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患者受け入れに一定の効果
広島県救急搬送支援システム 医療機関の協力が有効活用の鍵
2008.4.25
救急患者の搬送先選定困難時に、携帯電話で複数医療機関に受け入れ要請を一斉に行える広島県の救急搬送支援システムが、運用を始めた昨夏以来、一定の効果を上げている。受け入れ先探しに時間を要することが社会問題化する中、同県の取り組みは全国から注目されており、大阪府では同様のシステムを導入する方針を決めた。ただ、システムをより有効活用するには運用面の改善が必要で、関係者は医療機関による協力が今後の鍵になるとみている。
県健康福祉局保健医療部医療政策課によると、2001年に9万330人だった県内の救急搬送人員が06年には10万4944人まで膨らみ、搬送困難事例も増加傾向にある。一方で、医療機関が空床情報をリアルタイムで入力するのは、業務上難しいケースも多いことから、使い勝手のよいシステム構築が検討課題となっていた。
このため県は、救急医療情報ネットワーク「救急医療Net HIROSHIMA」の救急搬送支援システムを、より実効性の高い仕組みになるよう機能を改善。新たな救急搬送支援システム「こまっTEL」を構築し、昨年8月に運用を始めた。
現場に駆けつけた救急隊員が、傷病者の容体を基に受け入れを要請する医療機関の範囲を決め、携帯電話で救急医療Netのサーバーにアクセス。容体などを説明した音声メッセージをサーバーに登録すると、指定範囲の複数医療機関へメッセージが一斉に送信される仕組みだ。
医療機関は、あらかじめ設置されたメッセージ受信専用端末から流れる音声を確認後、タッチパネル式の画面で「○」「×」を選択し、受け入れ可否を回答する。救急隊員は、携帯電話に届いた回答から搬送先医療機関を選び、受け入れの詳細について直接調整する。
運用体制が整っているのは、広島市消防局、福山地区消防組合消防局など4消防局・本部の管内で、救命救急センター、救急告示病院など120医療機関に専用端末が置かれている。ただし、現時点で実際にシステムを運用しているのは、広島市消防局に限られている。
● 病院搬送実績 8カ月で44件
広島市消防局では、救急隊員が行う患者搬送の交渉が5病院以上になるケースで、システムを使用するよう取り決めている。昨年8月10日から今年3月末までの間にシステムを利用したのは202件で、受け入れ回答に基づいて病院に搬送されたのはこのうち44件。ほとんどが夜間や休日に利用されていた。
県医療政策課の担当者は、この実績について「一定の効果がある」とみている。市消防局警防部救急課の担当者も、受け入れ交渉に5回以上要するケースが、わずかではあるが減少傾向にあるとの見方を示す。
また、本来の機能とは異なるものの、システムの活用をきっかけに搬送につながる事例も出てきている。システムで要請を出すことによって、深刻な事態に直面しているという認識を、受け入れ不可の回答を送ってきた病院とも共有。搬送先がなかなか決まらないケースで、このような病院にあらためて連絡すると、医療機関側の協力によって受け入れにつながることもあるという。
● 大阪もシステム導入方針
大阪府も医療現場での入力業務簡素化による救急搬送の効率化を目指し、同様の救急医療情報システムを導入する。対象となるのは府内2次救急告示医療機関259施設。
入力による煩わしさを最小限にとどめるため、医療機関にはタッチパネル式の専用端末を設置する。これまでは受け入れ対応可能な診療科名など、細かい情報を一定時間ごとに入力する必要があったが、入力項目の整理やパターン化によって作業も軽減。「リアルタイムの入力」を目標に掲げる。
24時間にわたって空床情報に更新がなければ、専用端末のアラームで周囲に告知。医師が携帯電話を使って応需情報を入力する仕組みや、病棟単位の情報入力も検討していく。 救急隊は、携帯電話で医療機関の応需情報を検索することが可能になるほか、搬送要請情報を複数の医療機関に一斉配信する機能も設ける考え。5月に開催予定の府救急医療対策審議会に諮り、予算が確定すれば今夏にもシステムを導入する。
広島市消防局は今後の課題として、一斉要請から搬送までの時間短縮を挙げる。担当者は、それには運用面で医療機関側の協力が不可欠との見解を示す。
救急隊にとって、メッセージ登録後、医療機関からの回答を得るまでは「もどかしい待ち時間」となる。さらに、受け入れ先が見つからない中で、受け入れ可否の意思表示をしない医療機関があれば、その分だけタイムロスが発生する。
市消防局では待ち時間対策に、一斉要請と並行して、本部指令係による搬送先検索や、救急隊員による個別要請を行っている。システムに乗せたものの病院搬送にまで至らなかった158件は、このような取り組みによってカバーできた。
県も回答の迅速化をこれからの課題とみている。医療機関に対し、音声が聞き取りやすい場所への端末設置を要請したほか、音声メッセージが届いたことを医師の携帯電話にメールで知らせる機能も設けた。しかし、「医療機関に協力を要請するほかない」というのが実情だ。
市消防局警防部救急課の担当者は、「将来的には電話で探すよりもスムーズに搬送できるようにしていきたい」と話し、医療機関の取り組みに期待を寄せる。
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