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「堕落する準備はOK?」 リアルってレベルじゃねーぞ。あなたには身に覚えがある選択肢?

これから超傑作の話をしよう。
人は物語と出会う。
人はその人生の必要なタイミングで、ふさわしい時にふさわしい本に出会う。自分の心境に、悩みに、幸福に、不幸に、悲しみに、喜びに、怒りに妙にぴったりはまる物語に出会う。本を読んでいる人間は、誰しもがそれを信じている。そういう体験をしてきたからこそ、いまだに本を読んでいる。

目はすっかり肥えてしまい、傑作に遭遇するより凡作を掴むことが多くなったとしても、本を読み続けるのはそのためだ。本という形に限らない。年間何本も映画を観続けている人もそうだろう。物語を読み続けている人は、小さな確信を持っている。

人はどうして物語を生み出したのか。
その深遠な問いの答えかもしれない。
だけど、今は超傑作の話をしよう。人によっては変人奇人がバカ騒ぎするくだらないお話にすぎないかもしれない。けど、物語はきっとふさわしい読者に届く。人はふさわしい物語に絶対に出会える。


2004年の隠れた名作が掘り起こされる

らくえん 〜あいかわらずなぼく。の場合〜(TerraLunar)


PC美少女ゲームの愛好家なら、タイトルぐらいは知っている人が多いかも。2004年に発売され、隠れた名作あつかいされているソフトです。現時点で入手するのは少し難しいのですが、ダウンロード版の販売が始まったようです。(Vectorダウンロード販売ページ

推定5000本以下の売上で、普通に埋もれてしまったソフト(PC美少女ゲームの平均売上は当時でも3000本以下とかそんなもんだったはず)。このゲームを実際にプレイした人はそれほど多くない。

実はボクも今年になってから遊んだクチ。買う前にネットの評判もチェック。更新停止中のASTATINEさんを検索すると、やはりあった。
ASTATINE:「らくえん」評。
 今でも、世間様に隠れつつも、同人誌がタップリ詰まった紙袋抱えて、有明なり、秋葉原なり・・・をトコトコ歩いていると、なーんか虚しくなって、普通に仕事としてエロゲーの論評やっている・・・同人ショップやパソコンショップの店長さんやら、秋葉原みたいな人通りのあるところで・・・等身大美少女の大旗振りながら販促やってたりするメーカーさんなんかが、羨ましくなったりする。でも、実際、そんな楽でもないし、同人ならともかく、商業でやっているんだから、それなりのリスクがある。自分らはリスクを取らず、彼らはリスクを取った。さて、どちらが「シアワセ」なのかな?・・・多分、永遠の問いだろうし・・・もしかすると、エロゲーに関わっている限り、何時、どんなキッカケで、“向こう”へ転がるか分かりもしないので・・・そら恐ろしくもある。ハイリスクハイリターン。所詮、「楽園」は神が創るのではなく、人が造るモノだ・・・と徹底させられると、ここまで居心地悪いシロモノになるんだな・・・と、ハッキリと思い知った気がする。

 しかも、「居心地悪い」=「身に覚えがある」だから、この物語は、性質が悪い。
この感想を読んで、ボクも購入を決意しました。この物語を端的に表すなら、美柴可憐の名台詞「堕落する準備はOK?」に還元される。あなたはこの選択肢に身に覚えがありますか?


リアルってレベルじゃねーぞ

売れない同人作家で受験生(浪人)の主人公がふとしたきっかけで、弱小エロゲー制作会社「ムーナス」で働くことになる。妹2人に心配をかけながら、駄目人間のお兄ちゃんは、受験勉強を放り出してエロゲ制作にのめり込んでいく。ライターが逃げる等々のトラブルが連発し、まさに弱小零細企業の開発現場を地でいく展開が続く。

某Aさんのエロゲークリエイター体験記
この体験記と同様の底辺の制作現場が描かれているが、このゲームを作った会社TerraLunarはホントに潰れている。リアルってレベルじゃねーぞ。

オタクが集まったクローズドサークルという点では、高校生の文化部モノや、『げんしけん』のような大学生のオタクサークルモノと似ているが、ムーナスの連中は食うために働いている点で大きく異なる。

高校時代、大学時代、オタクサークルに入ったところで、人生踏み外すわけじゃない。そもそも生活がかかってない。一方、ムーナスは企画が通る前の資金は自前。1本目のソフトが完成し、売れなければ、当然会社は倒産する。サークルと会社の違い。生々しい現実がそこにある。

無論、エロゲである以上、「幻想」「夢」は存在する。妹2人の存在といい、エロゲ的なご都合主義は少なくない。実際、美柴可憐ルートの後半は、やや強引な展開である。しかし同時に「現実」「痛さ」も突きつけてくるから、油断できない。

この『らくえん』というゲームが真実すばらしいのは売れなかったことだ(失礼)。主人公たちの作っているゲームは、陳腐な作品で、面白そうではなく、たぶん売れないだろうし、実際売れません。彼らが睡眠を削り、身体を削り、徹夜に徹夜を続けて制作しているゲームは、年間数百本の大量のエロゲーの山に埋もれてしまう。

