致しませんでした。大企業は公的資金注入後も借入を縮小し続け、無借金経営を目指し、金融機関は公的資金を得ても貸出を増やせず、実際は国債を買い増ししていた実態がありました。結局、公的資金は資金の出し手(国)に還流してしまうだけになり、景気回復の貢献度は明らかではありません。

 米国が金融システムを維持することに力を注ぐことは当然ですが、それが貸出増加につながる可能性は今のところ低いと見るべきでしょう。日本の場合、不動産融資で取引事例の比較で融資額を決めていた方法から収益還元に切り換え、利回り採算を重視するようになり、お金が回り始めました。金融機関の与信が増加した理由は公的資金注入ではなく、不動産価格が利回り採算に合うようになったからと言えます。

 米国の場合も同様に、サブプライムローンの借り手に返済額や金利を低減する政策を実行してもあまり大きな成果は期待できないでしょう。逆に、不動産価格を下げさせない政策は問題を長引かせる可能性があります。不動産を収益物件として利回りが市場金利より高くなれば市場は上手く動き出すに違いありません。サブプライムローン問題を早期に解決するには住宅価格を魅力ある価格まで下げることが早道であり、金融システム維持の政策と分けるべきでしょう。金融機関救済と景気の底打ちは同時に進まないということが日本のバブル崩壊の教訓です。

 日経平均は自動車各社への格下げレポートなどもあり、4日ぶりに反落しました。信用不安の後退を受け上昇してきた相場ですが、業績不安が消えたわけでもなく上値が重くなってきた感があります。来週はオプションSQの週になり、急増した130プットの建て玉に対し、日経平均が13000円台を守りきれるかどうかに注目でしょう。

2008年4月1日(火)

すっきりさせるべき「暫定」税率

 4月から電気・ガス料金や小麦、ビール、食用油、醤油など値上げラッシュで、1世帯あたりの負担増加額は約1万4千円近くになると指摘されています。その中で、ガソリンの税額が通常に戻ることで世帯あたり2700円弱の負担が軽減されるそうです。首相は税収不足で「国民にたいへんな負担になる」からガソリン税は2倍に早く戻す努力をするそうですが、道路を作りたい人たちを除いて、大幅値上げラッシュの中の値下がりを大歓迎しているのが平均的な消費者の姿でしょう。

 もともと、道路特定財源として自動車関連の税率を2倍にする暫定措置が30年以上も続いたことが問題です。ガソリン税、正式には「揮発油税」の本来の税率は24.3円/リットルですが、「戦後復興を目指し、道路を緊急に整備する」という理由で30年以上に亘り、「暫定」的に48.6円に引き上げられた経緯があります。ほとんど利用されない高速道路まで作られた実態を見れば、「戦後復興」と全く関係が無い暫定措置の不自然さが際立ちます。

 自動車関係の税金は全てを合計すると消費税の総額と大差がありません。それほどの金額ですから、道路予算だけに使い切れず、数々の無駄使いが指摘されています。そして、道路だけに使い切れないから本来の目的と異なる「一般財源化」が正論のように主張されています。本来、税金は全て同じ財布であり、目的別に税を取ることが誤りですから、一般財源化は当然の議論かもしれません。しかし、10年と持たなかった恒久減税とは対照的に、合理的な理由がなく暫定税率が更に10年延長されることは納税者の許容範囲を超えています。暫定税率維持と一般財源化が同時では意味がありません。

 暫定税率を巡る混乱で政府・与党の政策対応にセンスが欠けていることは明らかです。まず、国民は与野党の政治的対立よりも、率直にガソリン価格が値下がりしたことを喜んでいるわけですから、インフレを抑制する政策として採用し、その分、支出を減らす努力をすれば支持率が急回復するでしょう。

 また、先月行われたNYの自動車ショーでは「電気自動車」の試作車の出展が相次ぎました。暫定と言いながら、また10年も高い税額を取り続ける間に、自動車に占める電気自動車の割合が急増する可能性があります。その場合、電気代に「暫定税率」を適用するのでしょうか?時代を読めないという意味でも暫定税率にはセンスがありません。

