<せんぱばんぱ>
食料輸入が途絶えたらどうするか。
それに備えて農林水産省は「不測時の食料安全保障マニュアル」というのを用意している。コメや野菜の生産は最小限にし、ひたすらイモを作る。それによって、昭和20年代後半のカロリーを確保するのである。
献立が例示してある。朝食は茶わん1杯のご飯、ふかしジャガイモ2個、ぬか漬け1皿。昼食は焼きイモ2本、ふかしジャガイモ1個、リンゴ4分の1。夕食はご飯を茶わん1杯、焼きイモ1本、焼き魚1切れ。
これに加え、肉が9日に1回、たまごが7日に1回、牛乳が6日にコップ1杯など。みそ汁は2日に1杯飲める。
啓発にしては脅迫めいているな。さりながら、昨今の穀物の急騰をみると、世界は「非常時」に突入した感が深い。
長粒種のインディカ米だから、日本人には切迫感がないが、標準タイ米が1トン=約300ドルからここ数カ月で800ドル近くになった。早晩1000ドルともいう。
需給の逼迫(ひっぱく)をみて生産国が次々とコメの輸出制限に踏み出した。気味の悪い動きだ。エジプト、カンボジア、ベトナム、インド、中国、パキスタン。自国民優先だ。
コメに先立って急騰した小麦でもウクライナ、アルゼンチン、ロシア、中国、カザフスタンなどが輸出規制している。
引き金は天候不順による不作だった。しかし、背景には構造的な需給の逼迫があるから、「非常時」が恒常化していくのかもしれない。まさか、三度の食事がイモばかりということはないと思うけれど……。
需給の緩和に決め手はない。しかし、ブッシュ米大統領の音頭とりによるエタノール増産をやめれば、かなりマシになるのではないか。
あれは現状では、食料を燃やして車を走らせようという試みだ。人性に反していかがわしい。自然に逆らうからゆがみが出るのだ。(論説室)
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毎日新聞 2008年4月13日 東京朝刊
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