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「安倍道路」と「麻生橋」

2008年4月28日 AERA
「ムダだ」「必要だ」。議論は揺れるが、道路は動き出したら止まらない。
前首相と次期首相最有力候補の地元を追った。
 与野党の大物議員が続々と入り、激しく火花を散らす衆院山口2区補選(27日投開票)。ガソリンの暫定税率問題を左右する一戦とあって激しい論戦が繰り広げられている。
「ガソリン国会」の最中、この山口県内の一大プロジェクトがやり玉に挙がっていたことをご存じだろうか。
 プロジェクトの名は「関門海峡道路」(第2関門橋)。
 安倍晋三前首相の父、晋太郎元外相(故人)が主導したとされ、「安倍道路」などと地元では言われてきたが、遅々として事態は動かない中で調査費が延々と拠出されていることが分かり、その打ち切りが決まったのだ。
 安倍氏の地元、山口県下関市を訪ねると、下関商工会議所の冷泉憲一専務理事は、
「安倍政権が長期政権だったらなぁ……」
 とため息まじりに語り始めた。
 冷泉氏らによると、プロジェクトが浮上したのは1985年ごろ。ときあたかも、ジャパン・アズ・ナンバーワンの時代だ。

建設促進CDまで販売

 関門海峡には、すでに一般道の関門トンネルと高速道路の関門橋、それに新幹線、在来線のトンネルが1本ずつ通っていた。だが、2本の道路だけでは早晩、交通量が飽和状態になるという声が高まり、構想が具体化。94年には、海峡をまたぐ長大橋プロジェクト(全国で6ルート)=23ページ図=の一つとして候補路線に指定されたのだ。
 地元では建設促進をPRするCDまで販売されたほどの盛り上がりだった。
「陳情を繰り返して98年の全総(第5次全国総合開発計画)にも盛り込まれて、ひと安心したものです。全国の6ルート中、橋の長さが一番短い。明石海峡大橋の次は関門だと期待が高まったんですけどね」(冷泉氏)
 だが、国が2000年に関門橋の10キロ西、下関市彦島迫町と北九州市小倉北区西港町を結ぶ「第2関門橋構想」を発表した後は、パタリと進展が止まったという。
 国家プロジェクト「東京湾アクアライン」の通行量の見通しの甘さが問題化し、本州四国連絡道路が多額の赤字を抱えたことで、大型公共工事への批判が強まったからだった。

首相就任で一発逆転?

 21世紀初頭に飽和するはずだという関門トンネルと関門橋の通行量も、95年以降は横ばいで、将来予測が甘かったことが次第に分かってきたのだ。
 これには、建設推進派のある団体幹部でさえ、
「もちろん第2関門橋ができれば便利になるけど、ないと困るかと言われたらそれほどのものでもない」
 下関が地元の自民党参院議員、林芳正氏もこう続ける。
「右肩上がりの時代に、第2関門橋の話が出たのもあるでしょう。あったほうがいいに決まってますけど、タダではできないとちゃんと話せば地元の方にもわかってもらえるはずです」
 こうした逆風の中、「一発逆転のチャンス」と期待が高まったのが、提唱者の息子がこの国の最高権力者に就いたときだ。 冷泉氏は苦笑しながら話す。
「総理大臣には国全体を眺めてもらうべきで、地域に利益誘導して『安倍道路』なんて呼ばれるモノを造らせちゃならない。地元にはそんな遠慮が広がった。ただし、政権が5、6年続けば、最後のほうでワーッと陳情してみたかったですけどね」
 これまでに、六つの長大橋プロジェクトに道路特定財源からつぎこまれたカネは総額68億円にもなる。「ムダ」との追及に、冬柴鉄三国土交通相はついに調査打ち切りを決めたが、計画自体は残った。いつまた、頭をもたげてくるか分からない。というのも、計画はかなり詳細な点まで詰められているからだ。

