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「ニコチン依存症」治療に飲み薬 効果の反面、副作用も

2008年04月20日

 たばこがやめられない「ニコチン依存症」の治療に、飲み薬タイプの新薬「チャンピックス」(一般名バレニクリン)が、保険適用になり、まもなく販売が始まる。禁煙の成功率を高める新たな選択肢に期待がかかるが、カウンセリングや再喫煙を防ぐ環境整備の重要性に変わりはない。

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 東京都内の男性(60)は05年、知人に誘われたバレニクリンの臨床試験への参加を機に禁煙を決断した。1日20〜30本を35年間吸い続け、起床直後の1本や仕事の合間の一服が欠かせなかった。禁煙前は、イライラをどう抑えればいいのかと不安だったが、参加してみて拍子抜けした。

 「苦しさもなく、すんなりと禁煙できた。薬の効果が大きかったのだろう」と振り返る。最初の1週間で徐々に薬の量を増やし、その後11週間は朝、夜の食後に1錠ずつ服用。診察やカウンセリングも受けながら、禁煙を続けた。

 男性の臨床試験を担当した小張総合病院(千葉県野田市)の小西明美・健診センター部長は「イライラや気分の落ち込みといった離脱症状を抑えられ、もし喫煙しても満足感が得られにくいなど、作用の仕組みがこれまでと違う」と新薬を評価する。

 すでに、禁煙治療で保険適用されているニコチンパッチは、はり薬で皮膚から吸収されるニコチン量を次第に減らして禁煙につなげる。しかし、皮膚のかぶれを気にする人もいた。ニコチンガムは保険がきかない市販薬だ。

 バレニクリンが作用する仕組みは、パッチやガムとは異なる。喫煙による快感は、ニコチンが中脳にある受容体と結びつき、神経伝達物質ドーパミンを放出することでもたらされる。バレニクリンは、ニコチンより受容体に結びつきやすいため、ニコチンが受容体に結合できなくなる。一方、バレニクリンと受容体が結合すると、ニコチンの半分程度のドーパミンは放出されるため、離脱症状が抑えられるという。

 国内19施設、計515人が参加した臨床試験では12週間、1ミリグラムの錠剤を1日2回服薬した患者の禁煙率は65.4%と偽薬を26ポイントほど上回った。量が多いと成功率も上がった。実際の治療では、パッチによる禁煙治療と同じく12週間が保険の適用。当面は2週間ごとに医師の診察やカウンセリングを受ける。

 日本循環器学会などによる試算では、自己負担3割の場合、12週間の治療費はニコチンパッチで約1万2千円だが、新薬は約1万8千円と割高だ。だが、パッチで必要な開始日の完全禁煙は不要という利点がある。バレニクリンでは、1週間かけて薬の量を徐々に増やしながら、その間に徐々に喫煙本数を減らす。

 「喫煙者は離脱症状に不安を抱き、徐々に本数を減らしたいという気持ちが強い。新薬は、禁煙への自信を深める助走期間があり、心理的ハードルを下げる」と大阪府立健康科学センター健康生活推進部長の中村正和医師は話す。

 ただ、副作用には注意が必要だ。臨床試験では1ミリグラム群の患者の24%に吐き気、10%に軽い頭痛がみられた。因果関係は不明だが、米国では少数にうつ状態や自殺願望などが報告され、米食品医薬品局(FDA)が注意を促した。

 海外の研究によると、禁煙補助薬を使わない場合に比べて、バレニクリンで約3倍、ニコチンパッチで約2倍、禁煙率を高める効果があった。だが「魔法の禁煙薬」は存在しないことを肝に銘じて欲しいと専門家は指摘する。

 禁煙治療では(1)禁煙の意志を維持する明確な動機(2)指導者からの適切なアドバイス(3)離脱症状を和らげる禁煙補助薬――の三つが達成率を高める。今回の臨床試験でも、開始から52週後も禁煙が継続していたのは、1ミリグラム群の患者で34.6%。偽薬との差は11ポイント余まで縮まった。ただし、服薬終了後もカウンセリングは続けた。

 苦しい離脱症状を起こすニコチン依存や、喫煙の記憶がいつまでも残る心理的な依存を自力の挑戦で乗り越えるためには、自らの喫煙パターンを知り、つらいときはアメをなめたり水を飲んだり、再喫煙の誘惑がある環境を避けるなどの工夫を積み重ねる必要がある。自力で禁煙を達成するには失敗を繰り返しながら10年かかると一般に言われるという。

 「禁煙補助薬は離脱症状をやわらげる。カウンセリングでは、つらさが続く期間を示し、次の目標をはっきりさせて不安を取り除く。並行して本人の禁煙意欲を支えている」と中村医師は話す。

 新薬やパッチの処方を含む禁煙治療を保険適用で受けられるのは、禁煙外来などがある約5200施設。日本禁煙学会のウェブサイト(http://www.nosmoke55.jp/)で調べられる。保険適用には喫煙期間やニコチン依存度が一定以上などの条件がある。(林義則)

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