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チャイナ・ハンズが見る日本―C―(2008/4/14)

ソウルの国会前広場で行われた就任式で、拍手に応える李明博大統領=2月25日〔共同〕
 「中国は北朝鮮を領土に組み込む。となれば、韓国も中国の強い影響を受ける。朝鮮半島全体が中国の勢力圏に入る」――。日本人に対し、こう断言してみせる韓国人が最近、急に増えた。

「北朝鮮は早期崩壊」

 理屈を聞くと、彼らは以下のように説明する。

 「金正日政権の崩壊は近い。その際、中国は軍を送り、朝鮮半島の北半部を我がものとするだろう。中国に直接に接することになる韓国は軍事的圧迫感から『中国の言うこと』を聞かざるを得なくなる。結局、中国の支配力は半島全体に及ぶ」。

 確かに「北朝鮮の早期崩壊説」があちこちで語られている。昨年5月に金総書記が心臓病の手術を受けたことが西側の確かな筋でも確認されている。この後「軍や労働党など執権層がそれぞれに次のトップを担いで争い始めた」と見る専門家が増えた。

 食糧難にも拍車がかかる。昨年の収穫量は相当に落ち込んだ模様だし、国際的な食料価格高騰で輸入量も減らさざるを得ない。金正日総書記が存命中に内部混乱から北の体制が崩壊する可能性も出てきた。

 確かに、北が混乱すれば中国が軍を送る可能性が大きい。ただ、韓国人が懸念するように中国が単独で派兵することになるかは疑問だ。治安維持部隊は複数国が送るのが常識だ。韓国も米国も、ひょっとすると日本でさえ同部隊を送ることになるかもしれない。だから、この部分に関する韓国人の断定は相当に怪しい。

 そして「中国が北半部を支配する」のも疑問だ。確かに、中国の影響力は増すだろう。だが、韓国人の言うように「北半部も中国領に組み入れる」ことはまずないだろう。韓国人・朝鮮人の抵抗心の強さは中国人が一番知っている。直接支配のコストの大きさを考えてそれは避け「中国に友好的な政府」の樹立を狙う、と考えるのが普通だ。

 そもそも、北朝鮮を中国領に組み込めば、地続きの吉林省・延辺朝鮮族自治州と合体せざるを得なくなる。「少数民族はできる限り分断して統治する」という中国の支配の常道からはずれる。

中国牽制役を期待

 なぜ韓国人はそんなに誇張した主張を、なぜ今、なぜ日本人に語るのだろうか。さらに話を聞くと、謎が解けてくる。彼らは最後にはこう付け加えるからだ。

 「韓国までもが中国の勢力圏に入るのを日本は黙って見ているのか。それが嫌なら、中国の北支配構想を日本は阻止せよ」。

 要は「中国をライバルと考える日本人をして、朝鮮半島で着々と勢力を扶植する中国を牽制させる」のが韓国人の狙いなのだ。

 もちろん米国人に対しても「中国の構想」を語ってはいるようだ。ただ、米国は中東に足をとられアジアに目を向ける余裕がなくなっている。ことに、韓国がこの5年間、反米親中の旗を掲げたことから、米国人の韓国に対する思いはすっかり冷めた。

 韓国人もそれに気づいている。「朝鮮半島に嫌気した米国は、この地域を中国に仕切らせた方がいい、と考え始めた」とまで踏み込んで解説してくれる人もいる。結果、米国人に頼むよりも、より中国に対抗心を燃やすと思われる日本人に牽制役を期待する人が出始めたのだろう。

新・釜山赤旗論

 口角泡を飛ばして「中国の陰謀」を指弾する韓国人を見ていると、冷戦期に韓国人が好んで語った「釜山赤旗論」を思い出す。

 「韓国が貧しいままだと社会主義化する。左翼が支配する韓国は当然、ソ連と深い関係を持つ。ソ連極東艦隊は釜山を母港化し、日本海から太平洋を自由に遊弋することになる。日本はそれでいいのか。嫌なら、韓国をもっと助けろ」。

 ただ、冷戦期と大きく異なる点もある。今は、韓国が米国や日本という「海洋国家」側に立っているわけではないことだ。韓国の指導層から、時々、こんな声も漏れる。

 「日本は中国に対抗しようと考えてはいけない。日本が中国に従っておけば、東アジアに争いは発生しないではないか」。

 日中が争えば、当然、韓国に被害が及ぶ。例えば、韓国の支配を巡って争われた日清戦争は朝鮮半島が戦闘の舞台となった。日清から日露戦争にかけては、新興国、日本に頼って中国から独立を果たそうという韓国人と、永年の宗主国、中国についていくべきだとする韓国人が内部抗争を引き起こし、国論が分裂した。韓国にとっては「国を割らない」ためにも「海洋勢力」と、大陸国家である中国が対立しては欲しくないのだ。

 結局、韓国にとって「一方が半島で決定的な力を持てないよう、日中が牽制しあう」のが望ましい。しかし、その度が過ぎて激しい対立に至っても困る」ということなのだろう。


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<以下は2003年までの掲載分>  

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