蒲島郁夫知事は30日、川辺川ダムの是非を検討する有識者会議の委員を発表し、選挙公約だった「9月の態度表明」に向けて動き出した。委員は河川や森林生態、気象など科学系の専門家のほか、公共事業評価や行政学も含めた8分野から1人ずつ選び、別に外国人1人をアドバイザーに迎えた。ダム推進の地元市町村の首長からは「建設の道筋づくり」への期待の声が上がる一方、ダム反対派住民からは設置を疑問視する声も上がった。【笠井光俊、高橋克哉】
蒲島知事は、議論の内容や結論の出し方、論議の公開・非公開などを有識者会議に一任する意向を示した。そのうえで「私が9月に結論を下す際の判断材料を、科学的かつ客観的に示してもらう。そのために、現時点で最良のメンバーを選んだ」と胸を張った。
地元住民の考えについては、別に聞く機会を作る考えを示した。
メンバーは元職を含め東大の教授経験者が6人いるのが特徴で、東大教授から転身した蒲島知事の人脈を生かした形。多くは国の審議会委員の経験も持っている。
一方、アドバイザーに就任したのは、オランダ在住の水管理コンサルタント、ディック・デ・ブラウン氏。県によると、オランダ政府で治水対策や運河の管理などを担当する部門の責任者を務めた経験があるという。蒲島知事は「治水に詳しい人から推薦を受けた」と説明した。
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川辺川ダム建設促進協議会長の柳詰恒雄・球磨村長は「人選や会議の内容について、こちらから何かを言うことはしない」としつつも「安心・安全な球磨川流域作りのため、『ダムが必要』という結論を導いてほしい」とダム推進の道筋作りへの期待感を示した。
五木村の和田拓也村長は「疲弊した五木村の現状を取り上げてもらい、村の再生についても方針を示してほしい。まずは現地を視察して、現状を認識してほしい」と述べた。
一方、ダム建設反対の「清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会」の緒方俊一郎会長=相良村=は「学者ばかりで、我々とは感覚が違うと思う」と人選に疑問を呈した。「論点の多くはすでに、これまでの住民討論集会で示された。積み重ねた議論の成果と住民の思いをくみ取り、会議を進めてほしい」と注文した。
「子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会」の中島康代表は「地元住民の声も聞かずに会議を東京で開くのならば、知事は県民の方を向いていないということだ。(有識者会議は)必要ない」と強い口調で批判した。
有識者会議の人選決定を受け、人吉市の田中信孝市長は30日、毎日新聞などの取材に対し、「中立」の立場を取っていた川辺川ダム建設の是非について「早ければ有識者会議が結論を出す(9月上旬より)前に判断したい」と述べた。
これまで08年度中に判断するとしていたが「何らかの形で有識者会議に地元の意見を伝えたい」とし、「会議の結論が出る前に人吉球磨地方の10市町村が意見を一つにまとめる必要があり、その前に私も判断したい」と語った。「5月下旬に公聴会を開いて市民の意見を集約し、関係市町村長の意見も踏まえて判断する」と述べた。
ダム建設予定地でありながら、同様に「中立」の立場の徳田正臣相良村長は「日本と欧米では治水に対する考え方が違うと思うので、外国人の視点に注目したい」と述べるにとどまった。【高橋克哉】
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□委員の顔ぶれ
池田駿介・東京工業大大学院教授(河川工学)▽金本良嗣・東大公共政策大学院長(公共経済学)▽鬼頭昭雄・気象庁気象研究所気候研究部長(気象学)▽佐藤洋平・独立行政法人農業環境技術研究所理事長(地域環境工学)▽鈴木和夫・独立行政法人森林総合研究所理事長(森林生態学)▽鈴木雅一・東大大学院教授(森林水文(すいもん)学)▽森田朗(あきら)・東大公共政策大学院教授(行政学)▽鷲谷いづみ・東大大学院教授(保全生態学)
毎日新聞 2008年5月1日 地方版