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記者の視点
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周産期医療体制構築は応分の報酬を
欠かせない開業医の参加
2008.4.25
あらためて本紙で詳述する必要はないが、この2年間ほど産婦人科医不足を要因とする周産期医療の問題がメディアで取り上げられない日はない。それほど、事態は深刻化している。特に産科救急の問題が焦眉(しょうび)の急として問題視されているが、基本的には周産期医療全体を再構築しなければならない時期が来ていることは間違いない。
こうした中で、3月までに大阪府医師会の「周産期医療システム再構築検討委員会」(委員長=村田雄二・愛染橋病院長)がまとめた報告書は、2次医療圏に総合周産期母子医療センターを設置して集約化を図ること、勤務医と開業医の活用と役割分担にも踏み込んだマンパワー対策などを意見としてまとめている。周産期医療の再構築に関する具体的な「提言」として、広く論議のためのテキストになるように思える。
同委員会は2005年5月に設置されたが、集約化に関しては、委員会論議をベースに、大阪南部の泉州2次医療圏での自治体病院集約化が実現、4月1日から新周産期センターが動き始めている。集約化に関しては、すでに大阪が先鞭(せんべん)をつけているという意味でも、現実的提言として受け止めることに問題のあるはずがない。
◎ 必要な医師に対する柔軟な待遇
この報告書で注目されるのは、周産期施設を機能別に1次、2次、3次にカテゴリー区分を明確化し、特に2次施設について、その形態、年間取り扱い分娩数、そのために必要な医師数、施設の勤務医の年収についてもその目安を示したことだ。
2次医療機関の形態については、施設を「産科」か「婦人科」に特化し、地域における連携を保ちながら、「産科に特化した施設」(周産期センター)では、1施設当たり年間1500〜2000件の分娩を担当するとしている。まずこのスケールを設定することで、当該施設では「少なくとも10人の医師を必要とするが、そのうち専任は専門医3人程度とする」としている。3人以外の10人を充足させる医師数は、先述した「婦人科」などの病院群とのローテーション構築で確保する。 その上で、勤務医の年収は診療部長級2500万円以上、医長級2000万円以上、医員1500万円以上とするなど、待遇面での具体的数字も示している。勤務医の年収については、公務員的な給与体系の見直しを前提として、弾力的な運用を図る方向が明確に提示されている。
現実には2次医療圏の周産期センターは自治体病院が担わざるを得ないケースが多い。このため、周産期センターを担当する産科勤務医が公務員給与体系のままでは、柔軟な態勢づくりは望めないとの指摘を報告書はしていることになる。産科医療、分娩を確保することが焦眉の急であり、さらにそのことが自治体病院を地域医療資源として活用する際の障壁であるなら、こうした給与制度の柔軟性確保は必定となることが分かる。
◎ 開業医師の経営面に配慮した当直態勢
また報告書では、「当直業務については、1次医療機関(診療所)の協力も必要であろう」とするにとどめたが、委員会での討議では、「診療所医師の当直医態勢を構築し、応分の手当を支払う」などの基本的アウトラインでもほぼ合意を得ているもようだ。
論議は「応分の手当」の額にも及んだ。集約的な意見としては、大阪・能勢地区で行われている小児救急当直医が1回19万円程度に設定されているとされることから、産科当直も同程度以上は必要ということになったようだ。仮に1回20万円程度で当直手当が設定されると、週1回ペース、年間50回の当直で1000万円の年収が保証されることになり、診療所開業医の医院経営面での不安を薄め、その分、積極的な当直業務参加へのインセンティブになる。
報告書にこの点を具体的に盛り込めなかったのは、少し隔靴掻痒(かっかそうよう)の感もするが、地域の開業産婦人科医の活用として、こうしたアイデアが現実味を帯びることを強く期待したい。特に、産科開業医が分娩の現場から遠ざからないための枠組みとしても、現実的な提案だと思える。確かに目先の費用拡大は大きなものになりそうだが、数年後に国民が安心して産科医療を受けられる体制づくりの投資は惜しまないでほしいと思う。(大西 一幸)
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