2008年1月に、45nmプロセスで製造される「Core 2 Duo E8000」シリーズが発売された。この45nmプロセスは「Conroe」アーキテクチャにマイナーチェンジを施した「Penryn」アーキテクチャを採用しており、同クロックならば、65nmプロセス製品よりも高い性能を示す傾向があり、人気を集めている。 そして、この45nmプロセスの新製品として4月中旬に発売されたのが、今回取り上げる「Core 2 Duo E7200」である。45nmプロセス製品の廉価モデルとして位置付けられる本製品のパフォーマンスをチェックしてみたい。 ●キャッシュとFSBクロックを制限して価格を抑制 今回テストするCore 2 Duo E7200はすでに発売されており、製品の情報も公開されているが、簡単に特徴をまとめておきたい。まず、表1に他の45nmプロセス製品との比較表を示した。この表から分かる通り、Core 2 Duo E7200はFSBが1,066MHzである点と、L2キャッシュ容量が3MBである点がポイント。 65nmプロセス製品の世代でも、1,333/1,066MHz FSB/4MB L2のCore 2 Duo E6000シリーズの下に、800MHz FSB/2MB L2の同E4000シリーズが存在したのと同じで、45nm世代では、従来のE4000シリーズの立場にE7000シリーズが置かれたことになる。 とはいえ、初期のCore 2 Duoと同じ1,066MHz FSBで、キャッシュ容量もかなり近い。動作クロックも2.53GHzとまずまずのスペックを持っており、Core 2 Duo登場初期に人気を集めたCore 2 Duo E6600に近いスペックの製品が、1万5千円前後で入手できるようになったというインパクトは小さくない。 なお、表に示していない違いとしては、Intel Virtualization Technologyが非サポートとなる。また、TDPは65Wで上位モデルと変わらないが、T.case MaxはE8000シリーズが72.4℃であるのに対し、Core 2 Duo E7200は74.1℃になっている。より高い温度を許容できるようになったことで、冷却に対する要求は下がることになる。使い勝手の良さにつながるポイントだ。
【表1】45nmプロセスのCore 2 Duoシリーズ
さて、今回テストに使用するのは、インテルより借用した同製品のES品である(写真1)。裏面をCore 2 Duo E8500と比較してみると、コンデンサの数などに明らかな違いがあり、このあたりはコスト抑制の設計と思われる(写真2)。 CPU-Zの結果を見ると、動作クロックがスペック通りであるほか、ステッピングが「M0」であることを知ることができる(画面1)。新しいCPUを利用する際に必須の作業とはいえ、特に新しいステッピングが採用されていることから、BIOSのサポートを事前に確認しておきたいところだ。今回利用しているASUSTeKのマザーボード「P5K Pro」ではBIOSバージョン1001以降で対応し、これが本製品の最新BIOSでもある(テスト時点)。BIOSのアップデートが必須になるケースは多いと思われる。
●オーバークロック時のパフォーマンスを含めてチェック それでは、ベンチマーク結果を紹介していきたい。環境は表2に示した通りで、ここではCore 2 Duo E8000シリーズの最廉価モデルであるE8200、同E6000シリーズの最廉価モデルとなるE6550を比較対象とした。ただし、両製品はCore 2 Duo E8500/E6750の倍率を変更して仮想的に作ったものであるので、ここでは“相当”という表現を用いている。
また、実アプリケーションを使用するベンチマークでは、Core 2 Duo E7200をオーバークロックした状態でも測定を行なった。この結果について簡単に紹介しておくと、今回のテストではベースクロックを371MHz、動作クロックを3.524GHzへ引き上げた上で、各ベンチマークを完走させることができた(画面2)。 なお、PCI Expressのクロックは100MHzに固定。メモリクロックはFSBとの比率が5:6となる、DDR2-891相当へオーバークロックしている。コア電圧はBIOSで、デフォルトの1.25Vから1.275Vへと若干高めに設定している。とはいえ、電圧設定をAutoにした状態で3.524GHz動作をさせ、Everestのシステムスタビリティテストを15分ほど走らせても、問題は発生しなかった(ゆえに371MHzのとりあえずの上限とした)。 電圧を上げたのはベンチマークの途中で止まって欲しくないという願いを込めたおまじないのような対処であり、電圧を上げたから371MHzで動作しているという状況ではないので注意されたい。ただし、消費電力テストも電圧アップの状態で測定しているので、そちらの評価では、この状況を勘案する必要がある。 いずれにしても、約1GHzの向上で安定して動作しており、従来から定評を得ているCore 2 Duoの廉価製品の例に漏れず、なかなかのオーバークロック耐性を持っている印象を受ける。もちろん、ロットによっても異なるし、自己責任での作業にはなるが、挑戦してみる価値はありそうだ。
【表2】テスト環境
