どうやらアナログLPプレーヤーが売れている。3月にソニーが発表したUSB出力つきアナログプレーヤー「PS-LX300USB」は、かなりのバックオーダーを抱えているようだ。本稿執筆時点でヨドバシ・ドット・コムでの受注状況は、「7月中旬以降の入荷分でのお届け」となっており、2カ月以上待たねばならない。筆者の手元に届いたPS-LX300USBを予約注文したのは3月中旬だったが、発売の4月15日から10日ほど経ってようやく到着した。 宅配業者から段ボール箱を受け取った瞬間に思ったのは、「軽っ」ということ。重量は3.1kgでA4ノートPC程度に過ぎない。プレーヤーのサイズはA4ノートPCよりはるかに大きいから、余計に軽く感じる。以前、取り上げたNumarkの「TTX with USB」は、重量が12.6kg(カートリッジ含まず)もあり、箱を受け取った時に、思わず「設置場所はどうしよう」ということが脳裏をかすめた。PS-LX300USBは逆に、あまりに軽くて「おいおい」ってな感じである。 さっそく梱包を解いて本体を取り出すが、やっぱり軽い。成人男性なら片手で簡単に持てる。女性でも設置に苦労はしないだろう。 本機が軽量な理由は、プレーヤーの本体がプラスチックでできていることだ。「TTX with USB」の本体も樹脂製だったが、もっとズッシリとした質感で、叩いてもコツコツとしたダンピングの効いた音がしたのに対し、PS-LX300USBはいかにもプラスチッキーな質感で、叩くとペンペンと共振を伴って鳴く。ある程度以上の年齢の人なら、子供の頃に使ったスピーカー内蔵のポータブルレコードプレーヤーのような感じ、と言えばピンとくるかもしれない。オーディオコンポーネントというより、ジェネラルオーディオ機器という質感で、写真ではなかなか分かりづらい部分だ。 しかし、それも本機の価格を考えれば納得がいく。PS-LX300USBのメーカー希望小売価格は28,350円、実売でもポイントを含めると2万円ちょっとというところ。前回取り上げたTTX with USBの価格が4万円超で、組み合わせたカートリッジ(オルトフォンのConcorde Arkivと交換針1個のセット)でさえ希望小売価格が2万円を越えることを考えれば、質感的に見劣りするのはやむを得ない。
●操作は至ってシンプル アナログプレーヤーといえば、アームやカートリッジ、さらにはターンテーブルの回転数など、さまざまな調整がつきものだが、本機にはすべて無し。まずカートリッジが専用一体型(ユニバーサルカートリッジシェルは使えない)なので、ウエイト調整が要らない。さらにトーンアームがダイナミックバランス型(スプリング等を用いてカートリッジに一定の針圧をかけるタイプ)なので、アンチスケーティングどころか、ゼロバランスや針圧調整さえ要らない。 ターンテーブルの回転数も、33rpmと45rpmの2つを前面右側のボタンで切り替えるだけで、ストロボ等を使った微調整機構は一切無し。このあたりもポータブルレコードプレーヤーを思わせる。とにかく平らなところに置いて、ケーブルをつなげば準備完了だ。 レコード再生に際して設定する必要があるのは、このボタンによる回転数の選択と、カートリッジ手前にあるレバーでレコードの大きさ(30cmか17cmか)を選ぶのみ。あとはダストカバーを閉じ、前面右側にあるSTARTボタンを押すと、ターンテーブルが回り出し、アームが自動的に移動して再生が始まる、というわけだ。ただ、この時の音もゴトゴト、ガタガタといった感じで、本機がジェネラルオーディオ(実用オーディオ)製品であることを実感する。
再生が終われば、トーンアームはアームレストまで自動で帰ってきて、ターンテーブルも自動停止する。再生途中でも停止したければSTOPボタンを押すと、同じ動作が行なわれる。中座する場合などは、UP/DOWNボタンでトーンアームだけをリフトすることも可能だ。調整が全く不要であることと合わせ、これまでアナログレコードプレーヤーを全く使ったことがない人でも、無理なく設置して再生できる、ということを目指して作られた製品なのだろう。 本機の出力はピンケーブル(直出し)によるアナログ出力と、USBによるデジタル出力の2系統。アナログ出力はPHONO(要外部イコライザ)とLINEの切り替えができる。USB出力は単にPCのUSB端子と接続するだけで、本機がサポートするOS(Windows XP/Vista、64bit版を除く)であれば、OS付属のドライバで「USB Audio CODEC」として認識される。
