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    第四章:三流を一流にする全マニュアル  
WEB Magazine 叱り方の実践例C 〜ある海外駐在員の場合〜
 現在、我社には、海外駐在員が五名いるが、その全員の仕事ぶりについてデータが逐次私のもとへ届くようになっている。海外に社員を出すと、より大きく成長する人と、全くダメになる者にはっきりと分かれてしまう。
 去年、この海外駐在員のうちの二人がたるみ切っている、という情報が入った。私はさっそく二人を帰国させた。一人は新卒で採用したD君、もう一人は途中採用のE君としよう。この二人は全く性格が違う。
 まず二人を呼んで、「どうやった?」という話から始める。当然二人ともなぜ呼びかえされたかをよく心得ている。私は手元に届いているデータを参考に、二人がふるえ上がるほど怒鳴りつける。最後には、「お前らみたいな人間は要らん。会社も全然困らんのや」と。そして、「君らも、久しぶりに日本へ帰ってきたんやから、明日から三日間の休みをやる。その間に頭を冷やして、よう考えてこい」とつけ加える。
 二人とも小さくなって部屋を出ていく。D君は、その日、彼の同期の親しい人間と飲みに行くことがわかっているので、その同期の人間に、前もって、「D君をボロクソに叱ったけど、あいつは見込みありそうや」と耳うちしておく。
 案の定、三日後D君は、「すいませんでした。反省して、心を入れかえて頑張ります」と謝ってくる。
 E君の方は、恐らく三日間つまらないことを考えたのだろう。退職願を持っている。私は、まだこの人間はオレの考えが十分に理解できていないな、と思いつつも、そんなことはおくびにも出さず、「お前、相変わらず字が下手やなあ。もっとていねいに書けんのか」と、またしても怒鳴りつける。
 「いや、もう私、辞めるんですから、そんなこと今さら言ってもらわなくても結構です」とE君。私はすかさず、「誰が辞めるん許可したんや」「いや、この前社長が辞めろと……」「ワシは、お前要らん言うたけど、辞めとは言うてない」
 私は、その場で退職願を破り、窓から外へ捨ててから、「こんな下手くそな字、何書いてあるかわからへんから、もう一度書き直してこい」という。
 普通の人間なら、次の日から出てこないだろう。しかし、E君は私の注意したところを書き改めて、次の日に持ってきた。下手な字には違いなかったが、ていねいに一生懸命書いてある。
 私は即座に、これなら見込みがあると思う。「ワシは、これがほしかったんや。前の退職願は、どうせ辞めるのやから、どうでもええ、という気持ちで書いてあった。そんな気持ちがアメリカで出て、評判落としたんや」と、こんこんと諭していく。たっぷり時間をかけて……。E君が部屋を出る頃には、手を握り合って、涙も流している。
 そして、再びE君が任地に戻ると、私はすぐに国際電話を入れる。「おう、まだ辞めてないんか」。仕事の話をしながら、その間に「早う辞めや」という言葉を何度も入れる。けれど、「まあ、本当に辞められたら困るからなあ」と、最後に言って電話を切る。彼は今、バリバリ仕事をやってくれている。


※本書は1984年にPHP研究所より刊行されたもので、内容は当時のまま掲載しております。

次回更新日:2007.6.6
出典:「奇跡の人材育成法」PHP研究所より



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