昨今、事欠かすことがなくなった食品の安全問題。今度は日本人には欠かせない、さらに海外でも珍重される調味料で、JAS法(農林物資の規格化および品質表示の適正化に関する法律)違反の風が香川県内で吹いています。
朱塗りの蔵が特徴。歴史的に、また最近では街歩きでも東かがわ市のシンボルであるだけに早い解決を望みたい=07年3月、引田ひなまつりで訪れた際に(撮影:笠井 隆宏) 同社が製造するしょうゆのうち、製造時において日本農林規格(JAS)規格で使用が認められていない添加物のにがりを使用していたことや、再仕込みでの生揚げの使用など、主に製造プロセスにおける点を理由に「にがり入り」や「減塩」など4種類の製品に対して、中国四国農政局が表示除去命令と、原因究明と分析を行うよう改善命令を下しました。 1753年(宝暦3年)、8代将軍吉宗亡き2年後に創業という、香川県内では老舗に数えられるメーカー。 しょうゆの味を決める麹を筵(むしろ)の上で3昼夜、寝ずの番で育てる「むしろ麹(こうじ)法」と呼ばれる手作り製法が特徴。国内でこの製法を採用しているのは同社だけといい、全国から注文が殺到するほどの人気だそうです。 現在は17代目に当たる岡田佳苗常務が現場を仕切っている。同氏が後継者になって以降は、本業のしょうゆだけでなくソイソルト、ソイショコラとしょうゆ味の加工品を開発、しょうゆとともに全国区、地方区を問わずグルメやバラエティー、情報の各テレビ番組で紹介されたり、有名百貨店でも扱われたりするなど彼女の積極性がうかがわれます。 一線をリードすべく少し走り過ぎた一面があったのか。香川の県民性は「出るくいは打たれる」ということわざのように、業界間のやっかみで起きたものなのか。消費者、流通業界、さらに料理家まで、県内外で注目を浴びる企業だけにです。 ものづくりの原点から指導に反発、販売続行 今回の措置を受けて、常務(岡田常務)は指摘を受けた4種類の製品について、 ・先代から受け継がれる手作り製法が否定されたこと ・現在のJAS規格がしょうゆのあり方とずれていること などを理由に、数回立ち入り検査をしたにもかかわらず中国四国農政局からの指導に反発するという意外な展開。 社内で検討の結果、「ものづくりの原点から昔からの製法を続けていくにはJASマーク辞退もやむなし」との見解を示し、4月14日発送分の商品からはJASマークを削除するなどした新しいラベルでの販売を続けるという強気の姿勢を取っています。 背景には、どの業界にもある差別化を図るべく新製品を競うようにして開発しなくてはならない現状が一番にいえます。記者は製造プロセスについては分かりませんが、今回の改善命令のポイント、かつ消費者の関心事は「にがり」の扱いであると思います。 豆腐製造時には凝固剤として使われるにがりですが、しょうゆ製造にはJAS法で使用を認めていないという農林水産省と昭和40年代から海水から採った天然のものであるという業者側の主張が対立しています。 にがりは、平成16年に食品衛生法の改正で食品添加物に加えられ、当時、ダイエット効果ではやるも、過剰摂取は大変危険であることや誤飲による死亡事故が起きたことで厚生労働省が使用基準を設定しています。 さらに昨今の食の安全にかんするさまざまな問題をかんがみると、天然とはいえ使用はまずかったのではないだろうか。しょうゆは液体でじかに口に入るため、より危機感を訴える声も一部であります。記者が業者の立場なら、消費者の立場になって、行政指導に従い命令を真剣に受け止め、安全・安心を保つためにも当該製品が全国的に認知されるまで凍結期間を置くし、場合によっては製造中止も決めるだろう。なぜ、そうしなかったのか。 気になる消費者の動向 愛好家からは法律論で異論があるも同情論がある一方、中には「老舗という高いプライドがあるのでは?」(一般消費者)という声があるほか、「使ってはいけないものを使ってはダメ。もし取引していたら、はっきり“仕入れ拒否”(返品)する」(小売業者)ように、販売続行の点を指摘する声もある。また、記者の知る酒造業者は監督官庁が違うと前置きした上で、 「自分も新商品開発の折は、法律と抱き合わせで業界関係者や愛好家らの意見を聞くようにしているので、今回の対応は少しまずかったのでは? と感じます。しかし、農水省(中国四国農政局)も耳を傾けてほしかったですね。若気の至りでそうなったと察しますが、将来ある企業なのでこれを糧に成長していってほしい」 と、同じ醸造業者の立場としてエールを送っていました。 改善策のリポート提出期限は5月12日。買い物時は表示ラベルに注意を払うよう努めている記者も、消費者の1人として注視していきたいです。
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