●USBオーディオからウィザードで取り込み USB出力を録音・編集するソフトウェアとして、本機には「Sound Forge Audio Studio LE」が付属する。Sound Forge Audio Studioはとにかく多機能なサウンド編集ソフトなのだが、逆にアナログレコードを簡単にデジタル化したい、という用途には複雑すぎて向かない。 そこでソニーは、このソフトに「レコード録音と復元ツール」というウィザードを用意した。このウィザードそのものは汎用で、USB出力を備えた本機には当てはまらない記述も散見されるが、ないよりはあった方が断然いい。
とりあえずSound Forge Audio Studio LEを起動して、表示される操作手順チュートリアルで、「レコードからオーディオを録音する方法」を選ぶと、ツールメニューに用意された「レコード録音と復元ツール」までたどりつく仕組みだ。後はウィザードにしたがって操作するだけで、
最大のコツは、入力レベルを欲張って、メーターを振り切らない(メーター上部に表示される数字が0に達しない)ようにすること。振り切ってしまうと音が歪んでしまい、どうにもならなくなる(クリッピングという)。アナログ録音よりクリッピングはシビアなので、注意する必要がある。 クリッピングを防止する最も確実な方法は、録音前に1度通して再生し、その出力をレコード録音と復元ツールのレベルメーターでモニタしておくことだ。そして、そのピークが-1程度におさまるように録音レベルを調節しておく。モニタ作業は、レベルメーターがピークホールドしてくれるため簡単だが、録音レベルの調節はSound Forge Audio Studioから直接行なうことができず、デバイスのプロパティから行なわなければならない(デバイスのプロパティを呼び出すことはできる)。
ちなみに、「録音レベルのモニタ」のチェエックボックスにチェックしてもPCのスピーカーから音が出ない場合、既定の再生デバイスがUSB Audio CODECになっている(最初にUSB Audio CODECデバイスを接続すると、多くの場合こうなる)ことが考えられる。モニタ時に再生音を聞きたければ既定の再生デバイスを、HD Audio(などPCの標準サウンド出力デバイス)に戻しておく。 なお、録音時にCPU占有率が100%になっていないのに、モニタの再生音が途切れたりプチプチとノイズが入る場合は、Sound Forge Audio Studioのユーザー設定のオーディオタブで、再生用バッファや録音バッファを増やしてやると良いようだ。このあたりの使い勝手、起動がちょっと重いことなどが、多機能ソフトをエンジンとして使うことの弱点かもしれない。アナログレコードの出力を、デジタルデータにするのではなく、単にPCで鑑賞したいというのであれば、本機のアナログ出力をLINEにして、サウンドカードのライン入力に接続した方が良いと思う。 ●ちょっとしたレコードのデジタル化に さて本機の音質についてだが、まぁ価格相応というところだ。特に周波数レンジ、音のヌケといった部分で、TTX with USB(Concord Arkiv付き)との価格差を感じる。一番気になったのは、曲によってリズムがちょっともたつくように感じられるところで、ワウの影響かもしれない(カートリッジの針圧を少し上げてみたいところだが、ダイナミックバランス型ではそれも難しい)。これもTTX with USBでは気にならなかった部分だし、間違ってもDJプレイ(スクラッチ)等はやめておいた方がいい。 というわけで、率直に言って、本機はオーディオ向きではない。これからアナログレコードのコレクションを増やしていこうと考えている音楽ファンにもお勧めしない。だが、これらは本機の価格からだいたい想像がつくところだ。 逆に、手元にどうしてもCD化されていないアナログLPが何枚かある、あるいは聞きたかったアルバムのLPをたまたま中古レコード店で見つけた、といった時、これをデジタル化する装置として、本機は非常に手軽だ。これまでアナログプレーヤーを使った経験がなくても、簡単に利用できる。軽量だから友人の家に持って行くこともできるし、最初から何人かのグループで1台持っておくのにも適している。動作保証はないが、USBオーディオデバイスなのでMacでも利用できる(MacBookとAudio Hijack Proの組合せで利用可能であった)。不要な時は押し入れの天袋に入れておけば良いし、貸し借りの際は紙の手提げ袋に入れて電車で運ぶことも可能だ。こうしたことをわかって購入するのであれば、とても良いデバイスだと思う。 □ソニーのホームページ (2008年5月2日) [Reported by 元麻布春男]
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