 更に、道路を作り続けることが財政上不可能になる時期が遠くないことも指摘されています。道路は作ればそれで良いとういものではありません。維持する為に意外と多くの費用が必要です。今のペースで新規に道路を作り続けると道路のメンテナンス費用だけで10年以内に今の道路予算の全額を使う可能性があります。また、作れば作るほど予算が削減できなくなり、膨張に歯止めが効かなくなります。無理なものは無理と言うことがトップの役目です。先見性もリーダーシップも欠けているようでは株式市場にとって足を引っ張る存在と思われ続けるしかありません。

 日経平均は海外市場の株高を反映して反発しました。とは言え、株式市場の売買金額は一向に回復の兆しがなく、先物市場の想定元本ベースの売買金額が現物取引を大幅に上回る逆転現象が見られました。派生商品が本来の取引商品を押しのけて主役になっています。また、株式先物だけでなく、債券先物や商品先物、為替市場まで相互に影響し合いボラティリティを高める作用が見られます。先物を主戦場とするファンド筋などに振り回されないようにしたいところです。

2008年3月31日(月)

親孝行が損になる「後期高齢者医療制度」

 日本の官僚は数字合わせの能力は優秀なようですが、新しい制度がどのような問題をはらんでいるかあまり気にかけないようです。高齢化が進み、医療費の占める高齢者の割合が高まった問題は明らかでしたが、行政が考えた結論は75才以上の高齢者を健保と国保から独立させ、保険料を年金から天引きすることでした。何千万件もの年金が消える一方で、年金から新規に天引きされる制度は年金受給者を怒らせるに充分でしょう。

 後期老年者医療制度は高齢者だけの問題ではありません。高齢者の親を扶養する人に一方的に不利益となる制度であることはあまり知られていないようです。そして、ほとんどのサラリーマンは健康保険料が天引きされ、チェックする機会が少ないので今後も問題に気が付かない恐れがあります。

 新制度では、今日まで扶養家族となっている高齢者の治療は子の健康保険を使っていましたが、明日からは独立して個人で支払う保険制度になり、今までの保険は使えません。これを子の側からすれば、親が年金から保険料を天引きされる一方で、保険料は控除対象にならず、今の健康保険料もほとんど安くならないマイナスだけの変更になります。老年者が健康保険から抜けた部分が子の側の保険制度の「全体として」保険料が安くなるに過ぎません。老年者を扶養する世帯では医療費が世帯全体で大きく引き上げられます。

 新保険制度では、親を扶養しない人では保険料が安くなり、利益になる可能性がありますが、親孝行する人にはマイナスになります。せめて、天引きされる保険料を控除対象にすれば良さそうなものですが、介護保険でも扶養対象の高齢者の天引き分を控除対象に認めない「意地悪な税制」が実施されましたので、後期老年者医療制度でも同様に税金を多く取る方向でしょう。「親孝行すれば損をする」というような不平等感の強い制度を数字合わせで強行することが日本の政治不信を更に深刻化させるでしょう。「官製不況」が保険の分野でも生じ、不信感を強め、株式市場においても外国人投資家に日本株の魅力を低下させる可能性がありそうです。

 日経平均は米国株安だけでなく、中旬からの上昇に対する反動もあり、大きく下げました。ファンダメンタルズに逆行するような株高では個人投資家は付いていけず、株安でそれなりにリスクが低減されなければ入り辛いというもので、株安自体は問題ではありません。リスクに見合って充分に安くなるかどうかが問題でしょう。

2008年3月26日(水)

チベット騒動に沈黙するデカップリング論者たち

 中国から発信される情報が信用できるかどうか、改めて疑いを持たざるを得ない事件がチベット問題における中国政府の報道ぶりです。混乱を伝えるユーチューブはつながらず、全てのサイトは検閲され、中国国内ではチベットの僧侶たちが全て悪いという主張だけが掲載を許可されています。海外メディアも現地からの報道を許されず、議論する以前に情報が無い状態です。

 中国の暴動騒ぎは3年前の反日抗議暴動以来のように思えますが、小さな暴動は頻繁に起きているようです。最も件数が多いと思われる騒動は大型の公共事業と対象住民との間に繰り広げられる立ち退き問題と言われています。公共事業の施工会社は政府と党の幹部の子弟が経営する企業で、障害となるのは開発地域の住民というわけです。日本の官公庁の行う随意契約による癒着と同じ構造ですが、より露骨なものが横行しているようです。

