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Aiは医療における「ボイスレコーダー」
千葉大病院・Aiセンター 承諾得やすく、院内死亡の半数に施行

2008.5.21

 死因究明制度・第3次試案への議論が混迷する中、死因究明の切り札として「遺体に対する画像診断(Ai=オートプシー・イメージング)」への期待が高まっている。千葉大付属病院が2007年8月に全国で初めて開設したAiセンターでは、同年11月以降のAi施行件数が半年で50件と急増している。院内からの依頼に限ってみると、院内で死亡した患者の半数にAiが実施されている。

 千葉大付属病院放射線科は、2007年8月に「死亡時医学検索」を行うAiセンターを全国に先駆けて開設し、11月からは院外からの受け入れも行っている。5月7日現在までの半年間で、Ai実施症例数は50例に達した。今年に入ってからは、「院内で亡くなった方のほぼ半数にAiを行っている」と放射線科の山本正二講師は話す。
 解剖承諾例のみを対象に施行されていた05年10月から07年8月までの期間(2年弱)は25例のみだった。

 「解剖の有無にかかわらずAiについて説明するようになってからは、CTの撮影を断る遺族はいない」と山本氏。遺体に傷をつけないAiは遺族の承諾を得やすく、死因究明手段として高い可能性を秘めていることが示された。医師にとっても正確な死亡診断書を書くためのツールになる。

 現在日本の解剖率は2〜3%で、先進諸国中では最低レベルとなっている。病理解剖に強制力はなく、遺体損壊を伴う病理解剖は遺族の承諾を得にくいためだ。手間や費用がかかることも解剖率の低下を招いている。年間100万人以上いる死亡者の98%は、厳密な死亡時医学検索が実施されることなく、死亡診断書が交付されているのが現状だ。

 昨年4月以来、厚生労働省医政局長の私的懇談会で死因究明制度の確立に向けた議論が展開されている。この中でも死因究明の一手段として、CTやMRIなどの画像診断技術を使ったAiが急浮上している。

 第2次試案に対する強い反発を踏まえて4月にまとめられた「第3次試案」には、Aiの活用が初めて盛り込まれた。第3次試案では、個別事例の調査手順が示されており、解剖を実施する事例で、解剖担当医が解剖結果をまとめる際に「死亡時画像診断等を補助的手段として活用することも今後の検討課題である」とされている。

● 死因究明に国民的関心

 遺体にCTなどで画像診断を行い、死因を特定するAiについては、ベストセラーで映画化もされた『チーム・バチスタの栄光』(海堂尊著・宝島社)により、国民にも知られるようになった。2月にはAiの社会制度への応用について国会でも取り上げられた。

 病院内で死亡した患者にAiを実施することで、患者が死亡した状態での医学的情報を保存することが可能になり、従来以上の精度で死因を特定できる。

 「死亡時の医学情報を的確に保存することから、医療におけるボイスレコーダーとも言える。即時性があり、非破壊で検案(証拠保全)できる利点がある」と山本氏は説明する。

 同大の研究で、救急搬送された死亡症例に関しては、Aiによって約3割の死因が特定できることが示されている。同大法医学教室との共同研究で、千葉県警で扱った変死体20体にCT撮影を行った結果、5体に当初の死因とは異なる死因が特定された。

 特に患者の病状が急変して死亡した場合では、遺族の医療に対する不信を払拭(ふっしょく)する機会にもなる。Aiで死因が特定され、事件性がないことが示されたために医療訴訟へ発展を未然に防いだ事例もある。山本氏は「児童の虐待死をはじめ、闇に葬られていた犯罪が、あぶり出される可能性は十分にある」と期待する。

● Aiはスクリーニング・精査解剖がなくなることはない

 Aiの活用はまだ始まったばかりで、撮影方法や撮影範囲、読影資格など、今後整備すべき課題も少なくないが、解剖では特定困難な突然死や蘇生処置後の死亡などの死因を突き止めるのにAiは有効な手段になる。

 とはいえ、Aiも完全ではない。生体と異なって造影剤を使用することができないこともあり、死因判明率は3割程度に止まる。「画像だけでは分からない死因も多く、解剖がなくなることはない。Aiはスクリーニングと精査を目的に活用すべきだ」と山本氏は強調する。

 これまでは、体表を見ただけでほとんどの死因が決定されてきた。司法解剖や行政解剖についても、状況証拠のみで実施されてきた例が多いことは否めない。Aiを導入することで体表からだけでは分からない死因をスクリーニング・精査することが可能になる。解剖前にAiを行うことで、解剖の適否を判断する材料も得られ、解剖の精度を向上することも期待されている。



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