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海底の放置漁具、日本海で深刻化 韓国の密漁船投棄か

2008年04月13日14時05分

 水産資源に多大な影響を与えかねない漁具の海底放置が日本海で深刻化している。大半は、日本の排他的経済水域(EEZ)に入り込んだ韓国の密漁船が置き去りにしたものとみられる。放置漁具は漁船の操業の妨げになるだけでなく、人知れず捕まった魚が死んでしまう「ゴーストフィッシング」(幽霊漁業)の原因になるため、日韓両政府は9年前から協議を続けているが、目立った改善は見られない。しびれを切らした日本側漁業団体は今年、実態を正確に把握するための調査に乗り出した。

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港では漁船の網にかかったアナゴ筒などの放置漁具が山積みに=山口県下関市の下関漁港

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 ■掃除しても掃除しても

 「1日に何度も何度も何度も引っかかる。仕事にならん」

 下関漁港(山口県下関市)を基地にする山口県以東機船底曳網(そこびきあみ)漁業協同組合の宮本光矩(みつのり)組合長は、漁船が持ち帰ったごみの山を前にため息をついた。貝漁に使われるかごやアナゴ漁用の黒い筒など海底に放置された漁具が目立つ。

 同組合の漁船は同県沖から対馬海峡付近の海域で2隻1組になって網を引っ張り、百数十メートルの深さの海底をさらうようにしてアンコウやアカムツ、カレイなどを捕獲する。そのたびに、放置されたアナゴ筒などが引っかかる。ほとんどは韓国漁船が使っているものだという。筒の口は狭まっており、一度アナゴが入ると出られずに死んでしまう。

 山陰沖などで底引き網漁やベニズワイガニ漁をしている但馬漁協(兵庫県香美町)は99年以来、夏の休漁期に海底清掃を続けている。昨夏の作業で回収したかごや網は真新しいものが多かったという。担当者は「苦労して清掃しても、どんどん新しいものが入ってくる。よく漁具が続くなと思う」と苦笑する。

 石川県漁協によると、05年には大量のかごが海底に放置されたため、底引き網漁船が漁を断念して別の漁場に移らざるをえなくなったケースもあったという。長崎県の対馬は大量の漂着ごみに悩まされているが、近年は韓国製のアナゴ筒が目立ち、定置網に引っかかることもあるという。

 ■東京―福岡2往復半

 刺し網4535キロメートル、バイ貝漁用のかご30万796個――。日本と韓国が共同で管理する日本海の「暫定水域」東側や南側に隣接する日本のEEZで、00年以降に回収した漁具の総量だ。水産庁国際課が今年1月に発表した。刺し網の総延長は東京―福岡間の2往復半に相当する。

 同課によると、日本では使われない漁具で、韓国の密漁船が仕掛けたとみられる。取締船に見つかると網やロープを切断して逃げるため、そのまま放置される。かごや網はブイを付けずに下ろすため、回収しきれずに残るらしい。

 貝漁用のかごには生育途上の小さなカニもかかる。同庁はかごと刺し網によって、07年だけで100トンのズワイガニとベニズワイガニが死んだと推計している。違法操業が後を絶たないのは、「暫定水域よりも日本のEEZの方が資源が豊かだということが背景にある」とみている。

 水産庁は99年から、密漁取り締まりなどに関して韓国政府と協議を始め、取締船の配置などを求めてきた。民間の漁業団体同士でも操業ルールを話し合い、日本側の全国底曳網漁業連合会などは海底清掃によって放置漁具の数量を把握してきた。これを同庁が公表したのは今年が初めて。改善がみられないことに業を煮やした格好だ。

 同庁所管の財団法人「日韓・日中新協定対策漁業振興財団」は1月から、放置漁具の種類や位置について調査を始めた。底引き網漁の組合などから引き揚げた種類や量、漁場の位置などの報告を詳細に求め、できるだけ正確に把握する。同庁は「調査結果を政府間交渉に活用することも検討している」と話している。(島津洋一郎)

     ◇

 〈放置漁具の問題に詳しい鹿児島大の松岡達郎教授(国際漁業管理)の話〉 ゴーストフィッシングは世界的に研究が進みつつあり、現段階では、魚種によっては漁獲高の5〜20%が被害を受けているという研究結果が多い。日本でも被害の実態が明らかになってきた。日本海の放置漁具の問題は複雑だ。日本、韓国、中国など多国間で水産資源を共同管理する組織を作り、対策を考えていくべきだ。

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