チベットをめぐる認識ギャップ 西側はそう見るかと中国、怒る――フィナンシャル・タイムズ

2008年3月25日(火)12:05
  • フィナンシャル・タイムズ
(フィナンシャル・タイムズ 2008年3月19日初出 翻訳gooニュース) リチャード・マグレガーとジャミル・アンダリーニ

中国の外から、特に欧米の視点からチベット暴動を見ると、それは長年の残酷な宗教的・文化的圧制に耐えかねた人々による、自発的な決起に思える。

しかし中国の中から見えるものは、全く違う。チベットの抗議行動は中国国内では、暴徒による騒乱として伝えられている。北京の政府が長年支援してきたというのに、感謝知らずの不逞の輩が亡命中のダライ・ラマにいいように操られて、国の分断を図っているのだと、そう伝えられているのだ。

こうした認識ギャップのせいで、中国では根深い反発と憤りが生まれている。そしてさらに、この問題が8月開催の北京オリンピックに影を落としかねないだけに、中国国内は憤慨しているのだ。

中国人民大学の時殷弘(シ・インホン)教授は、中国はチベットの発展にこれまで大いに努力してきたと説明。また、中国共産党によるチベット統治の初期には色々な問題があったが、今では信仰の自由は保障されていると話す。

「チベットで先週おきたことは、あまり理想的なことではなかった。どの政府も、最低限の法と秩序と安全を市民に提供できなくてはならない」と時教授。

中国政府によるプロパガンダは、外国人からすると呆気にとられるほどお粗末に聞こえる。たとえば、中国チベット自治区の張慶黎・党委書記はチベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世を「人面獣心の化け物」と呼んだ。しかし中国内の感覚では、こういう表現はそうそう的外れにも聞こえないのだ。

張党委書記の暴言と似たり寄ったりのコメントが、中国最大のポータルサイト「sina.com」などのインターネット掲示板に掲載されている。比較的穏やかなものでさえ、「ダライ・ラマを支持する国は、テロ支援国のブラックリストに入れろ!」(19日掲載)という具合だ。

中国では、メディアやインターネットの統制が厳しく(特に、センシティブとされる話題について)、世論調査や選挙がない。このため、世論の動向を測るのは難しい。

しかしこのほどフィナンシャル・タイムズと意見交換してくれた中国の人たちは(どの人も北京在住の高学歴で高収入の芸術家やビジネスマンだ)一様に、チベット人の主張に非同情的だった。彼らは口々に、軍隊の投入が「唯一の対応だ」と述べた。

集ってくれた中国人はみな、チベット暴動について国営テレビが放送したニュースしか見ていないと認めている。中国の国営放送は、緋の衣をまとった僧侶を含めたチベット人たちが、ラサで略奪や放火に走ったり、漢民族の中国人を殴ったりする姿を赤裸々に放送。一方で中国政府がこれにどう対応しているか、その映像は放送されていない。

集った中国人たちと18日、生中継された温家宝首相の記者会見を観た。「アメリカ人や外国人はいつも、中国を痛めつけようとしている」というのが、典型的な反応だった。

記者会見で質問が許された外国人記者はほとんど全員、チベット問題について質問したが、そのたびに、中国人記者や政府関係者から大きな落胆の声が上がったのだ。

ふだんは中国共産党のやりように激しく批判的な北京在住の知識人でも、チベットについては、中国が「解放」するまでは「奴隷」だったのに、感謝するどころか恩知らずで、中国に対して暴力的だと話す。「中国なしでどうやってチベットが国家として成立するというのか? 解放前は食べるものもなかったというのに」

国家主権の問題は、中国共産党を支持するしないを超えて、中国人としての国民的アイデンティティの根幹部分にかかるテーマだ。ほとんどの中国人にとって、彼らに「チベットは独立すべきだ」と主張するのは、アメリカ人に「テキサスは独立すべきだ」と主張するようなものなのだ。

動画投稿サイトYouTubeに掲示された、ある罵詈雑言まみれの投稿ビデオは、「チベットは過去も今もそして未来も、常にいつまでも中国の一部」というタイトル。全ての欧米人がカナダ、ニュージーランド、オーストラリアとアメリカから退去しない限り、中国はチベットを出て行かないと怒りまくって主張している。

チベットに詳しい米コロンビア大学のロバート・バーネット氏によると、ここ数年は中国で仏教をはじめ宗教全般への関心が高まっていたので、チベット人のものの見方と中国人のものの見方のギャップが埋まりつつあったという。

「しかし今回のこの事態で、ギャップは再び拡大してしまうだろう」とバーネット氏。さらにダライ・ラマ自身の戦略にとっても今回の暴動は大打撃だと指摘する。

「(ダライ・ラマは)これまで常に、何より重要なのは中国人から支援されることだといい続けてきた。しかし今や、全く逆方向にうねる政治の波に、必死に抗わざるを得ない羽目になっている」



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(翻訳・加藤祐子)





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