総裁選の仇敵同士が…

 参議院予算委員会で海峡道路の凍結を求めた仁比聡平参院議員(共産)はこう話す。
「最初は道路の容量オーバーを推進理由に挙げながら、次第に災害対策などにすり替えられた。そして、何より問題なのは、この計画はまだ整備の検討を進める段階の『候補路線』にすぎないのに、大臣許可を飛びこえて、ルート選定や工法などを調査し、すでに詳細な事業計画を練っていることですよ」
 4月上旬、そんな安倍前首相のお膝元下関に、意外な人物が訪れた。あいさつの冒頭で、
「なぜ私が山口で講演しないといけないのか」
 と呼びかけて笑いを誘ったのは、麻生太郎前自民党幹事長だ。安倍前首相とは総裁選を争って敗れた因縁の関係だが、会合には安倍氏も出席。「ポスト福田」をにらんで、結びつきの強さをアピールしてみせたらしい。
 実は、安倍氏と麻生氏。人間関係の近さは言うまでもなく、選挙区もまた極めて近い距離にある。中選挙区時代、北九州市の西半分は麻生氏の選挙区だったこともあり、2人の選挙区は海峡を挟んだ同じ経済圏、いわばお隣さんのような関係だった。
 その麻生氏の地元筑豊に、町の人家をまたぐ高架橋が完成間近だと聞いて訪ねてみた。

人家を跨ぐ30m高架橋

 下関から関門橋を渡って北九州市に入り、久留米市まで続く国道322号を南下すること約1時間。筑豊の中でも交通の便がもっとも悪い嘉麻市にたどり着くと、突如として街の上空をまたぐ巨大な橋が現れた。
 橋は、合併前の旧市名「山田」にちなんで山田大橋と名づけられた。国道322号バイパスとして建設中なのだという。
 高架橋は高さ約30メートル。バイパスは30年以上前に構想され、来年3月にようやく部分開通の予定だ。
 そこから、さらに南下すること約10キロ。ここでも国道322号の計画が進んでいた。現在は測量段階だが、難所続きの八丁峠の下をぶち抜く約4キロのトンネル(総事業費約170億円)をつくる。06年11月の測量着手式には当時外相だった麻生氏も出席し、祝辞を述べた。
 嘉麻市の松岡賛市長は、道路は「町の生命線」と訴え、こう話す。
「道路がないと、企業も人も来るものも来なくなる。先に便利になった地区に流れる一方で、捨てられた嘉麻がどんどん衰退する。この町は道路ができないと、他の地域とさらに格差が広がってしまうんです」
 永田町でも実力者の一人になった麻生氏のもとに年に2回は陳情に行くと市長は言い、
「先生には頑張ってもらった」
 と「麻生橋」「麻生トンネル」ともいうべき道に町の命運が託されていると言うのだ。
 道路があれば――。かつて石炭産業で栄えた筑豊は、国のエネルギー政策が石炭から石油に転換したことで地域全体が衰退。縦横に走っていた鉄路は次々に廃止に追いこまれ、「陸の孤島」に追いやられてしまった。住民にはそんな思いがとても強い。

縦割りの橋とトンネル

 同じ福岡でも、新北九州空港や九州自動車道周辺には、トヨタや日産などの工場が続々と進出。「北部九州自動車生産150万台構想」を掲げながら、ますます県内の格差は開いていく。だから、松岡市長は焦る。
「自動車産業は中国やインドも力をつけている。自動車産業が海外に逃げない間に、一日も早く道がほしい」
 だが、地域の将来を託す高架橋バイパスと八丁峠トンネルの2大工事も、進むにつれ、新たな問題が発生してきた。
 どちらの工事も国道322号工事でありながら、自治体合併(06年)の前に計画されたため、旧自治体ごとに完結しているうえ、工事の管轄は高架橋が福岡県、トンネルは国交省と、一貫性がないのだ。
 嘉麻市の担当者は嘆く。
「山田大橋とトンネルの間は、曲がりくねった狭い道で、経済動脈にするには二つの道路をつなげるのが望ましい。国や県にそうかけあっているが、なかなかいい反応がなくて……。このままじゃ山田大橋は経済道路じゃなくてただの迂回路になりかねません」
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。

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