 しかし、報道規制が強い中国では経済の急成長の影に隠れた部分は伝わらないことがほとんどです。自由な生産・販売活動を基本とする「市場経済」と問題を検閲し隠蔽することが可能な政治体制が矛盾していることが根本の原因です。自由と独裁が同居する社会構造では、こうした問題が解決される見込みはほとんどありません。米国経済が減速しても中国などの強い新興国経済が牽引し、大きな経済的困難にならないとするデカップリング論者は「情報がまともに伝わらない」状況にリスクを感じないのでしょうか。

 急成長の影の部分、例えば、「中国の個人投資家である株民は株式の暴落でどの程度の困難に陥っているのか」ということや、「株式投資で利益を底上げしていた多くの中国企業の今の収益はどのような状態か」というような経済に関する情報もチベット騒乱と同様に不足しています。高いインフレ率と一部に利益が集中する構造が格差を広げて別の暴動を引き起こす可能性はないのでしょうか。イベント後の不透明感が漂います。

 日経平均は為替市場や海外の株式市場の落ち着きを背景に、配当落ちを考慮すれば、指数は小反落でも実質的に続伸となりました。米国のファンダメンタルズの悪化を示す数字が連日のように伝わりますが、どうしても株価を下げさせないFRBの強い姿勢がファンダメンタルズと株価の逆行現象につながっています。ファンダメンタルズの悪化で実需の現物買いが入り難い一方で、先物主導で指数が上昇してしまうという矛盾した展開が見られます。矛盾を取り除くには米国の住宅問題が解決するか株価が下げるか、どちらかが道を譲る必要があります。前者が困難である以上、後者に期待したいところです。

2008年3月25日(火)

金商法は個人を守れない(3)

 ドル・円相場が95円台を付けた先週の月曜日に、メガバンクに口座を持つある個人顧客が「ドル預金の絶好の機会」とばかりに窓口へ出掛けたという話を聞きました。しかし、ドル預金を申し込む窓口は同じ考えの人も多かったようで、たいへん混雑しており、昼食前に出向いて「1時間程度はお待ち頂きます」という案内係の説明に、仕方なくその日は外貨預金を諦めて帰ったということです。

 そして、翌日は9時過ぎに銀行の窓口に出向き、すぐに手続きが終わると思いきや、9時過ぎでも相談窓口は既に「7人待ち」の状態だったそうです。円高の機会を利用したい個人顧客は多いのでしょう。ドル預金は為替が円高の間に実行しなければ意味が無いので、我慢して順番待ちしたところ、2時間以上も待たされることになったと言います。更に、申し込もうとしたところ、「支店が違う」という理由で拒否され、「この支店に口座を作らなければ外貨預金は出来ない」と言われたそうです。印鑑と身分証をあいにく持ち合わせておらず、2時間待った挙句、また、出直さざるを得なかったということです。結局、時間が出来た先週末には最も強い円高の時期は過ぎてしまい、銀行とのやり取りでチャンスを逃すことになりました。

 金融危機の時期に銀行は公的資金を得て自己資本を回復する一方で、手数料収入を得る為に幅広い金融商品の窓販を認められました。ところが、銀行の通常の窓口業務は利用者が少ない一方で、相談窓口は証券外務員資格などが必要になり、対応できる行員が限られ、相談窓口を増やす対応が出来ていません。それに加えて、金商法のルールに従い、念入りに説明をする時間が長引き、数人待ちでもすぐに1時間以上待たされることが珍しくありません。

 為替のようにタイミングが全てというような取引では金商法が個人投資家の行動の妨げになります。時間がかかり過ぎること以外にも、支店が違うだけで対応しないのも金商法を警戒してのことかもしれません。しかし、銀行は1ドル360円の固定相場時代とほとんど変わらない為替手数料をTTBとTTSのスプレッドの形で取っており、商品の販売手数料と2重に利益を得ています。ところが、それに見合うサービスを行っているでしょうか。一部のメガバンクでは、「富裕層向けのVIP窓口」で優先的なサービスを行っていますが、それが税金投入の見返りとすれば一般投資家は何を感じるでしょうか。

