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2008年04月18日(金曜日)付

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イラク判決―違憲とされた自衛隊派遣

 あのイラクに「非戦闘地域」などあり得るのか。武装した米兵を輸送しているのに、なお武力行使にかかわっていないと言い張れるのか。

 戦闘が続くイラクへの航空自衛隊の派遣をめぐって、こんな素朴な疑問に裁判所が答えてくれた。いずれも「ノー」である。

 自衛隊が派遣されて4年。長年、疑念を抱いていた人々も「やっぱり」という思いを深めたのではないか。

 航空自衛隊の派遣に反対する3千人余りの人々が派遣差し止めを求めて起こした訴訟で、名古屋高裁が判決を言い渡した。

 差し止め請求は退けられ、その意味では一審に続いて原告敗訴だった。だが、判決理由のなかで憲法などとのかかわりが論じられ、派遣当時の小泉政権が示し、その後の安倍、福田両政権が踏襲した論拠を明確に否定した。

 判決は、イラクの現状は単なる治安問題の域を超え、泥沼化した戦争状態になっていると指摘した。とくに航空自衛隊が活動する首都バグダッドの状況はひどく、イラク特措法の言う「戦闘地域」にあたるとした。

 小泉政権は、イラクのなかでも戦火の及ばない「非戦闘地域」が存在し、そこなら自衛隊を派遣しても問題ないと主張した。陸上自衛隊を派遣した南部サマワや、首都の空港などはそれにあたるというわけだ。

 判決はそれを認めず、空輸活動はイラク特措法違反と明確に述べた。空自の輸送機はこれまで攻撃を受けなかったものの、何度も危険回避行動をとったことを防衛省は認めている。実際に米軍機などが被弾したこともあった。判決の認識は納得がいく。

 もう一つ、多国籍軍の武装兵員を空輸するのは、他国による武力行使と一体化した行動であり、自らも武力を使ったと見られても仕方ない、つまり憲法9条に違反するとした。

 もともと、無理のうえに無理を重ねた法解釈での派遣だった。当時の小泉首相は、非戦闘地域とはなにかと国会で聞かれ、「自衛隊が活動する地域は非戦闘地域」などと開き直ったような答弁を繰り返した。

 判決後、町村官房長官は派遣続行を表明した。最高裁による最終判断ではないからということだろう。それでも、高裁の司法判断は重い。判決を踏まえ、与野党は撤収に向けてすぐにも真剣な論議を始めるべきだ。

 日本の裁判所は憲法判断を避ける傾向が強く、行政追認との批判がある。それだけにこの判決に新鮮な驚きを感じた人も少なくあるまい。

 本来、政府や国会をチェックするのは裁判所の仕事だ。その役割を果たそうとした高裁判決が国民の驚きを呼ぶという現実を、憲法の番人であるはずの最高裁は重く受け止めるべきだ。

米の脱温暖化策―世界を読めない大統領

 耳を疑う発表内容だった。ブッシュ米大統領は何を考えているのか。

 地球の温暖化を引き起こす二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出について、「2025年までに米国での排出量の伸びを止める」と表明したのだ。裏を返せば、これから17年間は排出増が続くのもやむをえない、という宣言といえる。

 米国は、先進国に排出削減を義務づける京都議定書から離脱したこともあり、排出総量の削減目標を掲げてこなかった。それを改めたのは大きな変化だといいたいのかもしれない。

 だが、温室効果ガスの排出増をいつストップさせるかについては国際社会の目安がすでにある。

 たとえば、去年暮れの国連気候変動枠組み条約締約国会議では「地球全体の排出量を10〜15年以内に減少に転じる」「先進国は2020年までに1990年より25〜40%減らす」という目標案が議論された。「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の試算にもとづく数値だ。正式な目標とはならなかったが、脱温暖化のための重要な目安となっている。

 耳を疑うのは、大統領がこうした議論の流れを無視しているからだ。

 米国は先進国の中の先進国だ。しかも、CO2排出量は世界最大を占める(05年の統計)。その国が先進国向けの目安を満たさないばかりか、世界全体の排出を減少に転じさせようとしている15年先にも、まだ排出を増やし続けているかもしれないとは。

 忘れてならないのは、これらの目安が、去年のG8サミットでの議論にもとづくものであることだ。サミットでは「50年までに世界全体の排出量を半減する」という目標を「真剣に検討する」と申し合わせた。目安は、その目標達成に必要とされる一里塚だ。

 米政権はその合意の一翼を担い、京都議定書第1期が12年に終わった後の枠組みづくりでは、国連の下での協議に加わるという路線へかじを切った。それが本気だったのか、と問いたくなる発表である。

 「ポスト京都」の話し合いでは、今は途上国扱いで削減義務がない大排出国の中国やインドなどに、排出抑制の枠組みに加わってもらえるかが最大の懸案となっている。そんなときに米国がこんな消極姿勢を示すのでは、中印などに負担を求めるのは難しい。

 来年初めにブッシュ政権が終われば米国は変わる、という期待は強い。たしかに次の大統領になろうとする3人は、だれも現大統領よりは脱温暖化に熱心のように見える。

 だとしても、それまでの時間を空費してはいられない。

 脱温暖化がテーマとなる洞爺湖サミットには、大統領をめざす候補たちも呼ぼうではないか。

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