現在位置:asahi.com>社説

社説天声人語

社説

2008年04月16日(水曜日)付

アサヒ・コム プレミアムなら社説が最大3か月分
アサヒ・コム プレミアムなら朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しく)

イタリア総選挙―政治こそ新陳代謝がいる

 日本とイタリアの政治は似ていると言われる。

 猫の目のように交代する首相。政権党で相次ぐ汚職、腐敗……。第2次大戦後の長い間、自民党とキリスト教民主党という保守政党がともに政権を握り続けてきたのは、類似性の最たるものだ。

 そんなイタリアで今週、総選挙があり、2年ぶりに政権交代が実現した。中道右派が勝利し、ベルルスコーニ前首相(71)が3度目の首相につく。

 戦後63年にして62代目の首相だというから驚く。頻繁な首相交代の歴史を物語っている。

 ベルルスコーニ氏はサッカーチームや新聞・テレビ会社を持つ大富豪として知られる。汚職疑惑で捜査を受けたこともあるが、豪放な政治スタイルには人気がある。経済の低迷で中道左派のプロディ政権に有権者の不満が高まっていたのをうまくすくい上げた。

 中道左派は、前ローマ市長のベルトローニ氏(52)を代表にかついだ。元共産党出身のインテリで、ベルルスコーニ氏とは対照的な人柄だったが、及ばなかった。

 今回の政権交代は、90年代以降で5回目になる。短命に終わった細川政権をのぞけば、冷戦後も自民党が権力の中核を握る政権が続いてきた日本とは、ずいぶんと違う。

 選挙制度は、両国ともに冷戦後、小選挙区制を導入した。長く続いた一党支配時代から脱却しようとの狙いだったのも同じだった。その後、イタリアは3年前に比例代表制に転換した。

 社会の成り立ちや政治風土が違うのだから、同じ政治展開にならなくても不思議はないのかもしれない。それにしても、日本では政権交代のハードルが高いことを思わざるを得ない。

 20年足らずで5回も政権が交代すれば、政治は混乱するに違いない。日本から見るとそう思いがちだが、イタリアの有権者たちはあまり深刻に受け止めていないようだ。

 むろん、政権が交代しても低迷していた経済などがバラ色になるわけではなかろう。しかし、政治が行き詰まりを見せれば、総選挙で民意を問い、政権の担い手を変える。政治の新陳代謝である。その仕掛けがこの国に定着したのは間違いない。

 欧州連合(EU)の存在も見逃せない。経済や社会保障などの政策選択の幅が狭まり、政権交代の混乱や不安を和らげているのだろう。安全保障面では、北大西洋条約機構(NATO)という米欧同盟の基盤がある。

 自民党政権の耐用年数は過ぎたと言われて久しい。なのに、なかなか政治の刷新が起こらない。閉塞(へいそく)感を打破するのに必要と思えば、有権者はすかさず政権を交代させる。そんな政治が、ちょっと、まぶしく見える。

震災時の帰宅―「急がば待つ」ためには

 平日の昼間、自宅から離れた職場や学校、外出先で大地震に襲われたら、あなたはどうするだろう。

 とっさに家族のことが頭に浮かび、早く家に帰りたいと思うにちがいない。交通機関はおそらく、すべて止まっているはずだ。それならと、みんなが歩き出す。

 すると、どんなことが起きるか。

 中央防災会議の調査会が、東京湾北部を震源とする阪神大震災並みの直下型地震という想定で、混雑を予測した。この想定では、震度6〜7の激しい揺れで85万棟が全壊し、死者は約1万1千人にのぼる。火災も各地で発生し、道路は寸断される。

 地震の発生時に自宅を離れている人は首都圏で約1400万人。アンケートをもとにした予測では、約1250万人が家に向かって歩き出す。うち約200万人が1時間に400メートルも進めない満員電車並みの混雑に3時間以上巻き込まれる。将棋倒しになる恐れもある。想像を絶する事態だ。

 しかし、全員が3時間以内にバラバラに帰れば、この200万人は約2割減る。3分の1の人が1日待って翌日帰ることにすれば、混雑は半減する。時差帰宅の効果はきわめて大きい。

 そうはいっても、家族と連絡がつかなければ、じっとしておれないだろう。どのようにして家族と連絡を取り合うか。家族と連絡が取れれば、1〜2割の人が帰宅を思いとどまると予測されている。

 大地震では、普通の電話は固定式も携帯もほとんどつながらなくなる。NTTの災害伝言ダイヤル「171」や「災害用ブロードバンド伝言板(web171)」、携帯やPHS各社のネット上の伝言板を活用したい。

 毎月1日に、これらのシステムを試せることをご存じだろうか。家族で連絡の取り方を確認しておきたい。

 同時に、帰宅を遅らせた人が待機し、場合によっては一夜をすごせる場所も必要だ。会社などで備えをすることはもちろん、駅や公共施設、商業ビルなども待機場所として生かすことを考えなければならない。

 家にいる人の安全のためには、耐震補強や家具の転倒防止策を施しておくことが必要だ。それがあわてて帰宅しなくてもいいことにもつながる。

 今回の予測には入っていないが、子どもや家族の安否を確かめるため、自宅から学校や職場に向かう人も少なくないだろう。帰宅する人たちとぶつかれば、道路はいっそう混雑する。

 道路の状況について情報が手に入れば、混雑はぐんと減る。正確な情報をいち早く届けるためには、携帯に一斉通報するような仕組みも必要だ。

 大地震はいつどこで起きるか分からない。全国の都市で、備えに十分すぎることはない。

PR情報

このページのトップに戻る