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聖火 走る大警備線

2008年04月08日00時43分

 ロンドンで抗議行動の「波状攻撃」に見舞われた北京五輪の聖火リレーは7日、パリに入り、再び激しい抗議にさらされた。走者は国家元首並みの警備に囲まれた。注目を集めてアピールしたい人権団体、聖火を守ろうとする中国、中国への反発が強い国内世論をにらむ英仏政府。思惑を乗せて聖火が進んだ。聖火は月末、日本にやって来る。

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パリのエッフェル塔近くで7日、聖火リレーが通過する通りに乱入し、警察に排除される男性=飯竹恒一撮影

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物々しい警備の中、パリのエッフェル塔近くを通過する聖火リレー(ロイター)

■警官隊200人「国家元首並み」

 4月には珍しく前日降った雪が一部に残るパリの街で、聖火リレーは最初から大荒れとなった。

 仏警備当局の聖火への警戒は「国家元首並み」。15台のオートバイ隊を先頭に約50台の機動隊などの車両が走者の前後を固め、左右は警察ローラースケート隊など計200人が並走してスタートした。一団は計約400人を超え、走者がどこにいるかわからないほど。全行程の警備は3千人態勢。警戒ぶりだけは一見万全のように見えた。

 しかし、中国の人権状況に抗議する人々が沿道に集結。出発直後から妨害を試みて拘束される人が相次いだ。エッフェル塔を望むトロカデロ広場にも数百人の在仏チベット人やその支援者らが集まった。チベットからの難民リンチャン・ペマさん(32)は「選手が五輪に参加するなとは言わないが、首脳は開会式に出るべきでない。スポーツと政治は切り離せない」と話した。

 一方、中国の国旗を持った支援者らも多数集まり、チベット支援者側と小競り合いを続けた。オランダ在住の中国人男性(28)は「チベットに様々な問題があるのはわかっているが、スポーツの祭典を政治と混同すべきではない」と話した。

 聖火リレーは何度も立ち往生。結局バスでの移動などに頼らざるを得ず、一部区間は走行が中止に。沿道には抗議の人々と警備陣が目立ち、4年に1度の祝祭の空気はなかった。

 抗議行動は、前日のロンドンでも警備側の予想を上回っていた。沿道から次々と飛び出す抗議者に手を焼いた英当局は、途中から3重の守備陣形に切り替えて乗り切った。走者の周りに中国が派遣した警備担当者約10人。開催国が警備当局者を聖火が通る国に派遣するのは過去にも例があるが、今回は異例の多さだ。その外側をロンドン警視庁警官約15人が取り巻き、さらにその外を警官約50人が囲んだ。沿道から走者はまったく見えず、大男の警察官らが雪の中をマラソンする光景となった。

 ロンドンで身柄を拘束されたのは37人。多くはチベット問題など中国の人権軽視に抗議しようとした市民のようだ。英国では今回のリレーを「非民主主義国の政府の宣伝活動」と批判的に見る空気が強く、メディアの多くも抗議行動を支持する論調が目立った。

■人権団体、絶好のアピール 英仏政府、世論を意識

 人権団体などが今回の聖火リレーを最大限に利用して中国への国際的な批判を巻き起こそうとしているのに対し、英仏政府は複雑な対応を迫られている。両国とも中国に批判的な国内世論を抱えているからだ。中国政府は関係国に警備強化を求めているが、厳しすぎる警備はさらに反発を生む懸念もある。

 「国境なき記者団」のロベール・メナール事務局長は聖火リレーの前から「パリで行動を起こす」と予告していた。同団体は五輪の北京開催決定時から、「手錠の五輪」のポスターを配るなどしてきたが、なかなか注目を浴びなかった。聖火リレーは、国際的アピールの絶好の機会ととらえ、3月24日のギリシャでの採火式で行動を開始した。

 胡錦濤国家主席に開会式出席を約束していたサルコジ仏大統領は、チベット自治区の騒乱後、国内世論に押されるかたちで出席見合わせの可能性を示唆。閣僚も中国に厳しい発言で続いた。国内向けにあえて強硬な姿勢を示そうとしている、との見方も多い。

 英国も、国内と中国向けで対応を使い分ける。次の開催地がロンドンという事情もあり、英政府はスポーツ相が開会式に、ブラウン首相が閉会式に参加する。だが、6日に聖火リレーを官邸前で出迎えた同首相は翌7日、「中国の指導者と会うときはいつも人権問題を取り上げてきた」ともコメント。歓迎ぶりが批判を招くのを意識したようだ。

 中国の新華社通信は7日、ロンドンの騒ぎを「卑劣な行為」と非難。同時に「公安当局が、妨害しようとした少数のチベット独立派を逮捕した」と、一部の勢力による違法行為だと強調した。中国は「過去の聖火リレーも妨害にあった」と繰り返している。北京五輪固有の問題ではないことを強調し、国内の動揺を抑える狙いをうかがわせる。

 中国は、「通過国当局に順調なリレーを保証する義務がある」との立場で、各国に警備態勢の強化を求めたという。しかし北京の外交筋は「国内世論もあり、各国政府は追い込まれている。中国側の賢明な対応を望むというのが本音」と明かす。

■長野警戒、マニュアル作成も視野

 26日に聖火リレーがやってくる長野市。観光名所の善光寺からスタートし、長野五輪の競技会場を回る約18.5キロのコースが予定されている。同市などでつくる「聖火リレー長野市実行委員会」は「ロンドンでの抗議活動は織り込み済み。日本では、リレーそのものを妨害する活動は考えにくい。慌てず、準備を進めるだけ」と今のところ冷静さを保っている。

 だが、世界各地で次々と妨害活動が続いていることから、警備を担当する警察当局は警戒を強め始めた。県警の担当者は「聖火が消えたら大変」と不安を漏らし、「住民や観光客の安全とともに、聖火の安全も考えなければいけない」と力を込める。

 関係者によると、チベット騒乱に対する人権団体のデモのほか、中国政府が非合法化している気功集団「法輪功」のメンバーも訪れる可能性がある。また、右翼団体も「北京五輪反対」を訴えて街宣活動を始めた。ある警察幹部は「ロンドンでは聖火ランナーに接触を許した。沿道の警備を固める必要がある」と話す。

 警察当局は当初、交通規制で対応する予定だったが、計画は抜本的な見直しを迫られている。フランスや米国での状況を見た上で、他の都道府県警に応援を要請するかどうかも含めて検討する。

 日本オリンピック委員会(JOC)も妨害行為があった場合に備えて「危機管理マニュアル」の作成も視野に入れ始めた。ある職員は「聖火リレーは、北京五輪を盛り上げたり、楽しんだりするイベントではもうなくなっている。滞りなく終わってほしいというのが正直な心境です」と語った。

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