 日経平均は休み明けの米国相場を映して急騰しました。しかし、急騰しても急落しても商いが増えない状況に変わりがなく、先物とそれに伴う裁定取り引きで振れが大きく、かつ、一方的な相場展開となることが続いています。短期間に裁定買い残が急増しましたが、配当取りの思惑があり、明日以降の反転場面で薄商いが続けば逆もまた大きくなるはずで、小刻みに対応するか、デルタ・ニュートラルの戦略で無難に臨むところでしょう。

2008年3月24日(月)

金商法は個人を守れない(2)

 金商法が個人投資家を守れないケースとして証券税制の複雑さにも問題があります。金商法が証券取引のリスクに対する注意喚起に重点を置く一方で、投資家にとって複雑な税制のリスクを逃れる手段として機能しないことをどれだけ多くの投資家が知っているか疑問です。特に、昨年分の売買損について確定申告しないケースが多かった可能性があり、後で、税金を多く負担することになりかねません。

 昨年の売買が損失となった場合は3年間の繰り越しが認められますが、これは一般口座であっても特定口座であっても確定申告で株式の損失を申告しておく必要があります。更に、このことを知っている人でも今年の株式売買が無いからといって翌年の確定申告で継続して繰り越しを申告しなければ2年後にや3年後に利益が生じた場合に損益通算が認められない仕組みになっています。このような仕組みは取引をしている証券会社が金商法のルールで投資家に教える必要は無く、一方的に投資家に不利益になる可能性があります。また、源泉ありの特定口座と一般口座の損益や株式投信の損益と通算して申告できる制度を利用しないままにしている投資家も少なくないようです。

 あるいは、源泉ありの特定口座で利益を出した場合、前年の損失と通算する為に確定申告した為に、年金生活者や自営業者などで国民健康保険料などが急増し、トータルでマイナスになる場合も考えられます。損益通算制度を利用し、かえって、損をすることもあります。また、「特定口座の源泉あり」を選択した場合とそうで無い場合で収める保険料が大きく異なる実態は違憲の疑いさえありますが、金商法はこのようなケースでも投資家保護に全く役立ちません。国会は暫定税率の延長問題で対立が続いていますが、そもそも、複雑で分かり難い税制を作り続けた政治や行政の責任が今問われているのでしょう。

 日経平均は海外勢の不参加で低調な商いが続き、持ち合いで引けています。日本経済が外需頼みなら証券市場も外需がなければ成立しない有り様です。閑散相場続きで、どちらにも振れやすく、不安定な展開はまだまだ続きそうですが、多少の間、小康状態に入る可能性があるといったところでしょう。国内投資家を呼び戻す為にも証券税制のインセンティブが必要です。

2008年3月19日(水)

金商法は個人を守れない

 投資家保護の目的で鳴り物入りで導入した金商法は本当に投資家保護に役立っているでしょうか?個人投資家は投資を実行する前に銀行や証券会社の窓口で、あらゆるリスクについて理解していることを確認させられ、目論見書などの書類を大量に渡されますが、金商法が機能しているとは思えない実態があります。現場で販売する銀行マンや証券マンでこれらの書類を全部読破してセールスしている人などほとんどいないというのに、顧客には全て理解しなさいと押し付けられるというのが本当のところでしょう。

 売り手の無責任と監督官庁の中途半端な「保護行政」があり、更に、理解できないが理解したと言わざるを得ない買い手により、抜け道として出来上がった「欠陥商品」の被害者が日経平均の下落で急増しています。悪いことに、買い手の個人投資家のほとんどが被害者でありながら被害を受けた自覚が無いというお粗末な状況で、金商法が如何に効果の無いものか理解させてくれます。

 その欠陥商品のひとつは銀行や証券会社で『リスク限定型投信』として大量に販売されている「日経平均リンク債」と呼ぶべき「仕組み債投信」です。この投信は当初に設定された条件のもとで元本保証と高利回りをうたったに過ぎませんが、「当初に設定された条件」の部分の説明が不充分なまま、「高利回りな元本保証商品」として誤解されて広がった可能性があります。

 「当初に設定された条件」とは、「日経平均が一定の株価水準を超えて推移するという条件」のことで、条件に定めた株価=ノックイン価格を下回るとその投信の償還価格はその後の株価に応じて変動してしまいます。そして、今年、日経平均が急落する過程でノックインした『リスク限定型投信』は10本を超え、数百億円が「リスク限定無し投信」に生まれ変わりました。今後も日経平均が下げた場合、数千億円の投信が「リスク限定無し投信」になりかねません。

