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裁判員は私服、被告はネクタイ可 法廷スタイル一新へ

2008年05月02日15時11分

 思い思いの服を着た市民裁判員が、ネクタイ姿の被告に質問をする。これまでの裁判で定番だった、黒い法服に身を包んだ裁判官が壇上に並び、ジャージー姿の被告を裁くという「法廷ファッション」が、来年から始まる裁判員制度で大きく変わろうとしている。(岩田清隆、市川美亜子)

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裁判員は私服可、被告はネクタイ可

 裁判官が法廷で制服を着ることは、最高裁の「裁判官の制服に関する規則」で定められている。テレビドラマなどでもおなじみの「黒」はどんな他の色にも染まらず、「公正さ」を象徴しているといわれる。

 しかし、裁判官の横に並んで座る裁判員の服装は、一緒にその事件を担当する裁判官の運用に任されており、特に規則で定められていない。各地で実施されている模擬裁判では、スーツ姿で臨む市民が多い。

 裁判員法は「品位を害するような行為をしてはならない」と定めており、最高裁によると、常識的であればどんな服を着てもよいという。本番では裁判官の判断に委ねられるが、基本的には市民裁判員は私服姿で登場し、黒い法服姿がずらっと並ぶことはなくなりそうだ。

 一方で、事件関係者からの報復を恐れて、「自分の存在に気づかれずに裁判所を出入りできるよう、服装だけでも隠したい」「服装だけでなく、顔も見られたくない」という要望も予想されている。「マジックミラーを置いてはどうか」という意見が出たこともあるが、「裁判の公開」の原則から、顔を隠すことは認められない方向だ。

 「顔を見られるのがイヤで、裁判はどうしてもできない」という場合は、政令で辞退できる「精神上の重大な不利益が生じる場合」にあたるとみなされ、辞退が認められる可能性がある。

 ただ、「花粉症対策でマスクするのはどうか」「サングラスをかけて生活している人は、法廷でも認めるのか」など、裁判官が判断に迷うケースも出てきそうだ。

 私服の裁判員が登場するのと同様、裁判員が参加する裁判に限り、被告の服装が変わるとともに印象も一変しそうだ。保釈が認められず、勾留(こうりゅう)中の被告はサンダルにジャージー姿といった服装が定番となってきたが、一見すると、いかにも「悪いことをしたとの予見を与える」と日本弁護士連合会が求めていた改善が実現するからだ。

 拘置所には「管理運営上、支障を生ずる恐れがある物」の使用を制限する規則があるため、ジャージー姿で、背広を着込んだ検察官と弁護士の間に立つ被告は、決して好印象ではなかった。

 ネクタイやベルトなどの「長いひも状のもの」が禁じられているのは、自殺や他人への凶器に使われる可能性があるから。また、サンダル履きなのは、「滑りやすくして、逃走防止を図る」ためで、かかとの付いた靴は禁じられているからだ。

 こんな現状に有識者らでつくる日弁連市民会議が疑問を投げかけた。裁判員制度の導入に向けて05年4月、「裁判員が被告に偏見を持たない環境を整備すべきだ」と日弁連会長に要望し、最高裁や法務省など法曹三者でつくる「刑事手続きのあり方検討会」でも、この問題が取り上げられた。

 法務省はこうした要望を受け、前から見ると革靴だが、実際は「かかとのないサンダル」を用意することを決めた。ネクタイやベルトは「似た形状に見えるが、ひもの部分が武器にならない程度の長さ」なら認める方針だ。

 さらに、資力がない被告に対しては、服を貸し出す方向だという。

 一方、女性の服装について、「今のところ議題に上がっていない」と法務省。日弁連の担当者は「靴や、女性被告の衣服に関しても考えるべきだ」と話している。

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