現在位置:asahi.com>社説 社説2008年04月21日(月曜日)付 メタボ健診―腹回りは官頼みでなく特定健診・特定保健指導、いわゆる「メタボ健診」の制度が今月から実施されている。混乱が続く後期高齢者医療制度とともに、医療改革の一つとして導入されたものだ。 40〜74歳を対象に、内臓脂肪型の肥満で高血圧、高血糖などの症状(メタボリックシンドローム)の人を見つけ出す。早めに保健指導をすることで糖尿病や高血圧症といった生活習慣病になるのを予防しようという試みだ。 生活習慣病の治療で国民医療費の約3割が費やされる。新制度によって2025年度時点で医療給付費を2兆円節約できる、と厚生労働省は見込む。 「メタボ」が流行語になり、腹回りを気にする人が増えた。健康づくりへの関心が高まったのはいいことだ。 しかし、制度の中身が明らかになるにつれ、気がかりな点も出てきた。 新制度では、腹回りが基準値(男性85センチ・女性90センチ)以上の人をまず選ぶ。さらに血圧測定と血液検査で、血糖、血圧、脂質の値が二つ以上基準を超えるとメタボ該当者、一つだと予備群と判定されて保健師と面談する。目標を立て生活習慣の改善に取り組む。 だが「腹回りが基準値以下でも、生活習慣病の予備群はいる」など、専門家の間に異論が根強い。対象者の見つけ方や指導の内容は、実情を調べつつ見直していく必要がある。 保健指導をする人材の確保も急務だ。政府は市町村向けに保健師4300人分の財源を手当てしたが、何人確保できたのかは不明だ。 態勢が手薄で保健指導が十分にできないと、投薬に安易に頼ることにならないか。それではかえって医療費が膨らむ懸念もある。 さらに厚労省は、健診実施率、保健指導の実施率、メタボ該当者・予備群の減少率について、保険者ごとに目標を立てるよう求めている。達成できなかった健保などは、後期高齢者医療制度へ出す支援金を最大10%増やす。そんな罰則を5年後から実施する。 がんばって達成したら「ご褒美」として減額するのはいいとして、罰則まで科すのはどうだろうか。太りやすい体質の人、運動しても体重が減りにくい人もいる。罰則は、そうした人たちへの風当たりを強め、ギスギスした空気を生まないか心配だ。 不規則な食生活、運動不足を生む職場環境を放置したままで、メタボだけをやり玉に挙げるのにも無理がある。 そもそもメタボ健診は、経済財政諮問会議などから医療費抑制を迫られた厚労省が、窮余の策でひねり出した。国民の健康を考えてというよりも、役所の都合という色合いが濃い。 健康管理は本来、個人個人の問題だ。政府の関与が行き過ぎぬよう細心の注意を払い、必要に応じて制度を見直す柔軟さを忘れたくない。 芸術助成―社会に、懐の深さを政治家のご機嫌を損なうような作品に取り組むと、公的な援助を受けにくくなりはしないか。そんな不安が芸術家の間に広がっている。 映画「靖国 YASUKUNI」について、少数とはいえ国会議員が助成金の支出に疑問を呈し、議員向けの試写会まで開かれたからだ。 この映画を助成したのは、政府と民間で資金を出し合った芸術文化振興基金である。その運用益で07年度は854件、総額19億余円を支出した。対象は映画だけでなく、舞台から町並み保存まで幅広い活動に及ぶ。 助成すべきかどうかは、各分野の専門家が審査する。政治的・宗教的な宣伝意図があるものには出さない。 一部の議員が今回の「靖国」を問題にしているのは、政治的な宣伝意図を疑っているからと思われる。 だが、芸術には作り手が時代や社会をどう考えるかが表れる。それを「政治的宣伝」と決めつければ、多くの優れた活動がこぼれ落ちてしまう。 所管する文化庁は「政治的テーマを取り上げることと政治的な宣伝意図があることとは別だ」という。今後もこの方針を貫いてもらいたい。 内容の豊かさを数値で測れない芸術・文化だからこそ、助成に当たっても懐の深い目配りが必要なのである。 助成にふさわしい作品かどうかを考えたり、より良い助成の仕組みを作る議論をしたりすることはあっていい。しかし、意欲ある芸術家や、助成対象を選んでいる人たちを息苦しくさせるようなやり方は慎むべきだろう。 気になるのは、日本の政治や社会を批判する作品を「反日」などと決めつけることである。短絡的な決めつけが政治的に危ういのはもちろんだが、芸術・文化を見る目としては、幅と奥行きがなさすぎる。 英国で04年、「スタッフ・ハプンズ」という演劇が作られた。イラク戦争をめぐる各国首脳らの言動を描き、米国に同調した当時のブレア英首相には手厳しかった。これは「反英」の劇だろうか。 現政権を批判したこの作品は、政府が支援するナショナルシアターで上演された。そのことに多くの人は、英国の成熟を感じ取り、敬意を抱く。それは結果として英国の利益になる。 歴史の軸で見ればどうだろう。 第2次大戦中、日本では第一線の画家たちが戦地に派遣されて戦争画を描いた。それらは当時称賛を集め、戦後は逆に批判の的となった。だが、いま改めて見ると、人間の真実や戦いの悲惨さを語りかけるものも多い。作品の受け止め方は時代によっても変わる。 芸術・文化は今を生きる人たちの心の糧であり、未来に残す財産でもある。社会が手助けする幅は、できるだけ広くしておきたい。 PR情報 |
ここから広告です 広告終わり どらく
鮮明フル画面
一覧企画特集
朝日新聞社から |