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インタビュー

来来!中国人エリート留学生 武内和彦・東京大学国際連携本部長

――アサツーディ・ケイ(ADK)と共同で中国人留学生向けの育英基金を設ける

 まずは中国から優秀な学生の受け入れを進める。少子化による定員割れは心配していないものの、学生の質の低下は問題だ。海外からトップレベルの学生を集めたい。ADKの寄付によって新設した育英基金は受け入れ体制を整える第一歩だ。

 北京大学、清華大学、復旦大学の学長に直接会って、将来を担う人材を推薦してほしいとお願いしてきた。これまでは国費留学生としてトップクラスの学生には必ずしも来てもらえていなかった。中国の優秀な学生はどうしても米国に向かってしまう。日本は学位が取りにくい、日本語を知らないと相手にされにくいという悪いイメージを持たれている場合が多いため、学長と直に話をした。

 ADK以外の企業とも基金づくりを検討していく。製薬会社と組んで薬学系の育英基金を作るといった、分野を絞った形も視野に入っている。今回の基金ではADKから3億1760万円の寄付を受けた。

――2006年4月から中国の学生を受け入れる予定だ

 10月入学の枠では英語で教育を受けたい人を募集する。北京大学や清華大学から来る学生の中には、日本語の勉強をしに来たのではなく、専門科目の勉強がしたくて来たんだという意見があった。4月入学の枠では従来のように日本語で教育し、幅広い学生を集める。修士課程に中国人留学生を毎年6、7人ずつ受け入れる。

 海外からの留学生のために無料で日本語を教えるサービスを手がけてきた。中国人の受講も可能だ。1985年に開設した留学生センターで提供している。

――中国の大学との交流を深めている

 南京大学や北京大学に教養教育のノウハウを提供することを検討している。中国の大学は専門性の学問に特化した過去を持つが、最近は総合大学の方向に振れている。日本で唯一と言ってよいほど、教養教育を強化してきた東京大学は、中国で改めて評価されている。

 中国語と日本語で共通の教科書を作るなど、日本と共通の教養科目を中国の大学に新設することを検討している。中国は全人教育に力を入れている。議論を進めていきたい。

――2006年1月、北京大学などアジアや欧米の主要大学と連合を結成する

 2つの大学から1つの学位を取得できる「共同学位」や、2つの学位を取得できる「二重学位」の制度を実現したいと思っている。単位の互換であれば話はしやすいが、学位を出す場合は相手の大学のレベルを判断する必要がある。北京大学を含め、英オックスフォード大学、英ケンブリッジ大学、米エール大学、国立シンガポール大学など、世界でもトップクラスの10大学と連携を深めるつもりだ。

 これまでも東アジア研究型大学協会(AEARU)や環太平洋大学連合(APRU)に参加してきたが、一番のメリットは学長レベルで親密な関係が作れることだ。ADKとの中国育英基金について北京大学など3大学の学長との交渉をしたが、AEARUの会議とあわせてすぐに話ができた。学生の交流をするだけでは大学としての戦略が立てられない。

――4月に「東京大学北京代表所」を設置した

 東京大学出身者の中国でのネットワークづくりに力を入れる。中国に進出した日系企業に勤めたり、北京大学などで活躍したりしている卒業生が増えた。三菱商事の中国総代表、武田勝年氏は東京大学経済学部の出身だ。国際的な競争力を培う上で、東京大学出身者のネットワークは力強い。

 4月に中国科学院と全学協定を結んだ。北京大学、清華大学、復旦大学など中国の大学や研究機関と全学協定を結んでいる。これまでは大学としてではなく部局同士で交流を深めることが多かった。今後は大学全体の戦略として関係を深めていく。

――中国との産官学連携を進めている

 中国政府のアドバイザーとして中国の産学官連携を強化するなど、東京大学の出身者が世界のリソースとして活躍することを目指したい。地方政府との関係を深めれば現地での人材育成にもつながる。日本国内の官庁、自治体には多くの出身者が占めているが、活躍の場を世界に広げる。

 エコマテリアル(環境を配慮した材料)の分野では工学系研究科が無錫市の人民政府、現地企業と共同研究を始める。産学連携はプロジェクトが終わるとノウハウも失われやすいが、大学院生をプロジェクトにかかわらせることによって、人的資源を蓄積していける。

――日本から中国への留学生の数は

 大学本部で把握している留学生の数は27人だ。短期留学のような、大学で把握していない部分があるため、実際にはもっと多いと考えている。一方、中国からの留学生は657人、台湾からは128人だ。英語圏ほどとはいかないが、中国や韓国への留学を増やしたい。

(聞き手は村尾龍雄・弁護士法人キャスト糸賀代表)



<記者の目>

 “天下”の東京大学にも少子化の波が押し寄せている。武内氏は「定員割れは心配していない」と言うものの、学力の低下を心配する。優秀な学生を海外、特にアジアから取り込もうとしている。

 「中国では昼の会議ではなく夜の宴会で重要な事実が決まることが多い」と語る武内氏は自ら中国の人脈を切り開いてきた。海外からの留学生のうち3分の1以上を占めるのは中国、台湾の出身者だ。東京大学はもう一段上のレベルの学生を求めてきた。

 アサツーディ・ケイの寄付金による育英基金は以前には考えられなかった方法だ。2004年4月、国立大学が独立行政法人化したことで可能になった。

 卒業生のネットワークづくりも始めた。このインタビューコーナーに登場した三菱商事の武田勝年中国総代表も東京大学経済学部の出身者だ。中国各地で卒業生が活躍している。

 資金集め、ネットワークづくりなど独立行政法人化を生かした改革は進んでいるが、運営の仕組みそのものには目立った独創性が見えてこない。中国に門戸を開き、異質な考えを迎え入れることは「独創行政法人・東大」につながる道かもしれない。(ニュース編成部 浅沼友子)



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