 問題は購入投資家の多くが退職者か年金生活者であることでしょう。販売者でさえ、仕組み債の仕組みを上手く説明できない商品をデリバティブの無かった世代を過してきた個人投資家が理解しているとは到底思えません。しかも、この投信の問題はそればかりではありません。今になってリスクに気が付き、解約を申し込むと、多額の手数料が必要になり、ノックインしなくとも元本割れする規約になっていたり、解約そのものが出来ない仕組みです。購入者の多くが償還の時に驚くようなデリバティブ組み入れ投信が大量に販売されることを金商法は止めることが出来なかったばかりか、ノックインしたことで、投信と無関係な参加者が先物売りで迷惑を被るという「二次被害」を受けています。EBが社会問題化した反省はどこにもありません。

 日経平均は予想を上回った米大手証券の四半期決算で米国株が急騰し、日経平均も大きくリバウンドしました。しかし、米大手証券各社はベアー・スターンズがどうなったか直前に見せ付けられ、手持ちの不良資産を処理し、悪い数字を出すことが不可能だったことも事実でしょう。一方、日本株は指数が急落しても急上昇しても売買代金が非常に少なく、主体性の無い日本株市場の根本的な構造問題について考える必要が生じてきたようです。

2008年3月17日(月)

流動性危機

 金融機関は信用が最も大切ということを再認識させられる出来事が起きました。名門かつ優良な証券会社と見られていたベアー・スターンズ証券があっという間にJPモルガン・チェースに吸収され、株式市場から姿を消すと伝えられました。

 ベアー・スターンズは住宅ローンなどの証券化ビジネスでトップの実績を誇り、収益力や財務内容が良く、サブプライムローン問題が拡大した昨年8月以降でも当事者のひとつでありながら100ドルを超える高株価で財務は健全と見られていました。先週の木曜日までは下がったとは言え、株価は60ドル台ですから、優良会社のはずでしたが、FRBが支援することが伝えられ、資金繰りが悪化していたことが事実と受け止められ、株価は1日で半分という暴落を記録しています。

 直接の引き金は格付け会社による格下げにもありました。先週月曜日に同社が発行するオルトAの住宅ローン担保証券がムーディーズによって格下げされています。この点は山一證券が97年にムーディーズにより投資不適格まで格付けを落とされたことで急激に破たんに追い込まれたことと良く似ています。信用格付けを下げられると資金調達が出来ず、瞬時に破たんに追い込まれます。しかし、ここで問題にすべきことは、ベアー・スターンズの例は「個別の問題」ではないということです。

 つまり、山一證券の破たんの少し前に三洋証券が無担保コール市場で調達した10億円が同社が当日に会社更生法を出したことにより、デフォルトとなり、戦後の金融史上始めて貸し手に損害が生じ、金融市場が麻痺したことが問題になります。破たんが無いことを前提に取引する短期金融市場でデフォルトが起きたことが金融市場の流動性を極端に悪化させたことが根本の問題です。その意味で、「個別の問題」で済むことではありません。

 金融取引において、相手先の信用にその都度疑心暗鬼になっていては市場が回らず、連鎖的に破たんが生じかねないことは明らかです。FOMCで利下げをすれば流動性を確保できるというものでもなく、如何に信用秩序を取り戻すかが金融当局の最重点課題に浮上したと言って良さそうです。利下げの幅はもはや問題では無いでしょう。

 日経平均は大幅続落し、12000円を割り込みました。少なくとも2004年から米国のバブルが放置されてきたと指摘しましたので、日経平均は2004年の水準まで下げるべきでしたが、実際にそのレンジに入ってきました。今後はバブルの後始末の仕方次第ということになります。FRBの対応は今のところ、一長一短というところです。また、市場参加者は極端なまでに円高を嫌いますが、韓国の株式市場のように、株価下落と韓国ウォン安が同時進行するほうが良いと考えているなら誤りでしょう。通貨が売られている株式市場は更に魅力が無いと考えるべきで、円高に過剰反応すると見方を誤るかもしれません。

2008年3月12日(水)

