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論 壇

温故知新 −ビル・トッテン−

中国バッシング相乗りの愚
2008/05/08の紙面より
 中国の北京オリンピックを前に、中国チベット自治区の区都ラサで大規模な暴動が発生し、多数の死傷者が出ている。

二重基準の国

 中国政府がチベットでとっている行動について意見を求められるが、正直言うと、今回の事件における中国バッシング、そして北京オリンピックのボイコットといった日本を含む欧米のメディアの反応には政治的なものを強く感じる。特に米国のメディアは、洗脳とまではいかないにしても意図的な報道をしている気がしてならない。別な言葉を使うと「偽善」である。

 北京オリンピックを前に起きたこの暴動は偶然ではないだろう。チベットの人々は自治権を求める権利があるし、私はそれを支持する。自由のためにはどんなチャンスでも利用したいと思うのは自然なことだからだ。しかし同時に感じるのは、米国が暴動を計画・組織化する手助けをし、メディアでそれを世界に流すことで中国を叩(たた)きたいという思惑だ。

 米国は二重基準の国である。ハリウッドのセレブリティは、スーダンのダルフールの大虐殺は中国の支援によるとして、『ジェノサイド・オリンピック』と呼び非難する。しかし米軍がアフガニスタンやイラクで行っている大虐殺は止めようとはしないし、アフリカのチャドではフランスが飛行隊まで派遣して戦争に加担していても何もいわない。

 中国では西北部の新疆ウイグル自治区でも激しい弾圧が起きているが、イスラム教徒であるウイグル人の抵抗はテロとさえ呼ばれてしまう。やはりイスラム教徒のチェチェンではロシアに併合された後も抵抗運動が続いているが、数年前に起きた劇場占拠事件以来、報道すらされない。

 スペインでは独自の文化をもつバスク人の独立運動がテロという名で呼ばれている。そして、イスラエルの不法な領土拡大政策によって流血の絶えないパレスチナ問題がチベット暴動のように日本のメディアで大きく取り上げられることはない。

公平な視点で行動を

 チベットは独立する権利、少なくともダライ・ラマが求めるような自治権を認められるべきである。しかしたとえチベットでの中国政府の行為が非難されるべきものでも、「フリー・チベット」という行進に加わる気に、私はなれない。

 それは、世界で一番悪いのは中国であり、世界で独立の権利があるのはチベット民族だけだと表明するようなものだからだ。前述した民族紛争のみならず、トルコやイラクにいるクルド人も、また米国によってその土地を奪われた北米の先住民族の問題を解決することも、チベットと同じ視点で語られるべきだ。

 世界で起きている民族紛争のなかで欧米メディアが取り上げ、人々が熱狂するものは、エキゾチックな文化をもっていたり、カリスマ的なリーダーがいたり、または米国の敵国を叩くためであったりする、という条件があることをわれわれは知るべきだ。人々の目がチベットに集中すればするほど、中国は悪人となり、その他の抑圧された民族たちの闘争は国際社会から見捨てられていく。

 いずれにしても、欧米社会の中国バッシングの裏には年率12%の経済成長率への嫉妬(しっと)、東洋人への人種差別、そしておそらくは、チベットを親米国家として独立させそこに米軍基地を置く、というような意図的なものがあることを感じずにはいられないのである。

 たとえば仏教徒として日本人個人がチベット支援を行うことはあるだろう。しかし日本が国家として米国の中国たたきに相乗りする愚はおかすべきではなく、世界情勢を冷静にそして公平な視点から見つめ、行動していかなければいけない。

 (アシスト代表取締役)


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