借りた金は返しんさい(免責研関係者のブログ)
悪い人間に親切をすると二度ひどい目にあう。金を失って、しかも感謝されない。 テオグニス(希・詩人)

2006-11-13 00:19:08
瀬尾@青学大

オマケ第2弾です。今回は、最高裁判所の判事を定年退職した、滝井繁男とか言う人のご意見です。出所は11月6日付け毎日新聞。

「消費者金融が空前の利益を上げる一方で高金利のために自殺者まででる現状はおかしい。」
利息引き下げに伴う貸し渋りについては
「お金を借りられなくなって本当に困る人がどれだけいるのか」と指摘している。
また
「生命保険にまで入れると言うのは正常な発想ではない」



リスク理論の世界には“Who desids?" という有名な問いがある。直訳すれば「それを誰が決めるのか?」

およそ人間が何らかの便益を得ようとして行動すれば必ずリスクがある。そのリスクをとって敢えて行動するのか、それともリスクをさけて行動をしないのか、が選択であるが、その選択を「誰がするのか?」というのが前出の問いなのである。

そんなの簡単じゃないか、と思われるかもしれない。特に、リスクの負担者と行動による受益者が同じであれば、本人が決めるのが一番だ。そう考えるのが普通である。ところが、前出の老人にはこういうまともな感覚が分からないらしい。

「お金を借りられなくなって本当に困る」かどうかは、赤の他人である司法公務員のじいさんが判断するようなことではない。判断すべきは言うまでもなく借り手本人である。困らないのであれば借りなければよい。困るなら借りてもよい。その判断と行動の自由を完全に担保することは明らかに社会の責任だ(押し貸しはいけません)。だが、決定そのものは社会がすべきことではない。「判断の権利」は権力によって行われるべきものでは、本来ないのだ。

ここで「本来」、と書いたのは、“一般国民がサルのように低能で、一部のエリートが判断したほうがマシである”という事態がないととは言い切れないからだ。そんな場合には、学識経験者がしゃしゃり出たほうが「客観的にみれば」リスクと便益の釣り合いがよくなるのかもしれない。だが、「リスク」と「便益」は本来客観的なものではない。「誰が計るのか」言い換えると、誰の効用関数を基準にして、その便益や負担を評価するのかという問題はどこまでも残るのである。

「誰が決めるのか」、は「どんな社会を求めるのか」(一部のエリートがみんな決めるのか、一般の人に意思決定の権利があるのか)にかかわる悩ましい問題だ。ちなみに世界の「意思決定における政府の役割」のトレンドは、「規制」(=エライ人があれはダメこれはダメと子供をしつけるようにいちいち口を出すしくみ)から「インフォームド・チョイス」(=政府は情報を与えるだけで決定は本人に任せ、そのリスクも本人に負わせる、大人社会の仕組み)にゆっくりと変わってきている。今回の金利規制の騒ぎは、明らかにこんな流れに逆行している。

意思決定を「誰がするか」は本当は難しい課題だ。にも係わらず、司法公務員は悩まない。規制することが善であることを疑わない。自分の判断のほうが、一般国民のそれより常に正しいのだと無邪気に信じている。他人の幸福度や他人の必要性についてまで自分が判断できると確信している。この傲慢。だから日本の法曹関係者はア法だというのだよ。司法試験で電話帳を覚えるような単調な作業を繰り返しているうちに思考力が減退してあまり悩まなくなるものと見える。阿部譲二が「こんな裁判官に裁かれるのだからたまらない」と言っていたがまったくたまらない。

だいたいこの記事、見出しからして傲慢だ。「利息制限に道」ーー;あたかもエリートが勝手に決める事が方向性であるかのような時代錯誤。「道」というのは「自由化に道」とか「規制緩和に道」とか、古いものを打ち破るときにこそ使ってほしい言葉である。今後の方向性にあった明るい未来につながる道。「規制への道」だなんて、「核保有への道を切り開く」と言われてるのと同じイヤな感じがする。暗い方向への道だからだ。

この老爺の話にはまだまだ突っ込みどころがあるのだが、長くなってきたので次回。

それにしても、毎日もどうしてこう毎度毎度変な人ばかりを探してくるかな。変な人の話で紙面を埋めようとしないで、ちゃんと取材しなさいよ。

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意思決定過程における「規制か情報公開か(regulation or informed choice)」の議論などに興味のある方は拙著お読みください。

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