では、結果を見ていきたい。まずは、Sandra XIIの「Processor Arithmetic/Processor Multi-Media Benchmark」(グラフ1)、「.NET Arithmetic/Multi-Media Benchmark」、「JAVA Arithmetic/Multi-Media Benchmark」(グラフ2)、PCMark05のCPU Test(グラフ3、4)である。 一部でスコアが逆転してしまっているところはあるが、結果はおおよそクロック通りの順序に収まった。ただし、SandraのProcessor Multi-Media Testに含まれる整数演算テストでは、SSE 4.1を使える45nmプロセス製品の強みが出て、Core 2 Duo E6550に対し、クロック差以上のアドバンテージを得ている。とはいえ、アーキテクチャの差以上にクロック差の違いが印象に残る結果である。 続いては、Sandra XIIの「Cache & Memory Benchmark」(グラフ5)と、PCMark05の「Memory Latency Test」(グラフ6)によるメモリパフォーマンスのチェックだ。ここではキャッシュ性能の違いが大きなポイントといえる。 Core 2 Duo E7200はL2キャッシュが3MBで、今回のテストではもっとも容量が少ない。そのため、Sandraのテストにおいても4MB転送の時点でパフォーマンスが大きく落ち込む。 ただし、クロックはCore 2 Duo E6550よりも高いので、3MBの容量範囲内であれば高いパフォーマンスを発揮できる。廉価製品ゆえに容量によるビハインドはあるが、キャッシュがうまく働いたときのパフォーマンスには期待を抱ける結果といえる。
さて、ここからはここからは実際のアプリケーションを利用したベンチマークテストで、オーバークロック後の結果も含めている。まずは、「SYSmark 2007 Preview」(グラフ7)、「PCMark Vantage」(グラフ8)、「CineBench R10」(グラフ9)、「動画エンコードテスト」(グラフ10)の結果である。 全体的な傾向としては、CPU性能のテストで得られた結果と大きな違いはない。Core 2 Duo E8200との差は思いのほか小さく、キャッシュ容量の少なさによるパフォーマンスへの影響は軽微に感じられる。クロック差ゆえのパフォーマンス差という印象を強く残す結果だ。Core 2 Duo E6550に対しては動画エンコードなどでPenrynアーキテクチャの優位性も出ている。 さらに、オーバークロック後のパフォーマンスは、CPUのクロックが大幅に高い上にメモリクロックを上げている効果もあって、非常に優れた結果を残す。クロックに対してわりと素直にスコアが出る傾向を鑑みれば、今回はテストしていない3.16GHz動作のCore 2 Duo E8500をも上回る可能性は高い。
次に3D性能のベンチマークテストとして実施した、「3DMark06」(グラフ11、12)、「3DMark05」(グラフ13)、「Crysis」(グラフ14)、「Unreal Tournament 3」(グラフ15)、「LOST PLANET EXTREME CONDITION」(グラフ16)の結果である。 こちらも、おおよそCPUテストやアプリケーションテストで見られた結果に似ており、Core 2 Duo E8200>E7200>E6550の順に良好なパフォーマンスを示している。ただ、Core 2 Duo E7200とE6550の差は大きくなく、逆転している箇所も多い。ゲームにおいてはキャッシュメモリの影響が出やすいため、過度の期待は禁物といえる。 また、オーバークロック後の結果も意外に伸び悩んでおり、3Dゲームにおいて、キャッシュメモリ容量の小ささが顕在化した格好となっている。 最後に消費電力のテストである(グラフ17)。比較対象の2製品がダウンクロックによる仮想的な製品であるため、参考程度に捉えたい。それでも、Core 2 Duo E7200の消費電力はかなり小さな値を示しており、E8200シリーズよりも低消費電力である可能性は高いと思われる。 オーバークロック後は電圧を上げていることもあって大きく消費電力を伸ばすが、それでも比較対象製品よりは抑制されている。このあたりのバランスの良さは魅力的だ。
●魅力的なコストパフォーマンスを持つ製品 以上の通り検証してきたが、実売価格では少し上のレンジとなるCore 2 Duo E6550を上回るパフォーマンスを見せた点は、45nmプロセスが下のレンジに降りてきたことのメリットを感じる部分といえる。さらにはキャッシュ容量削減により消費電力の抑制という付加価値もあるわけで、CPUとしてのトータルバランスにも優れている。 本製品の登場は、65nmプロセスのCore 2 Duo E6000シリーズを一世代前に押しやる象徴的な出来事ともいえるだろう。現在、1万円台後半のセグメントはE6000シリーズが投入されているが、E8000シリーズの価格低下やE7000シリーズのラインナップ拡大によって、45nmプロセス製品へ置き換わっていくと思われる。 オーバークロック耐性もなかなかのものを持っており、メーカー保証外というリスクを背負うことを前提としてそれに見合う見返りがある。そうすることでE8000シリーズ並みの性能を持たせることもできるわけで、オーバークロックユーザーにとって、手軽に遊べるCPUが登場したことになり、歓迎できるだろう。 もっとも、この点を差し引いても、E6550より安価な1万5千円という価格は魅力的で、コストパフォーマンスは非常に良いCPUといって差し支えない。 ただ、このコストパフォーマンスの良いCPUを活かすプラットフォームが、現在のインテルには少ない。例えば、Core 2 Duo E7200とIntel G35 Express搭載マザーボードが3万円程度とすると、AMD製品ならばPhenom X3 8750/X4 9500+AMD 780G搭載マザーボードという組み合わせが同じぐらいの価格で入手できる。CPU性能だけでなく、内蔵グラフィックの性能/機能も含めて見ると、DirectX 10への対応やUVDといったアドバンテージを持つAMD製品の魅力の方が大きい。 とくにホワイトボックス系PCに対するアピールとして、このあたりはインテルが抱える大きな課題であろう。45nmプロセスのCPUを下位セグメントに適用していくだけでなく、プラットフォーム全体のコストパフォーマンスアップにも期待したい。 □関連記事 (2008年5月2日) [Text by 多和田新也]
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