【ベイルート高橋宗男】レバノンの首都ベイルートでのイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラなど「親シリア派」と「反シリア派」の衝突で、政府軍は10日夕、各派の武装メンバーに市内からの撤退を要求した。ヒズボラもこの求めに応じる姿勢を示し、混乱は終息に向かう見通しだ。しかし、4日間にわたった衝突の死者は30人以上に上り、レバノン内戦(75~90年)以降最悪の国内衝突に発展。解消されていない国内対立の構図に暗い影をさした。
ヒズボラなど親シリア派は9日、反シリア派の有力指導者ハリリ氏(スンニ派)が所有するテレビ局や新聞社を占拠し、放送・発刊停止に追い込んだほか、イスラム教徒居住区・西ベイルートの反シリア派拠点の大半を制圧した。反シリア派のシニオラ首相は10日、「レバノンはクーデターの実行者には屈しない」とヒズボラを非難する一方、政府軍に対し「治安確立の役割」を担うよう要請。軍はこれを受けて、各派に対し、武装メンバーの撤退を求める声明を出した。
06年夏の第2次レバノン戦争で存在感を増したヒズボラは同年秋以降、親シリア派の中核として内閣での拒否権を行使できる「3分の1の閣僚ポスト」を求め、反シリア派主導政府に圧力をかけ続けてきた。
ヒズボラはこれまでの政府追い込み戦略の中で、危機を演出する一方、暴力の誘発を極力抑制する方針をとってきたが、今回の衝突では武装メンバーが前面に立つなど、様相を一変させた。背景にはこれまでの政治的な駆け引きに実力行使を加え、力を誇示しようとする戦略転換がありそうだ。
政府軍は、今回の衝突の引き金となったヒズボラの軍事通信網について、調査を政府から引き継ぎ、軍として妥当性を判断するとの方針を打ち出した。軍事通信網を「違法」と主張した反シリア派主導政府と、「通信網は重要な武器」と反発した両派のメンツを守る事実上の手打ち策とみられる。
毎日新聞 2008年5月11日 東京朝刊