医療の最前線に立つ勤務医が疲れ果てている。現場からは医師不足による過重労働が原因との声が上がっているが、国は負担軽減を図る“特効薬”をいまだに示せていない。
医師への過度な負担が医療行為の「質」に影響を与えるのは必至で、医療崩壊につながるとの懸念は絶えない。
厚生労働省によると、日本の医師数は推計25万7000人(平成16年)。内訳は病院の勤務医が16万4000人、開業医(診療所勤務の医師を含む)が9万3000人となっている。
世界保健機関(WHO)が平成18年に発表した報告書では、人口10万人当たりの日本の医師数は198人。
これに対しフランス337人、イタリア420人、スペイン330人、ロシア425人−など。
日本は経済協力開発機構(OECD)に加盟する30カ国中27位(2004年)と圧倒的に少ない。
日本は総数で加盟国平均の38万人に約12万人も足りない。
日本の大学医学部の入学定員は約7500人で、引退や死亡した医師を差し引くと、毎年約4000人の増加にすぎず、加盟国平均に達するには30年以上かかると試算されている。
医師不足が特に深刻なのは産科と小児科だ。産科医は6年に1万1400人だったが、16年は1万600人と減少した。
小児科医も6年に1万3300人だったのが16年に1万4700人とわずかに増えただけで、現状の勤務実態に比べ、あまりに貧弱だ。
医師不足顕在化の背景には、国が長年にわたり医療費抑制策を推進してきたことがある。
しかも16年に始まった医師免許取得後2年間の臨床研修必修化に伴い若い研修医が都会の病院に集中、大学病院の医師確保が難しくなり、大学から各地の中核病院に派遣されていた医師の引き揚げが相次ぎ、医師の「偏在」という新たな問題も生まれた。
厚労省によると、病院常勤医の勤務時間は、労働基準法による法定労働時間(40時間)を大幅に上回る週平均70・6時間。
社団法人日本病院会が実施したアンケートでも、宿直を除く一週間の勤務時間は「44時間以上」が83・4%で、「40時間未満」は4・1%にとどまった。
また1カ月の宿直回数も「3〜5回以上」が57・9%に達した。
一方、厚労省が昨年10月に公表した医療経済実態調査によると、勤務医の平均月収は国公立病院などが102〜119万円で、民間病院は134万円。
これに対し開業医は211万円と勤務医の平均月収の約1・6倍も高かった。
こうした現状を踏まえ、国は今年度の診療報酬改定で、医師不足が深刻な病院診療科に対し、計1500億円の重点配分を決めた。
「医師の偏在が原因」とした従来の見解も改め、「絶対数が不足している」と軌道修正した。
福田康夫首相は5月中にも医師不足の緊急対策をまとめる方針を打ち出している。
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