凡庸たる我々の青春は、凡庸に埋もれていく。このゲームの真価はパロディでも、サクセスストーリーでもなく、青春ストーリーにある。いいじゃないか、埋もれたって。そんなもんだ、現実は。でも彼らはとても楽しそうじゃないか。

みかルートにおいて、ゲーム内と現実はリンクする。だからこそ、彼らを描いたこの作品も、やはり売れるべきではない。このゲームは埋もれてしまったし、制作会社のTerraLunarは潰れてしまった。ここまで完璧なメタゲームをボクは生まれて初めて見た。真似したくたって、できるもんじゃない。かの奇作『セガガガ』さえ完全に凌駕した痛さ。メタゲームとは本質的に「痛い」ものなのだな。


超傑作のもう1つの理由

ボクがこのゲームを超傑作と呼ぶ理由はもう1つある。極めて個人的な理由によるものだ。

     「堕落する準備はOK?」
      →はい   いいえ

ゲーオタのまま生きるか、ゲーム制作の側に飛び込むかというのは1つの選択で、その選択においてボクは「堕落」することを選んだ人間。

けれども、今から10年ぐらい前の話になるが、ボクは今の会社に入る前にギャルゲー(18禁ではない)のシナリオを書いていたことがあって、まあ発売はされたし、声優さんのラジオなんかも流れていたんですが、ハッキリいってクソゲーだった。実際、市場の中に埋もれてしまった。

底辺の現場をイヤというほど味わった。時代はPS1バブル、クソゲー天国のまっただなか、当時関わっていた3本中2本が開発中止。発売されたゲームだって、クソゲーにも程がある。ただ、きれいに惨敗したから、今の自分はここにいる。開発力のある所に行って、売れるもんを作ろうと思った。マニア向けはもういいよ、メジャー志向万歳、売れるもんを作ろう。

あの適当な時代にそこそこの成功をおさめていたら、たぶん違う場所にいたんだろうな。その後のギャルゲーの動向(コンシューマーの弱体化とPC系美少女ゲームのブーム)を考えると、今頃はエロゲーのシナリオを書いていたかもしれない。その「もう1つの人生」は割とリアリティがある。

するとあの選択肢が自分の中の暗い所から浮かび上がってくる。「堕落する準備はOK?」。ゲーム制作という点ではきっちり「堕落」したものの、エロゲー制作という点では堕落せずに引き返した。堕落していく快感も知っているし、そのうえでASTATINEさんの言う「居心地の悪さ」も感じている。無論この歳になれば、『らくえん』なんて無いことは百も承知。

エンターテインメントの王道は、より多くの人に楽しんでもらうことだ。それに異論はないし、この10年はずっとそればかりやってきて、経験もちょっとはたまって、エンターテイメントする技術もそれなりに身についた。たぶんさらに経験を積んで、制作技術はもっともっと高精度になるはずだ。

ただなあ、究極的には万人向けを志向するエンターテインメントというものに飽きてきているのも正直な気持ちなんだよな。もちろん上を目指せばキリが無い世界で、「飽きた」というのは傲慢な物言いではある。申し訳ない。だが。

美柴可憐の「悪魔の誘惑」は、ボクの心に凶悪な刃として突き刺さるんですよ。折しも、一昨年、去年と2年連続で同期が辞めて、それぞれの目指す方向へ、本気で「堕落」していますしね。
すぐに影響されるほど若くはないものの、何とも思わなかったといえば、さすがに嘘。そのタイミングで、しかも2007年のいきなり冒頭に、こいつに出会うとは……。まさしく人は出会うべくして物語に出会う。堕落するか、それとも居心地の悪さを噛み締めるか。選ばなければならない選択肢が突きつけられた。

客観的に見れば、たかが5000本以下の売上のソフトにすぎない。万人どころか、普通のエロゲープレイヤー相手にも、自信をもってオススメはできない。けれども人の人生を変える、狂わせる、惑わす、苦悶させる「毒」がこの中にはある。

極めて個人的な理由で恐縮だが、それを超傑作と呼ぶのは自然なことだ。実はこのゲームを遊んで、この文章を書いたのは、「かさぶた。」というブログを始めて間もない頃。4ヶ月近く寝かせておいた。しかしボクはいまだに選択肢の前にいる。
このお仕事を始めてからガムフーセンをふくらませられるようになった。
こういうのも成長っていうのかな。

(by ナマイキでない方の妹。○学生だけど、この作品の登場人物は全員18歳以上です)

テーマ:▼ゲームの話 - ジャンル:ゲーム

タグ:美少女ゲーム  オタク人生  

コメント

えろげではあるが、それほどピンっとこないエロ度ではあった。けれど、
物語のあの勢いとイタさはまだ記憶にある。
ベクター販売はやっと始まったんだなぁ。もうあるものかと思ってました。

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