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ニュース追跡:小児医療、崩壊の危機に直面 軽症患者の殺到に医師疲弊 /埼玉

 ◇立ち上がる母親たち

 急患のための時間外(夜間・休日)小児救急に、熱やせき程度の軽い症状の子供たちが殺到し、全国で問題になっている。勤務医が子供の患者の対応に疲弊して当直のない開業医に転向し、医師不足に陥った病院が、救急医療から撤退する悪循環だ。医師から見れば「大したことない」症状も、親には「子の一大事」。この両者のギャップを埋めることが大きな課題になっている。【稲田佳代】

 3月、土曜夜の川口市立医療センター(川口市)の待合室。子供を抱いた親が次々と受付を訪れ、午後7時台は8人、同8時台には17人に上った。小児科部長の下平雅之医師は「インフルエンザが流行していない分、少ない方」と明かした。朝まで患者は途切れず、この夜の当直医は午後6時~翌朝9時までに1人で47人を診察した。そして翌日もそのまま通常勤務に入った。

 県内の開業医は04~06年で237人増加した。過酷な労働環境から勤務医が開業医に転向するケースが増えている。一方で、勤務医は日本小児科学会のモデル計画案を基にした試算で173人不足している。07年2~3月、朝霞台中央総合病院など9病院が救急医療から撤退するなど、必要な救急体制が取れない地域も珍しくない。

  ■  ■

 小児科医を忙しくさせる大きな要因が「病院のコンビニ化」の進展だ。

 県の医療協議会によると、時間外の小児救急患者の96%は軽症だ。親が病院をコンビニエンスストアのように考え、「昼間より夜の方がすいている」「テレビを見ていたら遅くなった」などと、時間外に訪れる。

 少子化対策として県内全市町村が競って導入している小児医療費の無料化も、安易な受診を助長する面がある。医師らには「タダだと思ってちょっとしたことで来る人が増えている」と不評だ。

 ただし、川口市立医療センターの下平医師は「専門知識がない親が軽症か重症かを判断することはできない」ともいう。越谷市の2歳男児の母親(32)は「親なら、できるなら専門の小児科医に診てもらいたいと思うもの」と吐露する。

 核家族化で、子供の病気について年配者からアドバイスを受ける機会も減った。県の小児救急電話相談「#8000」の女性相談員(64)は「親は孤独。相談する相手がいないみたい」と心配する。

  ■  ■

 志木市立市民病院で珍しい試みが始まった。志木市とその近隣4市の医師でつくる朝霞地区医師会が4月から、小児科などの開業医40人を交代で派遣、軽症救急患者の診察を受け持っている。県も当直1回当たり1万円の報酬分を、医師会に支出している。

 川口市立医療センターでも昨年5月から、地域の開業医数人が当直に加わり始めた。救急病院としての役割を果たせなくなれば、軽症しか診られない診療所には患者の紹介先がなくなってしまう。当直を3カ月に1度する開業医の平井克明医師は「センターに重症の子を受け入れてもらっているから」と話す。

 親たちの手による親への働き掛けも始まっている。

 兵庫県柏原市の母親たちは昨年4月、医師不足から診療中止の危機に陥った地元の県立病院小児科を救おうと、「小児科を守る会」を作った。母親たちに安易な受診を控えるよう呼びかけ、受診の目安を記したハンドブックを作成している。

 東京都でもこの時期、2児の母で自営業の阿真京子さん(33)が、「知ろう!小児医療 守ろう!子ども達の会」を発足させ、小児医療の基礎を学ぶ勉強会を開いている。親子連れで満杯となった救急病院の待合室と、疲れ切った医師を見たのがきっかけだ。阿真さんは「子を思う母親の心配を減らすことが、結果的に医師の負担減になる」と話す。

 この会のメンバーで、川口市に住む3児の母、平野美江さん(33)は県内でも勉強会を開こうと準備中だ。平野さんは「国に何かを求める活動はよくあるけれど、母親自身がまず動こうとする発想に驚き、賛同した。世の父親たちも巻き込み、積極的に医師や他の親に近づいていく活動をしたい」と意欲的だ。

 小児救急の崩壊は、医師や医療機関だけの努力では食い止められない。子供の健やかな成長を願うすべての親たちの協力と理解が、必要とされている。

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 ◇医師と親つなぐ活動必要

 「まちの病院がなくなる!?地域医療の崩壊と再生」などの著書がある城西大の伊関友伸准教授(経営学)の話 朝霞医師会が始めた「開業医が勤務医を助ける」取り組みは評価するが、殺到する軽症患者を減らすことにはならない。医師の大変さを親が理解するためには、医師と親をつなぐ活動が必要だ。親は、子供の状態よりも自分が不安なので救急に駆け込みがち。子供をよく観察し、症状を見極める知恵をつけることが求められる。

毎日新聞 2008年4月23日 地方版

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