現実味増す「中国のバブル崩壊」

 米国の住宅バブルは見事に崩壊し、「米国の住宅需要は根強く日本の二の舞にならない」と言っていた人たちも最近は軌道修正し、認めざるを得ない状態です。それどころか、担保価値が下がった住宅ローン担保証券を銀行に強制処分されそうになるヘッジファンドが増え、金融パニックの瀬戸際まで追い込まれていたのではないでしょうか。まさに、ぎりぎりのところでFRBは価格が急落した住宅ローン担保債券の流通市場の建て直し策を打ち出した形です。取り敢えず、目先のファンド・バブル崩壊の危機を回避したようです。

 しかし、インフレ対策と景気対策は両立せず、米国とカナダは景気対策に軸足を置き、ユーロとオーストラリアはインフレ警戒に重点を置いた金融政策を行うなど、各国の対応はばらばらです。こうした中で、中国の2月の消費者物価指数は8.7%上昇という高率となったことは要注意です。一部では不動産価格が下落し、3月にも不動産融資規制を一旦解除するのではというような楽観的な見方がありましたが、あまりの物価上昇に、景気対策よりもインフレ抑制を強化するしかなく、バブル的な成長に陰りが見え始めました。

 現在の物価上昇は主に食料品価格の上昇が大きいのですが、石炭や石油の値上げや鉄鉱石などの素材の値上がりを製品価格に転嫁するのはこれからで、バブルを再加速するような緩和策を実行する余地が乏しくなったことは確かでしょう。そもそも、中国の「不動産バブル」と言っても、土地は基本的に全て国有で、住宅は「購入直後から劣化が始まる」マンションの一室をローンで購入しているに過ぎません。収入の半分以上を住宅ローン返済に充てる「房奴(フアンヌー)」(住宅の奴隷)が3割いると言われますが、これが米国のサブプライムローン問題と異なる展開となる保証はなく、米国より経済が強いと安心していられないのではないでしょうか。

 日経平均は米国の流動性強化策を受けて大幅続伸しましたが、戻り待ちも多く、伸び悩んでいます。SQは裁定取引の規模自体が縮小していることから注目されませんが、ロール・バックの動きには警戒が必要でしょう。

2008年3月10日(月)

株安の本質でない日銀総裁問題

 日銀総裁問題が与野党の駆け引きの材料にされ、与党側からサブプライムローン問題の重要な時期に日銀総裁が空席となることは野党の責任で大問題という主張がなされています。任期切れ直前に言うべきことではありませんが、その前に、日銀総裁が空席になる可能性があるなら、先週、2日間かけて行った日銀の金融政策決定会合で総裁候補の武藤氏が率先して有効な対策を打ち出せば良かっただけです。

 サブプライムローン問題に対して日本の金融政策で有効な対策があるわけもなく、与野党の政争を1ヶ月続けたとしても実体経済に影響があるとは思えません。ついでに、消費税率の引き上げしか言わないような財務大臣を空席にしても、市場関係者は本音で何も困らないと考えているのではないでしょうか。「恒久減税」はすぐに廃止し、「暫定税率」を恒久化するような政策が市場に歓迎されるはずがありません。

 株安の本質は米国の「住宅バブル」の崩壊であり、金融面では「信用バブル」の逆回りにあります。銀行やヘッジファンドが高利回りの住宅ローン担保証券を買い、それを担保にレバレッジを効かせて更に高利回りを狙う戦略が破たんしたことが危機の中心であり、影響が広がらないように食い止めることが出来るかどうか試されています。大型船の米国が舵取りに失敗すると日本は追突されて沈没するか、引き波に煽られて大揺れとなるでしょう。与党の操舵能力に不安が大きいだけに船酔い覚悟で相場に臨むことになりそうです。

2008年3月5日(水)

日経平均入れ替え問題の日経のジレンマ

 2000年4月17日(月)に日経平均は1426円安の大暴落となり、先物は1500円ストップ安まで売られたことがありました。その前の14日(金)のNYダウが200ドル急落したことが背景にありましたが、下げ幅が史上5番目の大幅なものになる程のインパクトではありません。急落の原因として、15日に日経平均の採用銘柄を「IT革命による構造変化」に合わせ30銘柄を入れ替えると突然発表したことが下げ幅を拡大したという見方が定着しています。

