現在位置:asahi.com>ビジネス>経済を読む> 記事

白川日銀、タカ派の気配 利上げ志向強まる?

2008年04月10日

 日本銀行の新しい総裁に昇格した白川方明氏は「日銀きっての理論家」とされる。片腕となるべき副総裁を1人欠いたまま、理論を武器に、どう金融政策を運営するのか。「苦手」とされる政治とは、どんな関係を築くのか。

写真

副総裁から昇格、記者会見にのぞむ日銀の白川方明新総裁=9日午後7時57分、東京都中央区の日銀本店、細川卓撮影

■量的緩和「効果なかった」

 あなたは利上げ志向の「タカ派」か、それとも利下げ志向の「ハト派」か。就任会見でそう問われた白川氏は趣味のバードウオッチングに絡めて「そういうラベルは鳥に可哀想だ。その時その時の金融情勢に応じてどう考えるかが大事で、タカ、ハトとなかなか分類できるものではない」とかわした。

 ただ、白川氏の言葉に耳をすます市場関係者からは「白川日銀はタカ派傾向が強まるのではないか」との声が出る。例えば、名目の金利からインフレ率を差し引いた「実質金利」はかなり低い、との発言。日銀が動かす政策金利はいま年0.5%だから、足もとの物価上昇率を考えれば実質ゼロ金利ではないか、という主張のようだ。

 野村証券金融経済研究所の木内登英経済調査部長は「柔軟に政策を運営しようとした福井俊彦前総裁に比べれば、金融緩和に慎重な純粋な日銀マンという印象が強い。市場には一時、利下げが近いとの見方があったが、そんな期待はここにきて後退している」と話す。

 白川氏は近著でも、超低金利政策への疑問をのぞかせる。例えば、日銀が06年まで続けた量的金融緩和の景気刺激効果について「量の拡大はほとんど効果を発揮しなかった」と指摘。量的緩和の拡大を進めた福井前総裁とは色合いの違いを見せる。

 白川氏がそんな姿勢をとる背景の一つには、資産バブルへの警戒感があるようだ。9日の会見でも、日本の80年代のバブルや近年の米国の住宅バブルを引き合いに「金融政策がバブルを生んだと短絡的に考えてはいない。しかし、経済の不均衡がただちに物価に表れにくいなかで資産価格が上がっていくことは、しっかり考えていく必要がある」と述べた。

 7人の政策委員会で、はっきりしたハト派は西村清彦副総裁ぐらい。ハトに傾きがちな財務省の出身者は結局入らず、新体制の運営は単線型になる可能性もある。

■苦手な政治、どうつきあう

 政府の風圧を受けながら進める政策も、足並みをそろえる政策もある。政治との関係をどう築くのかも課題だ。

 白川氏は日銀内の役職は企業の執行役員にあたる理事が最後で、その後の1年半余りは京大大学院の教授。福井前総裁のように副総裁や財界活動で政治と接した経験はない。「対外経験を十分に積んでいるとは言えず、不足している部分は一生懸命努力したい」と言う。

 副総裁候補だった渡辺博史・前財務官は不同意となり、財務省人脈も使えない。ここでも、元財務事務次官の武藤敏郎前副総裁に支えられた福井氏とは差がついた。

 異なるのは人脈だけではない。「理屈ではない。政治的に考えろ」。福井氏は03年の就任間もないころ、日銀幹部にこう思考の転換を迫ったという。00年のゼロ金利解除などで悪化した日銀と政治との関係修復が念頭にあったようだ。いま、白川氏は「正しい政策判断があって初めて、(対外的に)コミュニケーションができる」と言う。

 政治との距離感を逆手に取るべきだとの声もある。クレディ・スイス証券の白川浩道チーフエコノミストは「白川氏なら財政再建など、福井氏が避けてきた問題を政府に率直に問題提起できる。民主党の支持が得られれば、政府と対立しても議論が健全な方向に進む可能性がある」と期待している。(有田哲文、中川仁樹)

PR情報

このページのトップに戻る