現在位置:asahi.com>社説

社説天声人語

社説

2008年05月18日(日曜日)付

アサヒ・コム プレミアムなら社説が最大3か月分
アサヒ・コム プレミアムなら朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しく)

物価高―食卓の風景を変えよう

 物の値段が上がっている。生鮮食料品を除いた3月の全国消費者物価は、前年同月より1.2%上昇した。この上がり幅はほぼ14年ぶりの記録だ。

 物ごころついたときはデフレの真っ最中で、「価格破壊」の時代しか知らない若い人たちにとっては、初めての物価高だろう。

 食料品を品目別に見れば、もっとすごい。スパゲティは26.6%、食パンは10%も上がった。別の調査では、3月と比べて4月は、しょうゆが9.2%、みそが6.3%の値上がりだ。

 こうした値上がりの原因は、食品の原材料や飼料となる小麦やトウモロコシ、大豆などの穀物の需給バランスが世界的に崩れ、価格が跳ね上がっていることが大きい。中国やインドなどがさらに経済発展をすれば、穀物や食糧の奪い合いは一層激しくなるだろう。

 そう考えると、いったん値上がりした食品は元に戻りそうにない。それどころか、いまは落ち着いている食品も、世界の穀物状況しだいで値上がりする可能性がある。

 だが、見方を変えれば、これまでの食生活のゆがみを直す機会にできるかもしれないのだ。

 今回、穀物需給の影響をもろに受けたのは、パンや肉をたくさん食べ、食用油をたっぷり使う欧米風の食生活に変わったために、穀物を大量に輸入するようになったからだ。食料自給率は39%にまで下がった。

 脂肪のとりすぎや野菜不足、それに運動不足も加わり、健康にも影響が出るようになった。とりわけ男性に肥満が増え、高血圧や高脂血症、糖尿病などに悩んでいる。

 30年ほど前にさかのぼってみよう。1980年の自給率は53%だった。

 そのころ食べるのはコメが中心で、肉や魚のおかずに野菜の煮付けに漬けもの、それに具だくさんの汁物といったところだ。

 こうした栄養バランスのいい、日本の風土に合ったメニューを毎日の食事のなかで、増やしてみたらどうだろう。身近な旬の食材を使えば、世界市場の影響をあまり受けなくて済む。自給率を高めることになるし、健康を取り戻すことにつながる。

 一人暮らしの人や働く女性が多くなったため、外食に加え、調理済みのおかず「中食」が増えた。これは便利だが、やはり割高だ。時間をやりくりして自分で作る機会を増やせないものだろうか。

 冷蔵庫の中のものを腐らせないように、材料の使い回しや調理法を学ぶ。料理を楽しみながら、おまけに安くつくなら、言うことなし、だ。

 食事は毎日のことだから、ほかにも色々な工夫があるだろう。一人ひとりの知恵が食卓の風景を変え、それが暮らしを守ることにもなる。

一院制議連―参院が邪魔なんですね

 テストの成績がふるわない生徒が、自分の努力不足を棚にあげて「テストの制度が悪い」と開き直る――。あえて例えてみれば、そんなところか。

 自民党の有志議員が旗揚げした一院制を目指す議員連盟のことである。衆参両院を統合し、「国民議会」という一つの院の国会にすべきだと主張する。もちろん、憲法改正が必要だ。

 福田首相の側近を自任する衛藤征士郎衆院議員が中心になって呼びかけ、70人以上が参加を申し込んだという。森、小泉、安倍の歴代3首相が顧問に就任する予定というから、かなり本格的な議連である。

 現在のような二院制でいいのかどうか。参院は不要ではないのか。そうした議論は以前からあったし、政治のかたちをめぐる重要な論点である。

 ただ、それがなぜ今、議連なのか。

 設立趣意書を読んでみよう。

 「世の中のスピードが早くなっているのに、一刻を争う国政上の課題が遅滞し、国民のコストは膨大だ」

 「国家国民の損失は、両院による二重チェックや慎重審議の利点をはるかに上回る」

 では、一院制にすればどうなるか。

 「審議をはるかに迅速化でき、内外の政治課題に今まで以上に臨機応変、的確かつ迅速な対応ができる」

 参院がなければいいのに、という思いは痛いほど伝わってくる。参院の主導権を握った民主党に鼻づらを引き回されることもないし、日銀総裁の人事はすんなり決まっただろうし、10年間で59兆円分の道路をつくれる。

 そもそも参院がなければ昨夏の参院選はなかったし、そこで有権者に手厳しい審判を下されることもなかった。安倍政権も安泰だった。

 だが、二院制もそう悪いことばかりではあるまい。

 道路予算のあきれるばかりのムダが表に出たのは、「ねじれ国会」のおかげだろう。それがなければ、福田首相が道路特定財源を何にでも使える一般財源にすると口にしたかどうか。

 3年ごとに参院選があるからこそ、衆院の解散・総選挙をあまりやりたがらない首相に、有権者がもの申すこともできる。

 これらをすべて「国家国民の損失」と言われても、少なくとも国民の方は納得できないのではないか。

 スピードに劣るのはその通りかもしれない。衆院で対決法案が可決されると、今の国会は60日間の「待ち」状態に入ってしまう。だから制度を変えてしまえ、という話ではない。

 「臨機応変、的確、迅速」のために、首相にぜひお願いしたいことがある。早く衆院を解散し、最新の民意のもとで、ルールをつくることだ。それが一番の近道と思うのだが、議連の皆さん、どうだろう。

PR情報

このページのトップに戻る