 低位株から値嵩株に採用銘柄を入れ替えることで指数運用型ファンドに大量入れ替えに伴う売買が発生し、日経平均が急落することが予想され、実際に急落した結果、指数の連続性を極端に損ないました。その時の問題を正式に日経新聞社は誤りとして認めていませんが、その後の銘柄入れ替えにおいて、極端に株価の差がある入れ替えを避けてきたことは事実です。

 日経平均は流動性の高い銘柄の上位75銘柄は自動的に採用され、残りは6つのセクターから流動性の高い順に選ぶこととされ、流動性とは、「過去5年間の売買代金」と「売買高当たりのボラティリティ」が基準と説明されています。この基準で、経営統合される三越・伊勢丹の補完銘柄としてどの銘柄を選定するかが注目されています。

 と言うのも、日経新聞社の判断基準に従えば、同じセクターから値嵩の小売り企業が225に新規採用される可能性が高いと見られますが、2000年4月の銘柄入れ替えで指数が大幅下落したことを繰り返すリスクがあり、難しい問題があります。次善の策として、株価が低いコンビニチェーン企業を採用すれば、基準を無視して意図的に値嵩株を避けた印象が強くなります。ゴルフ場大手を採用する場合も同様です。

 影響が少ない入れ替えを行うには全く別のセクターから流動性が高い銘柄にする考えもあります。あるいは、値嵩株の見なし額面を強引に5倍か10倍にする手法も有り得ます。いずれにしても、どのような選択になるか指数の提供者としての決断が注目されると同時に、2000年の大幅入れ替えの反省も示すべきでしょう。

 日経平均は強弱感が対立する水準でどちらにも決め手が無く、為替市場も動けなかったことから持ち合いに終始しました。悪材料が全て出尽くしたわけでもなく、かと言って、水準的に売り辛いところです。「メジャーSQ前にあまり大きく変動して欲しくない」という見えないコンセンサスが働きやすい時期ということもあるでしょう。

2008年3月4日(火)

まかり通る円高悪役説

 円が対ドルで円高になると株価の下落原因としてテレビや新聞で指摘され、証券関係者も同様に発言します。しかし、そのことの正当性にはいくつかの誤解や問題点があります。

 まず、今回のような「円高」の場合、ユーロや豪ドルなどとのレートでは歴史的に円安圏にあることが無視され、解説が合理性を欠くことがあります。対ユーロでは、ユーロ創設時のレートは130円程度で、その後、100円割れがあったことからすれば156円台の現在のユーロは異常に高く、旅行すれば如何に高いか実感できるでしょう。また、豪州から石炭や小麦などを輸入する際も「円高」が問題なのではなく、「円安」で割高になることが問題です。問題にされる程の円高なら消費者物価上昇で苦労することはありません。

 次に、「円高で株価が下げる」ことが本当かどうかについても問題があります。「円高で輸出企業の利益が減少するから株が売られる」と言いますが、そもそも、「米国経済が悪化したから輸出が伸び悩み、ドルと米国株が同時に売られ、連動して下げた」のであって、円高が先にあるわけではありません。どの程度、円高が株安とつながるか疑わしい解説が多過ぎます。

 そして、「円高を悪いこと」とする一方的な報道の仕方も問題です。ニュース番組では、円高で経済にダメージがあると伝えて、同時に、輸入食料品が値上がりするニュースを伝えています。これは明らかに矛盾しています。円高が消費者にプラスに作用し、メリットも多いという観点が抜け落ちています。

 「円高は悪い」という一方的な報道では国民や投資家にとっても決して利益にならないでしょう。人口減少で円高場面が少なくなった日本にとって、円高こそ「外モノ」投資の貴重なチャンスです。また、輸入食料品や燃料の値上げを緩和してくれる消費者にとって心強い味方でもあります。消費者と共に小売業者にとっても歓迎できることです。自国の通貨が高くなることを悲観することがむしろ不自然で、メリットを活かせば良いだけのことでしょう。

 日経平均は週明けの急落で水準的に強弱感が強まり、揉み合いで引けました。先物の売買が現物の商いと比較して大きくなり過ぎ、それが現物の参加者を萎縮させる悪循環が見られます。ただ、持ち合いで引けた本日のような日でも上下の幅は大きく、参加者は高いボラティリティをチャンスにし、機敏に動きながら利益を得る努力も必要です。ドル不安のレベルが高まれば更にチャンスは広がるでしょう。