2004年新年特集 >>>戻る

大鹿村・長谷村境
 分杭峠に集まる人々
 「ゼロ磁場地帯」とブームに



底冷えの中、「気」を求めて斜面の席に座る人たち

 大鹿村と上伊那郡長谷村の境の分杭(ぶんくい)峠が、超能力や不思議パワーに関心を持つ人たちでブームになっている。日本で唯一の「ゼロ磁場地帯」であり、マイナスイオンをたくさん発生させ、人間の健康に良い影響をもたらす強い「気」で包まれている「気場」(エネルギースポット)だというのだ。以前から気功をやっている人などの間で静かな人気となっていたが、昨年7月、テレビの情報番組で紹介されてから、一気にブームとなった。天気のいい週末、多い日には日本全国から数百人が押しかけているほどなのである。


大鹿村側から見た分杭峠

 「たまたま分杭峠を通りがかったら、車がたくさん止まっているので、何ごとだろうかと思った」「水をくみに来ている人たちがいっぱいいたよ」。そんな声を耳にした。毎週末、風越山ろくの「猿庫の泉」に水をくみに行っている私としては、ここは現地へ出かけてみないわけにはいかない。

 晴天だが、底冷えのする日。20リットルのポリタンクを積んだ車で飯田市から大鹿村に向かった。国道152号(旧秋葉街道)の細い山道を登り、分杭峠に着いた。
 確かに、たくさんの車が止まっている。斜面に整地された駐車場はいっぱいで、頂上でカーブする国道にまで車があふれている。ひっきりなしに訪れる人たちのために、仮設のトイレも設置されている。車のナンバーを見ると、関東や中京、関西などの県外車が8割、残りの2割が県内車だ。

 標高1424メートル。峠から見る高遠方向の眺めは素晴らしい。それ以外は何の変哲もない峠だが、この真下を、数千万年前にできた日本列島最古、世界でも有数の巨大断層である中央構造線が南北に走っている。
 その中央構造線上で、二つの断層が押し合い、双方の力がつりあっていることから巨大なエネルギーを蓄積。地底から絶えず「気」を発生させているのではないか、というのだ。

 天然水を売る車が止まっているのを横目で見ながら、まずは峠道から折れる横道に入り、水をくみに行く。斜面からチョロチョロとでる湧出水をくむ人たちが順番待ちの列を作っている。ペットボトルを何十本も持ってきて、ワゴン車に積んで帰っていく人もいる。夫婦で東京から来たという50代の男性は「富士山ろくや伊豆方面にもくみに行く。確かにこの水は、味がまろやかでおいしい」と満足そうだった。

 峠に戻り、斜面の道を木々を伝いながら、30メートルほど下って、最終目的地の「気場」に行く。付近一帯の中でも最も「気」が集まる場所で、人々が「癒しの場所」「人が幸せになれる場所」と呼んでいるところだ。

 そこには、斜面に沿って木組みの席が何段も作られていて、「気」を求めて訪れた数十人の人たちが、思い思いに並んで座っていた。子供を含む家族連れ、若いカップル、中高年の男女グループ……。それぞれ防寒具で身を包み、全身に「気」を浴びようとじっとしている。瞑想したり、手を空にかざしている人もいる。

 私もしばらくそこに座ってみたが、靴底からしんしんと伝わってくる厳しい寒さに耐え切れず、退散することにした。

 果たして、そこにいた人々は「気」を感じ取っていたのだろうか。「体に電気が流れるようなパワーが感じられるはずだというけれど、ねえねえ、あなた感じてる?」「いやまだ何も。週1回はこないとご利益はないようだよ」「信じるか、信じないかみたいだけど、君は信じる?」「今、ここがすごく寒いということだけは信じるわ」といった冗談交じりの会話が私の耳に残った。

 私自身も半信半疑で、そこに「気」が集まっているのかどうかは分からなかったが、その「気場」一帯がどこか幻想的な雰囲気の漂う空間であることだけは確かだった。

 さて、あなたも、不思議パワーを信じて、「気」を体験しに出かけてみますか? ただし、分杭峠は積雪時は通行止めになるのでご注意を。
【平沢忠明】


地殻変動のエネルギー蓄積
健康に良いマイナスイオンを発生?

 「ゼロ磁場」とは、地殻変動の巨大なエネルギーがぶつかり合って、N極とS極の磁気がお互いを打ち消し合う磁気の低い場所のことをいう。

 この特殊な場所は、地球の磁気の影響を受けることなく、人間がそこにいると、宇宙のエネルギーをまっすぐに受けて、体調が良くなるとも、マイナスイオンを発生させる強い「気」が集まっていて、水や空気などに様々な影響を与えているといわれる。

 マイナスイオンは滝や森林、噴水などの周りに発生し、人間が本来持っている健康維持力を高めるといわれている。

 分杭峠については「糖尿病だが、数回行ったところ、血糖値が下がった」「常に片足がしびれていたが、数時間滞在して帰ったところ、しびれがなくなった」「不眠症が治った」といった体験談がインターネット上に掲載されている。



長谷村は村おこしに活用
「ゼロ磁場の秘水」を売る会社も



湧出水をくむのも順番待ち

 長谷村では分杭峠の「気」を村おこしに活用し、心の健康、体の健康を育み、元気を提供しようという「気の里構想」を推進している

 また、分杭峠で採取した天然水で醸造した日本酒が販売されているほか、ミネラルウォーターとしても販売されている。

 水を販売しているのは伊那市西箕輪の「零磁場ミネラル株式会社」。問い合わせは同社(フリーダイヤル0120・432・028)へ。


発見者は中国の気功師
「紫色の気が渦を巻いている」


長谷村側の分杭峠の頂上

 分杭峠が「ゼロ磁場」であることを発見したのは、中国の高名な気功師の張志祥さん。張さんは、中国政府が公認した唯一の科学的な気功の研究団体である元極学会を率いる人物。中国で多くの人が「幸せになれる場所」として癒しを求めて訪れている湖北省の蓮花山で「ゼロ磁場」を発見した人でもある。

 上伊那地方では、「21世紀の伊那谷を考える会」という民間グループが1994(平成6)年から地域振興活動を展開していたが、その活動のテーマの一つにウエルネスポリス構想(気の里構想)があった。

 同グループは事前予測として、「気」は大きな断層の上に集まりやすいといわれることから、日本で最古最大の断層である中央構造線沿いに的を絞り、張さんを日本に招いた。

 95年7月2日、張さんは関係者の車で駒ヶ根市から分杭峠方面に向かった。途中、何の反応も示さなかったが、分杭峠に立った張さんは、谷底を見て「このすぐ下の沢にとても良い香りを出している場所がある。紫色の気が左巻きに渦を巻いているのが見える」「ここは蓮花山と同等か、それ以上の良い場所である。ここに建物を建てれば、元極堂(特別なエネルギーが集中するスポットの一つで、大地の気の強さを肌で実感できるといわれている)のようになる」と言ったといわれる。


分杭峠「ゼロ磁場地帯」がブーム
「破戒」のモデル大江磯吉の生涯

製作・著作:南信州新聞社/南信州サイバーニュース