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2008年05月14日(水曜日)付

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四川大地震―今も救出を待つ人がいる

 ミャンマーのサイクロン被害の救援が進まず、世界がいらだつなかで、隣の中国で阪神大震災の20倍というエネルギーを持つ大地震が起きた。

 四川省を中心に50万棟もの建物が倒壊し、1万人以上の生命が失われた。さらに多くの人たちが生き埋めになっているという情報もある。連絡がとれない人も数万人にのぼるという。

 建物の下敷きになり、この瞬間も必死で痛みと不安に耐えて、助けを待っている人がたくさんいるに違いない。だが、道路は寸断され、救出活動は難航している。

 地震で多くの救出経験を持つ日本などが救援隊の派遣を申し出ているが、いまのところ中国は受け入れていない。中国がこれまで自然災害で外国の救援隊を受け入れたことはほとんどない。自力で危機を乗り越えたいという思いとその自信もあるのだろう。

 しかし、今回の被害の規模はすさまじい。一人でも多くの生命を救うには、多くの人手と一刻も早い救出が必要だ。中国政府は日本からの5億円相当の支援を受け入れたが、救援隊についても早急な決断を求めたい。

 中国でこれほどの地震被害が出たのは、76年に河北省で起き、24万人が死亡した唐山大地震以来だ。中国も地震が比較的多く、特に四川、雲南省などの西南部に集中している。活断層で起こる地震が目立ち、今回も活断層型と考えられている。

 地震発生と同時に、中国は兵士を大量に動員した。温家宝(ウェン・チアパオ)首相が現場に駆けつけ、陣頭指揮をしている。

 そうした素早い反応の背景には、北京五輪を控え、社会の動揺を最小限にとどめたいとの思いがあるだろう。震源地がチベット人の多い地域であるため、救援に手を抜いたと見られたくないという判断も働いたはずだ。

 3月には、この地域でも騒乱があり、警官隊が発砲した。中国当局とチベット人住民の間にはまだ溝があるだろうが、わだかまりをほぐすためにも、被災者の救援に全力を注ぐことが大切だ。

 被災地の写真や映像を見ると、阪神大震災を思い出す。近代的ビルは持ちこたえ、古い建物が崩れている。崩れた中に、学校が多いのが痛ましい。

 崩れ落ちた建物からの救出は、最初の3日間が肝心だと言われる。

 それについては、日本も阪神大震災で苦い経験がある。フランスやスイスなどから救援の申し出があったのに、返事が遅れたため、ほとんどの救援隊が着いたときには、すでに3日がたっていた。

 中国には同じ過ちを繰り返さないでもらいたい。外国からの救援隊を受け入れるのは、国と国との信頼を深めることにもなる。もうすぐ発生から2日が過ぎる。

「道路」後―エンスト政治の清算を

 またまた、衆院で「3分の2」の多数決である。道路特定財源を10年間維持するという特例法改正案が、衆院での再可決を経て成立した。

 自衛隊がインド洋から引き揚げてまた行ったり、ガソリンの値段が下がってまた上がったりと、これまでの政治では考えられない事態が起きた。民主主義のコストとも見えるが、それにしても政治の知恵のなさにはあきれた、という有権者は多いだろう。

 自民党は2年8カ月前の総選挙で大勝し、民主党は10カ月前の参院選で第1党の座を占めた。ともに「勝ち」を主張して譲らない。それが、ことあるごとに政治をエンストさせる元凶だ。

 この停滞を打開するには、結局、勝敗をつけるしかないのだ。福田首相は一刻も早く衆院を解散し、総選挙で国民の信を問うべきだ。

 ところが、首相はとうぶん、解散しそうにない。内閣支持率は2割に低迷し、自民党の政党支持率は民主党に追い越されている。

 皮肉なことに、内閣支持率が下がれば下がるほど、与党内には「解散されたら自分たちが困る」と総選挙の先送り論が広がり、福田政権の命脈を保つことにつながっている。

 だが、このまま決着を先延ばしすれば、秋にかけて政治はどうなるか。

 ・道路特定財源を何にでも使える一般財源にするとして、では何に使うのか。道路族は簡単には譲るまい。首相は民主党に政策協議を呼びかけているが、応じるわけがない。

 ・基礎年金の国庫負担を3分の1から2分の1に引きあげるため、秋には消費税問題の決断が迫られる。いずれにせよ、民主党は協力しまい。

 ・来年1月で切れるテロ特措法を延長するなら法案を通さねばならない。

 どれも3分の2の多数で押し切っていくことは不可能ではない。だが、昨年来の「ねじれ国会」で経験した長期の混乱をまた繰り返すことになる。「すんなり決められない政治」への国民の失望はさらに深まろう。

 むろん、解散したからといって、与党が勝てば「ねじれ」は続く。3分の2の多数は失われるだろう。だが、新しい民意に基づく政治が生まれる。政策合意や連立、政界再編などの動きが起きるにしてもそれからのことだ。

 首相はサミットや内閣改造で局面を転換したいところだろう。だが、勝ち負けに決着をつけないままでは「エンスト政治」が長引くだけだ。

 与野党は、来るべき総選挙に向けてマニフェストを磨くべきだ。首相はまず、一般財源化した道路財源をどう使うのか、具体的に示す義務がある。

 高齢者医療や年金制度のあり方、消費税率など「国のかたち」にかかわる基本政策を、与野党は勇気をもって示さなければならない。

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